第二章 高岡銅器

 

第一節 歴史

 

高岡銅器は、慶長16 年(1611 年)に加賀藩二代藩主前田利長公が高岡のまちの産業振興策のひとつとして、現在の高岡市金屋町に鋳物工場を開設したことに始まる。当時は鍋・釜・農機具などの鉄鋳物が主体であったが、幕末から銅器美術工芸品へと発展し、明治時代にパリ万国博覧会に展示されるなど、世界的に知られることとなった。戦時中、軍事使用のため金属が手に入らず壊滅的な打撃をうけるものの、戦後先人たちの努力により、急速に復興し、さらに新製法の導入により大量生産体制が確立され、昭和50 年2月には伝統的工芸品として国の第一次産地指定を受けている。

 

第二節 特徴

 

第一項 分業体制

産地の特徴として、製造・加工部門では工程別の分担体制が確立されていること、事業所規模は小さいこと、職人集団的色彩が強いこと、集積度合いが全国の産地に比べかなり高いことなどが挙げられる。また、製造業者は作ることに専念し、新商品開発や販売機能はほとんど産地問屋が担うという分業体制がとられてきたことが特徴として挙げられる。

 

第二項 工程・技法

高岡銅器は、銅合金による鋳造技術から作られ、原型づくり→鋳造→仕上げ加工→着色という工程をたどり、どの工程においても熟練した職人が手技の粋を発揮し、それらが連携することにより1つの造形美が生まれる。

以下、高岡銅器協同組合(1)HPhttp://www.doukikumiai.com/skill/index.html)に基づいて高岡銅器の工程・技法について解説する。

 

1.原型づくり・鋳造

鋳造は溶かした金属をあらかじめ作っておいた原型に流し込み、目的の形にする金属加工法である。数千年前に生まれた鋳造の基本技術は今も変わっていないが、いくつものバリエーションがある。高岡銅器では主に双型鋳造法、焼型鋳造法、蝋型鋳造法、生型鋳造法の4つの技法を用いており、それぞれの技法により、原型づくりも異なる。

 

2.仕上げ加工

彫金は、金属の表面をタガネで切ったり押したりして、模様を彫り込む技法である。線を彫るタガネ、面を削るタガネ、穴を開けるタガネ、凸凹を平らにするタガネ、地文を打ち付けるタガネなど数十種類もあり、職人たちはそれらを使い分けながら、見事な美を創造している。代表的な技法として、毛彫り、透かし彫り、魚子打ち等がある。また表面を加工する技法には、象嵌、腐蝕等があり、いずれも高岡銅器を特徴づける技法である。

 

3.着色

 金属の特性を生かし、多彩な表情をかもし出すことから「銅器は錆を鑑賞する工芸」と言われるが、着色はその表情を決定する最後の工程である。

金属が持つ本来の色を引き出すため、古くから伝わるさまざまな薬品を使い、金属の表面を腐食させ、化合物を生成させる。手法は長い間の試行錯誤から、いくつも生まれている。まず金属表面の化合物被膜を取り除き、下色を施し、本着色へと進む。下色は表面に酸化被膜を作る化学的手法である。硫酸銅や食塩、食酢などで作る「丹ぱん酢液」や「酢煮汁液」、日本酒または食酢に細かな鉄屑を入れて作る「お歯黒」、刈安 (すすきの一種) を煎じて作る「刈安液」などを用いる。

 

第三節 産地の衰退

 

下のグラフ(図2−1)から読み取れるように、高岡銅器全体の販売額は減少し続けている。顧客ニーズの変化に起因する記念品・贈答品需要の低下や、中国をはじめとする安価な外国製品との競合に加え、燃料や地金の高騰と平成20 年秋以降の世界的不況が原因と考えられる。

 

図2−1 銅器(非鉄合金含む)販売額(億円)の推移

(高岡市産業企画課HP http://www.city.takaoka.toyama.jp/sangyo/0401/より)

 

事業所数はすべての部門、工程において減っており、全体でみると1985年は503社だったのに対し2008年には269社になっており、約47%減少している。(図2−2)また従事者数も問屋、鋳造を中心にすべての部門、工程において減少している。従事者数全体をみると1985年に4037人だったのに対し2008年には1634人になっており、約60%減少している。(図2−3)

 

図2−2 事業所数の推移

 

図2−3 従事者数の推移

(高岡市産業企画課HP http://www.city.takaoka.toyama.jp/sangyo/0401/より)

 

また年齢の推移において60歳以上を高齢者とすると、鋳造業従事者における高齢者の割合は1985年が12.5%なのに対し2008年は24.5%、加工業従事者における割合は1985年が17.4%なのに対し2008年が60.7%と産地の高齢化が進んでいるのが分かる。(図2−4,図2−5)このように従事者の減少、産地の高齢化により若手後継者の確保が非常に困難な状況となってきている。これによって廃業や規模の縮小を図る事業者も増えてきており、深刻な問題といえる。

 

図2−4 鋳造業従事者における年齢構成の推移

 

図2−5 加工業従事者における年齢構成の推移

(高岡市産業企画課HP  http://www.city.takaoka.toyama.jp/sangyo/0401/より)