第四章 KANAYA

 

第一節 調査概要

 

第一項 概要

高岡銅器協同組合の組合員13社と国内外で活躍するデザイナーの力を結集して新たなモノづくりに取り組むプロジェクト。現代空間と現代的感性に合う表現、さらには高岡発のインターナショナルブランド構築を目指す。平成22年度に国のJAPANブランド育成支援事業(3)採択され、支援を受けながら販路拡大を目指す。

 

第二項 参加者 

プロデューサー 桐山登士樹TRUNK

デザイナー 紺野弘通、SOMA DESIGNSHIMOO DESIGN、坪井浩尚、小林幹也、森ひかる

コーディネーター 高橋三和(TRUNK

ロゴデザイン 木村愛

参加企業13  大寺幸八郎商店/()織田幸銅器/折橋治吉商店/金七産業(株)/()銀豊堂/()関菊/専徒カズオ商店/()竹中銅器/()ニューズ・インターナショナル/ ()宮津商店/ ()四津井/()四津川製作所

 

本稿では高岡銅器協同組合の理事長である駒澤義則氏へのインタビューを実施。駒澤氏はKANAYAの設立に携わり、プロジェクトのリーダーとして活躍する人物である。

 

第二節 分析

 

第一項 きっかけ

本稿第一章での問題関心として伝統産業の衰退に触れたが、高岡銅器も他の伝統産業同様、生活様式の変化によって需要が減少しており、売り上げが無く企業や産地が成り立たないという苦境に立たされている。主な売り場であったデパートでも売れないものは置いてもらえず、話題性のあるものはピックアップされても売らなければすぐに取り扱われなくなるという厳しい現状にある。

駒澤氏は「売り場が減少した」という声を以前から組合員に聞いていたため、理事長職をうける際に「失った売り場を取り戻そう」というテーマで市場開拓と市場改革を目標にした。そこで組合員にKANAYA結成を呼びかけ、その時国の政策として行われていたJAPANブランドに申請した。

 

第二項 問屋の復権 

かつては職人・メーカーの製品をまとめて買い付ける、月の工場の生産をすべて買うといった事ができたが、売り上げの減少による資金不足でそれが出来なくなっている。仕事が無くなり、産地全体が衰退している状況に対し、駒澤氏は以前のように全国の売り場、市場の情報を持っている問屋の復権をすることが産地の活性化にとって重要と考えている。

そこで産地内で一番の伝統がある問屋の組合である高岡銅器協同組合の組合員の有志で取り組むことに決めた。

 

第三項 デザイナーとの関係 

富山と東京を二十数年行き来し、富山県総合デザインセンター(4)のデザインディレクターとして活動する桐山 登士樹氏(5)がプロデューサーとして関わる。高岡市のクラフトコンペをきっかけに二人は出会い、それまで個別に商品開発に加担することは無かった桐山氏に頼んで産地改革に協力してもらうこととなった。

他のデザイナーは自身のショップを持っていて新しい商品をテスト販売できるような、マーケティングの能力を持っている人を選んでいる。すべて桐山氏の知り合いで「予算無いけど頼むよ。」と言っても協力してくれるような人である。

このようにデザイナーと参加者の間には強い信頼関係があり、損得よりも「産地のために」という色合いが強い。その信頼関係を築く重要な存在として駒澤氏がおり、参加者に桐山氏を信じるようにと呼びかけを行っている。

 

第四項 従来の取り組みとの違い 

 

普通補助事業をこういう公の団体でやるときは、自己負担はいらない。(中略)単年度事業だから、一年間で何か成果作ったら、作った物は商品化されない。(中略)いつも作ったものの販売権が宙ぶらりんになって、作ったものはどっかその辺に成果品として飾ってあるだけ。それじゃダメなんで、一社50万ずつ出資を頼んだんです。そうすると、やはり今このご時世で50万ぽんと出せるゆうのは少ないですよね、(中略)その代りもと取りたいって思うからみんな頑張るよね。

 

これまでの取り組みでは、個人の負担がないと責任が伴わず、また何か成果をつくっても商品に繋がらないという問題があった。KANAYAでは一人50万ずつの負担し、有志のみの参加を募った。そうすると参加者はもとを取りたいという思いでやる気がでる。

 

第五項 商品開発 

KANAYAを代表する商品が「Tray Style」である。多様化する現代のライフスタイルの中、より合理的に、でもスタイリッシュに生きる人々に向け、手軽で機能的、変幻自在に、使い方が広がる新たなスタイルを提案している。このTray Styleはトレイ×フレーム×オプションとデザインの組み合わせが自由で、省スペースでも自分らしいデザインを楽しむことが出来るのが特徴である。

 

写真4−1 Tray Style

FASHION PRESS2012より)

 

このような商品を作る際は、桐山氏が大きなテーマを設定し、そのテーマに沿って産地を見学し高岡の技術を吸収したデザイナーがデザイン画を描くという流れを取る。初めはデザインが受け容れられず、桐谷氏に対する批判もあがっていた。

 

産地のことを全て分かってる上でプロデュースしてくれる。金の為では無くてわたしの思っている産地改革を理解して協力してくれている。それはやっぱり力強い。途中で桐山さん批判も出る、何考えてるんとか。でもわしらは今未知のゾーンにおるんやから、とにかく従っていこうと、それが私の仕事。

 

未知の体験なんだから、皆さん販売のプロだし、物作りのプロだけど一度取り去ってくれ、自分のフィルターなしで桐山さんに身を委ねてくれと。今まではプロ意識が邪魔をして、結局成功はしなかっただろうと。とにかく信じてくれと50万無駄にはしないから

 

このように批判に対しては駒澤氏が他の組合員を説得した。また自己資金を出して取り組んでいるため、できあがった商品はその事業所のオリジナル商品にするという態勢を取っている。それによって、参加する問屋の商品開発に対する姿勢がより本気になってくるという。

 

第六項 問屋の強み 

売り手、作り手どちらの情報も一番持っている問屋だからこそ、職人・メーカーの得意不得意に合わせた発注や、市場のニーズを活かした商品作りができる。情報を上手く活かし製品作りから販売まで一貫して責任を持って行えるは問屋ならではの強みである。

 

第七項 海外進出 

海外で活動することでマスコミ等に取り上げられ、応援団が出来る。また海外で認められたということで箔が付きブランド力があがるというメリットがある。

 

元々顔の見えない商売はしたくない。顔が見える商売は安心でしょ?顔の見えない人と取引してると、いつぱたっとお金送ってこなくなるか心配。そういうの色々経験してきてるから、胃の痛くなるような商売は本当はしたくない。

 

このような不安要素もある。しかしながらJAPANブランドが海外に進出することを目標としているため、海外進出の分野は無くすことはできない。その解決策を以下のように語る。

 

外国との取引も気が進まないっていったけど、顔の見えるエージェントがいてくれたらいいんですよ。海外にそういう人がいてくれると、運賃なんかも助かる。この間エジプトに製品を送る時、運賃が2万円掛かった。それをパリに一度に送ってしまってそこから送ってもらえば56千円ですむ。そういう間を取り持ってくれればと思ってます。

 

第八項 ブランド作り 

 

(デザイナーを通して)ブランドを確立するのが産地として一番いいんだろうなというのを学んだ。今の世の中、何を頼りにするかってブランド、ブランドで信頼するでしょ?ブランドを確立して話題性を取る。もう商品力、製造力はあるし、アフターケアも出来るから、問題は以下に生活者に取り込んでもらえるか、それにはやはりブランドイメージを膨らますことが産地のためだろうなと。

 

このようにただ商品をつくるのではなく、ブランドを確立する重要性を指摘している。またKANAYAでは自社で作った物だけをKANAYAブランドとして売り出すのではなく、産地内でKANAYAとして売り出すのにふさわしい製品であればKANAYAブランドとして売り出せるという仕組みを取っている。そのため産地内で一匹狼のような存在の職人・メーカーでも販売チャンネルが増えることになる。それによってKANAYAも力がつくし、産地の人の拠り所のような存在、頼りになる存在になりたいと駒澤氏は語る。