第二章 先行研究

 

伊藤(1993)は80年代末に、90年代は「男性問題の時代」になると指摘していた。1970年代から80年代にかけての時代は「女性問題の時代」であった。女たちが古い「女らしさ」の脱出を望み、意識を変え、経済的・精神的な自立を目指しながら性による差別や規制を突破するためには、日常的なものの考え方、言い方、感情表現を含む男性中心社会の文化そのものを変えなければならない。女性問題と男性問題は表裏の関係にあり、女性問題が重要な課題となればなるほど90年代は男性問題の時代にならざるを得ないはずである。これまでの男は「仕事」「外」中心、女は「家庭」「内」中心という仕組みそのものを、男女平等という「あたりまえ」の状態に変化させなければならない。そのためにも男は仕事中心のライフスタイルを変える必要がある。「男性問題の時代」とは、男たちが古い「男らしさ」の鎧を脱いで、〈自分らしさ〉〈人間らしさ〉を求める必要があるということである。

また伊藤(1993)によると、男らしさは優越志向・権力志向・所有志向の3つの志向性をもつ。優越志向とは他者に対して優越したいという欲求であり、権力志向とは自分の意志を他者に押し付けたいという欲求、所有志向とはできるだけ多くのモノを所有したい、また所有したものを自分のモノとして確保したいという欲求である。この3つの志向性は男同士の場合以上に女との関係においてより強力に作用している。男は女に、知的にも肉体的にも精神的にも優越していなければ「一人前の男」ではない。男は女を自分のモノとして所有し、それをコントロールし管理することができなくては「一人前の男」ではない。男は女に対して、自分の意志を押しつけることができなくては「一人前の男」とはいえない。このような古い「男らしさ」がゆらぎ始めているが、そのゆらぎから脱出する道が提示されているわけではなく、男たちはどう生きればいいのかに迷い始めている。女たちの社会参加の拡大や自立によって追い詰められはじめたという不安と、女性は支配の対象だとする古い「権力」「優越」「所有」の志向性に強くとりつかれたままでいる男性は少なくない。1990年代は、うまく「男らしさ」の鎧を脱げず、傷つき不安にかられる男たちの時代という意味での「男性問題の時代」なのである。

そして90年代に入ると次第に雑誌の特集にも「男性問題」が目立ってきた。女性雑誌「CREA」や男性誌「月刊プレイボーイ」などが1992年の夏ごろから「弱くなった男」の問題の特集を組み始めた。その後も「SPA!」や「POPYE」などが「男らしさとは」や「男性解放」といったテーマで何度も特集を組むようになった。「男が弱くなった」という声は、女性雑誌にも男性雑誌にもたびたび取り上げられるようになっていった。

 

 

このように、かつての「男らしさ」が揺らぎはじめ「男性が弱くなった」と取り上げられるようになるなど、1990年を境に雑誌における男性の表現内容が大きく変化していることが分かった。では、現代の雑誌における男性の表現内容にも何か特徴や変化が見られるのではないだろうか。今回対象とする女性誌の過去と現代の記事や見出しの分析、比較を通して女性誌に表れる男性像の変化について明らかにしていきたい。