第二章 先行研究

 

 これまで高齢者とICT支援の研究として、いくつかの事例研究が行われている。そのうち富山県山田村の事例、島根県奥出雲町の事例、山口県の事例をとりあげ、その知見を整理したい。

 

第一節 高齢者とパソコン  〜富山県山田村の事例〜

 

 富山県婦負郡山田村では、平成8年に国土庁の「地域情報交流拠点施設整備モデル事業」として、村内全戸を対象に希望世帯にパソコンを無償貸与したことで、一躍、全国的に有名になった。この事業の主な目的は、「情報化」による村おこしである。

 

 【成果】

 目に見える効果として、村自体がマスコミに注目されるそうになって活性化した。また、内部的な成果として、全国区の村となったことで、「故郷に誇り」を持つ人が増えて、今の子どもたちは、山田村に「帰ってきたい」というようになったという。

 小松・小郷(1999)は、山田村が情報化を進め、かなりの実績を残してきたことには、

1.導入当初にリーダーシップを持った人材がいたこと

2.住民組織の基盤があったこと

3.役場が住民主体の態度をとってきたこと

4.ボランティア精神の学生や社会人が村に強く関心を示した

など、村内と村外の両面から要因が考えられると述べている。

 

【支援】

 山田村では、パソコン利用を促進するため、いくつかの支援を行った。

まず、村民のパソコンの活用を促すために、村民主体の活用支援グループとして「パソコンリーダー」を組織していた。各集落からそれぞれ2~3人ずつをパソコンリーダーに任命し、各集落の村民に対し、家庭のコンピュータトラブルや相談相手となっている。行政は研修を行いスキルアップをはかり、新たな技術を習得させ村民に還元する。

 高齢者は「身近なパソコンリーダーから技術的な支援や相談相手となってもらうことで、集落内の人と人との結びつきが深まったり、専門家に聞きにくい簡単な基本事項も日常会話的に聞きやすい」と述べており、パソコンリーダーが高齢者のパソコン利用に効果的であることが分かる。

また、村民の情報化リテラシー向上のため情報センターにてパソコン講習会を実施している。内容は電子メールの利用、ホームページの作成、コンピュータのトラブル処理、画像作成、ワープロなどである。

 1998年夏から「高齢者やさしいパソコン教室」がスタートした。高齢者向けの丁寧でゆっくりしたペースの指導方法は、多くの高齢者に受け入れられ、期待以上の大きな成果が得られた。

 

【高齢者のパソコン利用】

 佐々木・横山(2002)は、山田村の住人20名についてコンピュータ利用状況についてインタビュー調査を行った。

佐々木・横山(2002)は、高齢者にパソコンを配布した成果として、パソコンを介しての交流が高齢者の存在感の確立に役立っていることがあげている。例えば、高齢者の知識・技能・経験をボランティア学生に教え、コンピュータの操作を習うという知識交換や、ホームページを使うことで個々人の知識・技能・経験を地域で共有することが出来ることだ。

対して、高齢者のパソコン利用に関しての問題点がいくつか挙げている。

まず、パソコンを各家庭に導入した当初は、視察や取材が殺到し、高齢者がパソコンに向かう風景ばかりが取り上げられたが、実際は、高齢者のパソコン利用は期待したほどには成果を上げられなかったということである。配布されても、使わずに箱に入ったままであったり、若い人だけが使っているというケースも徐々に表面化し、この調査で、コンピュータを利用していないと回答があった4名は、70歳以上の高齢者であり、すべて高齢者のみの世帯であった。利用しない理由は、ローマ字が分からない、操作が面倒そうである、講習会に行く時間がないなどがあげられた。

次に、そもそも高齢者のみの世帯は、コンピュータへの期待感が乏しかったり、抵抗が大きい。また、パソコンの利用が家計を圧迫するといった金銭的な問題も関係して、高齢者世帯は配布を希望しなかったということである。

よって、コンピュータ利用率を高めるためには、特に高齢者単独世帯への対策が最も重要であると考えられる。

 

 

 

第二節 高齢者とテレビ電話 〜島根県奥出雲町の事例〜

 

 島根県奥出雲町で20091月より、テレビ電話と専用のコールセンターを整備して、高齢者世帯に対する声がけ・見守り・健康管理・買い物支援、そして在宅医療などを含めた地域ぐるみの高齢者支援の取り組みを行っている。

町内の一人暮らし高齢者世帯(75歳以上, 600世帯)の他に、民生委員宅や在宅介護機関、医療機関、役場などの公共施設、町内商店に操作が簡単で多機能テレビ電話を設置するとともにコールセンターを整備した。テレビ電話本体は、固定電話にモニターが接続されている形で、高齢者が使いやすいように配慮されている。

【身近な人とのコミュニケーション】

 野田・賈 2011)のアンケート調査によると、導入直後は民生児童委員やお友達など、身近な人とのコミュニケーション手段としてテレビ電話が利用され、2009年から2010年にかけて満足度も上昇していった。しかし、2011年には満足度が約半数の29%に激減した。理由として、導入当初は物珍しさでテレビ電話を利用していた高齢者が、2年目以降徐々にテレビ電話を使ったコミュニケーションに飽きはじめたのではないかと考えられる。そして、2011年の調査では利用そのものが減ったことにより、満足度が激減したのではないかと考えられる。つまり、この調査では身近な人とのテレビ電話は、利用のきっかけとしては最適だが、2年目以降はテレビ電話のみの利用でその満足度を継続していくことが出来ず、テレビ電話のみの導入では利用が継続しないことが分かった。

 

 

【行政(コールセンターなど)とのコミュニケーション】

 野田・賈 2011)のアンケート調査によると、対してコールセンターの設置と運用に関しては、年々満足度は上昇している。テレビ電話の相手として、お友達54%、民生児童委員41%に対し、コールセンターは81%と高い。また、コールセンターに対する満足度も73%と他と比べて高い。

コールセンターの利用度・満足度が高い要因として、コールセンターが今回の事業専用に設置されたということもあり、高齢の利用者にとって安心して話せる相手であること、そして、声かけや相談などすべての事柄がコールセンターを経由して行われているので、コールセンターとの会話に慣れてきたことが考えられる。

しかし、野田・賈 2011)は、そこにこそコールセンターの役割があるのだが、テレビ電話で期待された役場や保健師などと高齢者のコミュニケーションがコールセンターを介して行われており、テレビ電話の有効性が活用されていない。また、高齢者から各機関への問い合わせをコールセンターが一時的に受け、各機関へ取次ぎもされているが、回答やコールセンターへのフィードバックが上手くされていないことを問題視している。

 よって、コールセンターの位置づけを明らかにするとともに、高齢者に適応した体制・マネジメントが必要だと考えられる。

 

 

【テレビ電話の印象と今後】

 テレビ電話の利点である顔を見ながらの会話「安心」または「楽しい」と回答した利用者が71%、対して「恥ずかしい」が12%と好意的な結果が得られた。しかし、家の中が映るのが嫌だ、玄関口にテレビ電話を設置しているという回答もあった。

また、今後も「是非使いたい」、「使ってもよい」と回答した利用者が72%、対して「いらない」が6%であることから、利用者はテレビ電話に好意的だということが分かる。しかし、「お金を支払うならテレビ電話はいらない」と回答した比率が32%であることから、好意的なのは利用料が無料だからという理由が大きいと考えられる。よって、利用者のニーズに応えたサービスの提供はもちろんのこと、収益モデルの構築も不可欠だと考えられる。

 

 

 

第三節 テレビ電話と健康サポート 〜山口県の事例〜

 

 山口ケーブルビジョン株式会社は、200912月より65歳以上の高齢者家庭約300世帯を対象に、「ライフチャンネルサービス」の実証実験を開始している。ライフチャンネルサービスは、高齢者が自宅のテレビを通じて地域とのつながりを維持し、高齢者の安心と健康をサポートすることを目的としている。ライフチャンネルサービスでは、安心確認サービス、テレビ電話、買い物サポート、健康サポートなどが提供されている。

 

 

【テレビ電話と健康サポート】

 盛岡・長坂(2012)は、3名の高齢者に対して、5回テレビ電話を通して健康サポートを行った。テレビ電話を通した健康サポートのメリットとして、対象者が一番話しやすく落ち着ける場所(=自宅)でサポートを行うことができるため、高齢者の自己開示が促進されたことが挙げている。声だけでなく映像も活用できるため、運動の紹介やマッサージについてのやりとりなどを身振り手振りを交えた表現ができるため、お互いに理解しやすいこと。また、表情やうなづきなどの非言語コミュニケーションが出来るため、意思の疎通が従来の電話よりも容易であり、それがテンポの良い会話につながることが、高齢者との信頼関係の構築に有用であることもメリットである。

 

 

  【テレビ電話の印象と今後】

 やはり、テレビ電話のデメリットとして、自宅というプライベート空間が映し出されてしまうことを挙げている。今回の調査では、1名の高齢者が1回目の調査後に、「奥が映るのが嫌だった」という理由でカメラの位置を移動させていた。また、3名の高齢者はいずれも普段テレビを見る位置に座ってテレビ電話を行っていたため、カメラの位置が遠く、画面に映る高齢者の姿が小さく、声も聞こえにくかった。これでは、テレビ電話のメリットである表情をみながらのコミュニケーションが活用されないため、今後の課題とされた。

 機械の操作も課題の1つである。簡単な操作指導は受けているものの、テレビ電話の使用頻度が少なく、使い慣れていない場合には、かかってきた電話に出ることができない場合もあった。