第一章 問題関心

 

今日、日本における伝統産業は、生活様式の変化や嗜好の多様化、安価な外国製品の流入、流通構造の変化などを背景に、全国的に厳しい状況に直面している。経済産業省中部経済産業局(2006はそのような厳しい状況に陥った要因には外的要因と内的要因の二つがあると指摘している。以下にその内容をまとめる。

まず外的要因として「国民の生活様式・生活空間の変化」「生活用品に対する国民意識の変化」「大量生産方式による良質で安価な生活用品の供給」「安価な輸入品の台頭」の四つを挙げている。具体的には、都市化に伴う集合住宅の増加によって居住面積や庭が減少したこと、また、衣食住の各方面において洋風化が進展したことにより、伝統的工芸品の代替品が登場し、生活の中での伝統的工芸品の「居住空間(居場所)」や「登場機会(出番)」が非常に少なくなったこと。昨今の大量消費社会の中で、生活用品に対する国民の意識が「安価な商品」を「使い捨てる」という方向に傾いてきたため、生活用品としては一般に価格が高く、かつ「使い捨て」にはなじまない伝統的工芸品に対する国民の関心が薄れてきていること。品質、デザイン、用途や販売方法等の面で改良が加えられた良質な生活用品が、大量生産方式によって、大量かつ安価に供給されるようになっており、アジア諸国から、伝統的工芸品の類似品や代替品が安い値段で急激に輸入されるようになったことを指摘している(経済産業省中部経済産業局 2006: 1-14)

つぎに内的要因として「ニーズに適合した商品開発の遅れ」「新たな流通経路開拓の遅れ」の二つを挙げている。具体的には作り手による生活者の新たなニーズに適合した商品開発が不十分であること。デパートや専門店における伝統的工芸品の取扱いの減少等を背景として消費地問屋を初めとする既存の流通経路がその役割・機能を低下させつつある一方、流通市場において情報ネットワークの進展を核とした低コストかつ迅速で消費者にとっても利便性のある新たな流通システムを伝統産業はまだ活用しきっていないことを指摘している。(経済産業省中部経済産業局 2006: 1-14)

日本が誇るべき伝統産業はこのような時代の波にのまれ滅びゆくしかないのだろうか。

この苦境に対し伝統産業がどのような反応を示しているのか、本稿では富山県高岡市の伝統産業として400年以上の歴史を持つ高岡銅器を調査対象とし、当事者である問屋と職人、支援者である行政にインタビューを実施した。その語りから伝統産業がこの苦境にどう対応し生き残ろうとしているのかを探っていきたい。その際、比較対象として金沢金箔、高岡漆器を事例とした先行研究を扱い、高岡銅器と他の伝統産業における苦境に対する反応の違いを明らかにしていきたい。調査概要は以下の通りである。(五十音順)

 

折井宏司氏(モメンタムファクトリーOrii代表)201112月に実施。第六章。

駒澤義則氏(高岡銅器協同組合理事長)2012年9月に実施。第四章。

高川昭良氏(高岡市デザイン工芸センター職員)201111月、201212月の2度実施。第五章。