おわりに
高岡銅器を事例として調査を始めた当初は、その斬新なデザインが世の中に評価され話題となっていると考えていた。しかしながら高岡銅器が伝統産業の中で成功例として各メディアに取り上げられている理由は、単にデザイン性が優れているためだけではないことが調査を通して明らかになってきた。
産地内の構造や役割分担の変化、外部の視点の活用、新たな市場の開拓など、苦境に対する反応パターンは実に様々であったが、行政、問屋、職人・メーカーそれぞれの語りの中で共通して見られた点もあった。それは「高岡銅器の伝統を誇りに思い、その魅力を世の中に広く知ってもらいたい」という当事者たちの強い想いである。その想いが原動力となり、デザイナーや市場を巻き込んだ産地活性化が実現されているのだと感じることが出来た。
また折井氏の「伝統のものを守りつつ、一部革新的なことをして、それがまた10年、20年たって伝統の一つになっていくだろうと思っている」という語りは非常に印象的であり、古いものを守り続けることが伝統だと考えていた、それまでの私の「伝統」の捉え方を変化させてくれた。単に古いものを守り続けることが「伝統」なのではなく、技術を継承しその技術を活かした新たな「伝統」を作っていくという、この新しい「伝統」のあり方は、これからの伝統産業を支える上で重要な考え方になっていくだろう。
謝辞
本稿の作成にあたっては、下記の方々にはインタビュー、資料収集など多大なご支援とご協力を頂きました。ここに記して謝意を表します。(五十音順)
折井 宏司 様
駒澤 義則 様
高川 昭良 様