2章 ワーキング・ホリデー制度概要

 

 ワーキング・ホリデー制度とは、18歳から30歳(一部地域では25歳)までの若者を対象とし、最長1年間の自国外における就労や就学、観光といった活動を通した国際交流を目的として制定された。この制度は二国間で締結されるもので、一方的な若者の国際間移動を行っているわけではなく、日本の若者が渡航するとともに、日本にも相手国の若者が来日しており、相互的な制度である。制度を利用するためにはワーキング・ホリデー・ビザを各国の大使館や領事館へ申請する必要がある。このビザを申請することができるのは、各国に対し一度きりである。

 現在のワーキング・ホリデー制度は、1975年にオーストラリアとイギリスの間で発足した制度がモデルとなっている。オーストラリアとイギリスとの間でビザなしの渡航を廃止した後、二国間の若者の往来の習慣を継続するための制度として始まったのが元である。その後、オーストラリアは多数の国と積極的に協定を締結していき、日本とも1980年に開始された。日本との締結の背景には、当時オーストラリアが不景気であったという社会背景がある。若者を中心とした失業問題が深刻であった当時のオーストラリアから、ワーキング・ホリデー制度を利用して、好景気である日本に英語教師やテーマパーク従業員等として来日するオーストラリア人が増加した。逆に、1990年代バブル経済の崩壊から日本国内で若者の失業問題が深刻化した際には、日本の若者がオーストラリアでワーキング・ホリデー・ビザから就労ビザに切り替えるケースが増えた(朝水 2009)

 その後、1985年にニュージーランド、1986年にカナダ、1999年に韓国とフランス、2000年にドイツ、2001年にイギリス、2007年にアイルランドとデンマーク、2009年に台湾、2010年に香港との間で始まり、現在までに11の国と地域との間でワーキング・ホリデー制度は結ばれている。

二国間同士での協定であるため、それぞれの国の事情によって制度の内容は微妙に異なっている。例えば、就労期間や就学期間に制限を設けている国がある。オーストラリアの場合、同一雇用主のもとでは6カ月以上の就労が認められていないほか、就学期間も4カ月以内と制限されている。また、オーストラリアでは3カ月間の農牧作業などを含む季節労働によって2年目のビザを申請することができる「セカンド」と呼ばれる特例的な制度もある。季節労働はオーストラリア国内で働き手が不足している点と、単純労働移民の流入を防ぐという点から、もともと日本人の間で人気のあった季節労働を制度化し、労働力を補てんする意味合いを持っている(川嶋 2010)。ニュージーランドもオーストラリア同様に就学就労に期間制限がある。カナダの場合は就労期間に制限が無いものの、就学期間は制限がある。イギリスの場合は就労期間就学期間ともに制限はない。


 

21 各国のワーキング・ホリデー制度比較

 

オーストラリア

ニュージーランド

カナダ

イギリス

就労期間

同一雇用主の下

6か月以内

制限なし

制限なし

制限なし

就学期間

4か月

6か月

6か月

制限なし

ビザ発行制限数

実質無し

制限なし

6500

1000

(外務省及び日本ワーキング・ホリデー協会HP掲載内容より筆者が作成・平成24910日現在)(注1

 

 ワーキング・ホリデー・ビザの発給数は制限を設ける国がある。国によっては発給制限数を超過した申請希望者が集まることもある。特にイギリスは人気が高く、毎年1月にビザ申請の受付を開始すると、1000人の枠に対し1万から2万人の応募があるほど人気がある。この場合、当選した者のみビザの発給を受けることができ、落選した者はまた翌年申請することができる。ワーキング・ホリデー・ビザの発給数推移は以下の通り。なお、発給数と渡航者数はほぼ同等と考えられる。

 

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http://www.jawhm.or.jp/images/system-kari2.jpg

出典:日本ワーキング・ホリデー協会ホームページ(http://www.jawhm.or.jp/index.html2012123日現在

 

 

 外務省の定めるワーキング・ホリデー・ビザの発給要件は以下の通りである。

 

23 ワーキング・ホリデー・ビザ発給要件

1)我が国及び相手国・地域の政府又は当局は、いずれも、おおむね次の要件を満たす他方の国民・住民に対し、ワーキング・ホリデーのための一次入国査証を発給しています。

 なお、国・地域によって要件や審査手続きに多少の違いがありますので、詳細は各国大使館等へお問合せください。

(イ)相手国・地域に居住する相手国・地域の国民・住民であること。

(ロ)一定期間相手国・地域において主として休暇を過ごす意図を有すること。

(ハ)査証申請時の年齢が18歳以上30歳以下であること(韓国及びアイルランドとの間では18歳以上25歳以下。各々の政府当局が認める場合は30歳まで申請可能)。

(ニ)子を同伴しないこと。

(ホ)有効な旅券と帰りの切符(または切符を購入するための資金)を所持すること。

(ヘ)滞在の当初の期間に生計を維持するために必要な資金を所持すること。

(ト)健康であること。

(チ)以前に本制度を利用したことがないこと。

2)年間の査証発給数に関しては、それぞれの国・地域との取り決め等に基づき、カナダは6,500人、日韓は10,000人、日仏は1,500人、日英は1,000人、日・アイルランドは400人、日台は2,000人、日・香港は250人などと定められています(平成24年)。

出典:外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/visa/working_h.html

2012123日現在

 

 上記(1)(ロ)に記されているように、このビザは主に休暇を楽しむためのビザであると制定されている。就労や就学、日常生活での国際交流を通して、国際的な視野を持つ若者の育成が目的とされている。

 ワーキング・ホリデー制度の特徴に、就労、就学、観光を期間中自由に行うことができるという点が挙げられる。例えば、就労ビザで海外へ渡航する際には、ビザ取得の段階で現地の雇用主が決まっており更に推薦状を必要とする。また、就労ビザでの就学は認められていない。また、学生ビザの場合も渡航中の就学先が決まっている必要がある。学生ビザでの就労(アルバイト)は場合によって可能ではあるが、就労可能時間に制限がある。観光ビザの場合は就労就学ともに基本的に認められていない、もしくは短期間の就学のみ可能である。ただし、ワーキング・ホリデー・ビザは各国に対し一生に一度しか取得できないのに対し、就労ビザ、学生ビザ、観光ビザは何度でも取得が可能である。更に、年齢制限も後者である3つのビザには設けられていない。