1章 問題関心

 

 日本国内の不況や各国のグローバル化に伴い、日本企業も国内のみならず海外との取引や海外展開が図られ、ビジネスの場は国内から国外へ広がりをみせている。ビジネスに生かすためや趣味としての英語や中国語といった語学学習への関心が高く、英語教育においては2011年より小学校からの義務教育化が始まった。ビジネスや学校教育だけではなく、海外旅行や留学も以前に比べて身近になってきた。海外旅行に関しても、航空料金の値下げ等から行き先によっては国内旅行よりも安く上がるケースがある。さらに、学生のうちに海外留学を経験する者も少なくない。ビジネスから旅行、留学まで、海外は以前ほど遠い存在ではなくなったと言える。

 ビジネスや留学、旅行すべての要素をもつ複合的な制度として、ワーキング・ホリデー制度がある。この制度を利用することで、海外に1年程度滞在することができ、その間就労や就学、観光を自由にすることのできることから、海外生活にあこがれを持つ若者に人気のある国際移動の手段になっている。ワーキング・ホリデー制度では、通常の留学とは異なり就労が可能であることから現地での収入を見込んだ低予算での留学も可能となる。このようなメリットから、特に社会人に注目されている。

 これまでの研究では、ワーキング・ホリデーは若者の「自分探し」の期間として、批判的なまなざしが向けられてきた。仕事に嫌気がさし、またはその仕事が本当に自分に合っているのかと疑問に思う若者が、「本当の自分」を見つけるために海外に出ていくという。しかし、「自分探し」を目的として自分に合う仕事を見つけるために海外へ行ったとしても、ワーキング・ホリデー経験者のほとんどは日本で再就職をする。そもそも、最初から本格的な海外就職は彼らの目標ではないのである。では、ワーキング・ホリデー経験者たちはどのような目的で渡航しているのだろうか。本調査では、インタビュー調査からワーキング・ホリデー経験者がどのように自分自身の経験を語っているか、その語り口に注目して探っていきたい。