第四章 量的分析
はじめに、1990年と現代の目次や見出しから得られる情報について、量的な比較を行いたい。目次に名前が挙がっている男性有名人に関すること、また、記事の見出しから読み取ることのできる男性イメージの2つの観点について分析していく。
第一節 男性有名人
雑誌に取り上げられる男性有名人には、いつの時代もその当時の流行りや女性たちの理想の要素を持っていることが考えられる。そこで、1990年と現代の目次より、取り上げられている男性有名人の掲載年当時の年齢、職業について分析する。現代においては、2010年を対象にする。
まず、職業についての集計結果が以下の通りである。
図2 図1
1990年に登場した男性有名人の職業は、歌手、音楽関係者(2)、俳優、文化人(3)、スポーツ選手であり、2010年は歌手、俳優、お笑い芸人、スポーツ選手であった。
1990年と2010年を比較すると、1990年に見られた音楽関係者と文化人が2010年には登場しなくなったことが分かる。それに代わり、2010年には新たにお笑い芸人が登場している。1990年は小説家やプロデューサーなど、比較的活字で目にする機会が多いと思われる文化人の男性有名人が、2010年は俳優やお笑い芸人など、日常生活でもテレビなどのメディアを通して姿を見る機会の多い男性有名人が誌面に取り上げられているということが言える。2010年に登場する俳優やお笑い芸人などの頻繁にメディアに登場しているこれらの職業は、知識や教養があるかどうかということ以上に容姿に注目が集まる職業であると言えるのではないだろうか。
続いて、年齢についての集計結果が以下の通りである。
図3 図4 図3
an・anの女性読者ターゲット層は20代後半であった。つまり誌面に登場する男性のうち「10歳以下」、「10代」、「20代前半」は『年下』、「20代後半」は『同世代』、「30代前半」、「30代後半」、「40代前半」、「40代後半」は『年上』ということになる。
1990年の目次に出てきた男性有名人の総数は36人で、そのうち『同世代』は10人、『年下』は3人、『年上』は20人であり、『年上』が半数を超えていることが分かる。10代の男性有名人は登場しておらず、年下男性はほとんど誌面に登場していないことが分かる。
一方2010年の目次に登場した男性有名人の総数は80人で総数は増えており、『同世代』が21人、『年下』が33人、『年上』が26人であった。2010年は10代の男性有名人が登場するようになっていることが特徴的である。また『年下』の人数が最も多くなっており、1990年に比べて取り上げられる年齢の幅が広がっていると言える。
1990年は年上が半数を超えており、年上男性の人気が高かったことが想像できる。2010年には1990年にはなかった10代の男性有名人の登場も見られ、若い世代の男性有名人も取り上げられるようになったことが分かる。また、2009年11月4日号において「U-21限定 抱きしめたい その魅力。年下の男」という特集が組まれているのだが、このような年下の男性の魅力を伝える特集も現代には掲載されるようになった。
第二節 見出しにおける男性イメージ
1990年と2009年から2011年の現代の目次より、男性の意見、考え等、男性の声を取り上げている記事の見出しを挙げ、そこから読み取ることのできる男性イメージを分析する。
それぞれの目次のリストは以下の通りである。なお、カッコ内には号数を記載する。
1990年
・こんな時、男は結婚を考える。(1990/2/2)
・女の嫉妬について、男から言いたいこと。(1990/3/9)
・聞いて下さい、僕たちのさよならの言われ方。(1990/3/16)
・男からも言いたい!僕たちも女性に、頭脳と感性を求める。(1990/6/1)
・女の結婚条件に、男から言いたいこと。(1990/10/19)
・男にだって条件があります。男たちの結婚条件を、徹底レポートしてみたら。(1990/10/19)
・教えてあげよう、男の本当の気持ち。(1990/9/28)
・男の言い分 女にこそ男の気持ちを、わかって欲しい。(1990/9/28)
・男の本当の気持ち。僕たちだって、きれいに化粧した女(ひと)が好き。(1990/10/26)
・男たちからメッセージ、めざせ!‘91年の新しい女。(1990/12/28)
・男の意見 こんな女をめざして欲しい。(1990/12/28)
現代
・男子がパーフェクトレクチャー。セクシーの大正解と大誤解。(2009/2/10)
・男子の本音で完全解説。恋で得する女子のセオリー。(2009/2/25)
・男子の本音で探る「僕らの理想」。(2009/8/19)
・イケメンオールスターズが主張。僕の第一希望女子はこんな人。(2009/9/23)
・今こそ伝えたい!!僕らの恋のサイン。(2009/10/21)
・僕たちが年上女性を好きな理由。(2009/11/4)
・男子100人の本音アンケート!!男が本当に選ぶギフトって?(2010/1/27)
・美人じゃなくても気になる!?男目線のモテ女論。(2010/2/17)
・街角男子100人に聞きました! 愛されるモテ服のオキテ(2010/2/17)
・男子もモチロン夢見てます!! 恋の始まり、僕たちの理想とは?(2010/4/7)
・恋の謎をイケメン50人に答えてもらった。(2010/5/19)
・男が想像イメージする2つの同棲生活、極楽ハッピーvs憂うつライフ。(2009/5/27 )
・ボクたち、女性のカラダのココにドキドキしています! (2010/7/28)
・イケメン男子159人が投票しました。 第1回・街角美人グランプリ発表! (2010/8/18)
・イケメン88人アンケートで判明! モテ男が落ちた瞬間とは?(2010/8/25)
・男もしてます、かなわぬ恋。(2010/12/14)
・僕たち、ここが気になるんです! 男ならではの恋の悩み・大調査。(2011/1/4)
・男子が気になるのは、女のコの香りです!(2011/1/4)
・街のイケメン男子363人にアンケート。 本当にモテるヘアスタイルはコレ! (2011/3/30)
・男子111人アンケート その視線、気づいてた?見られているオンナノパーツBEST8(2011/4/28)
・片思い女子に捧ぐ、男の気持ち白書。(2011/6/15)
・恋愛、仕事、プライベート…オトコたちの本音データを大解剖! (2011/7/20)
・イケメンたちは恋に弱気!? 彼らが女性に望む本当のコト。(2011/7/20)
・結婚に踏み切る男&踏みとどまる男、その違いと本音を教えて! (2011/8/17)
・男子座談会で判明! 二度惚れしたり、幻滅したり…。男が好む変化って?(2011/8/24)
・僕たち、だから脚とお尻が好きなんです。(2011/9/28)
・ボクたち、大人の女性と恋したい。(2011/10/12)
1990年には11件、現代では27件の見出しが当てはまった。これらの中から、見出しに使われている男性の呼称について注目したい。
以下が見出しに登場した男性呼称のデータである。
図6 図5
1990年で男性を指す言葉は「男」、「男たち」、「僕たち」の3パターンが確認できる。そのうち「男」が11件中9件、「男たち」が11件中2件、「僕たち」は11件中3件の見出しに使用されている。
現代では「男」、「オトコ」、「男子」、「モテ男」、「イケメン」、「イケメン男子」、「僕」、「僕ら」、「僕たち」、「ボクたち」の10パターンが確認できる。「男」が22件中7件の見出しに登場し、「男子」が9件、「オトコ」が1件、「モテ男」が1件、「イケメン」が4件、「イケメン男子」が2件、「僕」が1件、「僕ら」が2件、「僕たち」が4件、「ボクたち」が2件の見出しに使用されている。
1990年と現代に共通してみられる表現は「男」と「僕たち」の2つである。現代では新たに「オトコ」や「ボクたち」というカタカナ表記のものも見られる。
また、1990年に見られた「男たち」という表現が現代では見られなくなっている。反対に現代に新しく登場した表現として、「イケメン」、「男子」、その2つを組み合わせた「イケメン男子」、「僕」、「僕ら」、「モテ男」が挙げられる。
見出しに使われる男性の呼称について比較を行ったところ、特徴的であるのは現代の見出しの「僕たち」という表現に、新たに「ボクたち」というカタカナ表記が増えたことである。「僕たち」という漢字とひらがなの表記は1990年にも見られたが、「ボクたち」というカタカナとひらがなの表記は現代のみに見られるものである。また、「僕」、「僕ら」という表現も新たに使用されるようになっており、現代では「ぼく」という言葉の表現パターンが増えたことが分かる。
そして、1990年に見られた複数の男性のことを表現している「男たち」という言葉が使わなくなった代わりに、現代には「ボクたち」や「僕ら」という「ぼく」という言葉が使われる新たな複数形の表現が登場するようになった。1990年で「男」が使われていた箇所に、現代は「僕」という言葉が置き換えられていると言うことができるだろう。
「男子もモチロン夢見てます!! 恋の始まり、僕たちの理想とは?」、「ボクたち、女性のカラダのココにドキドキしています!」、「ボクたち、大人の女性と恋したい」という見出しの内容からも感じ取ることができるが、「ボクたち」、「僕たち」をはじめ、「ぼく」という言葉が使われることによって、幼く、どこかかわいらしい男性像を想像することができるのである。特に、カタカナ表記の「ボクたち」からは、「ボクたち、大人の女性と恋したい」、「ボクたち、女性のカラダのココにドキドキしています!」という見出しからも、女性に甘えている、より子供っぽい男性をイメージすることができる。現代で最も使用されていた「男子」という呼び方も、同じく大人の男性というよりは子供っぽさや幼さを連想させる表現である。これらの表現が使われることによって年下の男性を想像することができ、このことからも現代は年下男性に焦点を当てて描かれていることが分かる。
そして「イケメン」という表現の登場についてだが、イケメンとは容姿の整ったかっこいい男性のことを示している言葉であり、1990年の見出しにはそのような男性の容姿を意識した呼称は見られなかったことからも、現代には男性の「顔」や「容姿」が意識された表現が使われていると言える。
第三節 量的分析における考察
男性有名人の職業、年齢、見出しにおける男性の呼称について量的分析を行った。その結果から、誌面に描かれる男性像について2つの変化を確認することができた。
まず1つ目であるが、現代では1990年で取り上げられていた文化人の登場が減り、容姿に注目がいくであろうと考えられる職業の男性有名人の登場が増えたこと、また見出しにおける「イケメン」という男性の容姿に関連した表現の多用といったことから、現代は知識や教養を持っている男性よりも、容姿の整った男性が取り上げられるようになったという変化があった。
続いて2つ目に、10代から20代の男性有名人の登場が増えたこと、見出しにおいて「ボクたち」をはじめとするかわいらしいく子供っぽい男性を想像させる表現の使用が多く見られるようになったこと、また年下男性についての特集が組まれたことなどから、現代では年下男性が頻繁に取り上げられるようになったという変化があることが分かった。
以上の「知識・教養」よりも「容姿」の整った男性や、年下の男性が取り上げられるようになったという2つの変化について、さらに詳しく検討していきたい。