第八章 まとめ

 

調査を通し明らかになった高岡銅器における産地活性化成功の要因を、以下の三つにまとめる。

一つ目は「問屋からの復興」である。先行研究のように他の伝統産業を扱う研究では、職人・メーカーが自らの努力で商品開発に取り組む事例に注目が集まりがちである。しかしながら従来の問屋が職人・メーカーに仕事を渡していくという構造をより強固なものにするという方法もあることが、KANAYAの調査から明らかになった。ただしその際重要になるのが、単に昔からある問屋と職人・メーカーの関係性を維持するのではなく、問屋同士が「問屋の復権」という共通の目標を持ち、協力関係をとる事である。問屋一社の力で新たな市場開拓やブランドイメージの構築を行うことは容易い事では無い。そこで産地の問屋が協力し合いKANAYAのような集団を作ることで、産地の作り手や市場のニーズといった情報を集結し、それを活かした新たな商品開発が可能になるのである。

二つ目は「作り手の意識改革」である。一つ目でも述べたように、従来市場に出ることの無かった職人・メーカーが産地の衰退に危機感を抱き、自ら商品開発に関わる事例は他の伝統産業でも見受けられる。高岡銅器においては「作り手の意識改革」を作り手自身に丸投げするのではなくHiHillという職人・メーカー同士の交流、そして外部の存在であるデザイナーとの交流が行える場を行政が提供している点に特徴がある。職人・メーカー個人の努力による意識改革では、HiHillのように職人・メーカー同士が互いを刺激し合うことで商品の質を高めていくことは難しい。それに対しHiHillでは職人・メーカーがお互いの技術をさらけ出し、互いの技術を見せ合うことで高め合っている。またデザイナーとの関係性もこれまでのような「デザイナーに頼んでデザインをしてもらう」という依頼関係ではなく、共に同じプロジェクトの仲間として商品プロデュースや販路拡大を行うという対等な関係を取っているのが特徴である。

三つ目が「型にはまらない商品開発」である。今回調査したいずれの対象も、これまで高岡銅器といえば仏具、銅像といった伝統的な工芸品のイメージから脱却した新しい商品を作っているのが印象的である。KANAYAの代表的商品であるTrayStyleのような生活雑貨やHiHillのマテリアルプレートが使われているキッチンや建築部材などのように、これまでとは違う新しい市場に高岡銅器は進出している。また、それまで不可能とされていた技術を無理と決めつけず挑戦することで商品化に成功した、折井氏の圧延板や能作氏の錫100%の鋳物などに代表される技術革新も型にはまらない商品開発の例と言えるだろう。このような型にはまらない商品開発は、職人・メーカー自身が外部の視点を持ち取り組む場合とデザイナーという外部の存在が影響を与えている場合がある。特にデザイナーによる新たな視点は、HiHillにおいては技術そのものを売り物にするという職人・メーカーでは思いつかないような方法に活かされている。実際HiHillの取り組みはグッドデザイン賞を受賞しており、他の伝統産業では見られない高岡銅器独自の斬新な商品開発の方法だと言える。このように型にはまらない考えで、伝統産業のイメージを変革することが今後の伝統産業の産地を活性化していく上で重要になるのではないだろうか。

これまで作り手として産地内に留まっていた職人・メーカーにとって、個人の努力のみによって市場の現状を知る事や販売能力の無さといった課題を解消するのは難しい。高岡銅器は産地の苦境に対する反応のパターンを複数持っており、それぞれ職人・メーカーが置かれた状況によってそれを選択する事ができるのが最大の要点であると言えるのだ。