第五章 考察

 

  第一節 オンラインとオフラインの相互関係

   mixiのコミュニティにおけるオフ会トピックのコメント数を分析したところ、オフ会終了後に極端に増加しているというケースはあまり見受けられなかった。また、オフ会参加者へのインタビュー調査で、「オフ会前にオンラインで交流してからオフラインで会った」という人がいなかったことから、コミュニティの役割は共通の趣味を持つ人との交流を行うための「きっかけの場」であって、本質的に交流が行われる場所ではないということがいえる。オフ会前のオンラインでのやりとりはオフ会の参加の有無や事務的連絡のみで、メンバー同士の交流がほとんど確認できないため、オンラインでの交流がオフラインでの交流に与える影響は小さい。

一方で、オフラインでの交流がオンラインでの交流に与える影響は多大なものである。筆者が実際にオフ会に参加したところ、第四章の第二節の<オフ会のその後>に挙げたように、マイミクの増加や日記・ボイスへのコメントのようなオンラインでの交流が確認できた。ただし、オフ会に参加したメンバー全員とオンラインで再び交流したというわけではない。そこには、オフラインで実際に顔を合わせることで自分と話が合いそうかそうでないかを篩いにかけ、合いそうなら再びオンラインで交流を行い、そうでないなら再び交流が行われることはないという違いがあるのだと考える。

   今回のオフ会トピックの分析やインタビュー調査から、オンラインがオフラインに与える影響は小さく、反対にオフラインがオンラインに与える影響は大きいということがいえる。しかし、オンラインとオフラインの相互関係は、実際にはこのように単純ではない。なぜならばコミュニティにも2種類存在するからである。これについては次の節で言及していく。

 

第二節 オープンなコミュニティとクローズドなコミュニティ

   これまで三つのコミュニティ「YUKI(JAM)」「北陸ユキンコリニスタ」「YUKIに恋して後悔はなし♪」を見てきた。これらのコミュニティには、開放的なもの(オープンなコミュニティ)と閉鎖的なもの(クローズドなコミュニティ)の二つが存在すると考える。

   「YUKI(JAM)」は、表3−1からコミュニティ参加に制限がなく、参加していなくてもコミュニティを閲覧することができる。三つのコミュニティの中で参加メンバーが最も多く、ただコミュニティに参加しているだけで書き込みや閲覧さえもしないメンバーも少なくないであろう。

   「北陸ユキンコリニスタ」は、表3−1からコミュニティ参加に制限があり、参加者のみがコミュニティの書き込みを見ることができる。このコミュニティに加入するには【北陸在住であること】、【管理人にメールを送り、それが承認されること】の二つが条件であるが、後者はコミュニティに提示されている説明に従えばだいたい承認されると思われる。したがって【北陸在住であること】が最大条件である。

YUKIに恋して後悔はなし♪」は、表3−1から「北陸でのオフ会に参加したことがある」という条件をクリアしていなければ参加できず、コミュニティ閲覧も参加者のみが可能である。

以上のことから、「YUKI(JAM)」は三つの中で最もオープンなコミュニティ、「北陸ユキンコリニスタ」と「YUKIに恋して後悔はなし♪」は「YUKI(JAM)」と比較してクローズドなコミュニティであるといえる。

オープンなコミュニティでオフ会が開催され、参加者は同じYUKI好きのメンバーと交流をする。そのオフ会で気が合う人がいれば、オフ会終了後も個人同士で連絡を取り合ったり、再びコミュニティで開催されるオフ会に参加したりする。しかし、オンラインとオフラインのコミュニケーションはこれの繰り返しだけではない。オープンなコミュニティで開かれたオフ会に参加したことのある人だけが加入できるクローズドなコミュニティにおいて、再びメンバー間のコミュニケーションが行われ、そこでまたオフ会が開かれるのである。

オープンなオンラインが存在し、オフ会が行われる。そこでクローズドなオンラインが派生しオフ会が開かれる。コミュニティのオンラインにもオフラインにも、オープンとクローズドな空間が存在しているのである。

これらのことから考えると、オープンなオンラインとクローズドなオンラインを繋ぐオフ会は、特別な機能を果たしているといえる。そのオフ会について、次の節で述べていきたい。

 

第三節 二種類のオンラインを繋ぐオフ会の意味づけ

   「YUKIに恋して後悔はなし♪」は、「YUKI(JAM)」「北陸ユキンコリニスタ」で告知されたオフ会に参加したことがある人、または管理人とマイミクの人のみが参加できるコミュニティである。「YUKI(JAM)」「北陸ユキンコリニスタ」でのオフ会はカラオケオフ会が主流であり、筆者が参加したカラオケオフ会ではひたすらYUKIの曲を歌っていた。会話はYUKIの話がメインでメンバーの私的なことはあまり語られていなかった。

   しかし、蟹を食べて忘年会をしようという意図で開催された「YUKI蟹ラ」というオフ会では、YUKIの話はもちろんしていたが、後半は私的な話で盛り上がっていた。話の内容は、最近スマートフォンに変えた話から、スマートフォンの使い方を知っているメンバーに教えてもらったり、仕事が忙しいことを話したりなどであった。このオフ会は、筆者が参加したオフ会の中で最もメンバーと会話を交わしたオフ会で、インターネットで知り合ったYUKI友であるということを忘れさせるものであった。

   「YUKIに恋して後悔はなし♪」は、もともと、北陸のYUKI友と遊ぶための連絡コミュニティとして設立された。このコミュニティが、【「YUKI(JAM)」「北陸ユキンコリニスタ」で告知されたオフ会に参加したことがある人】または【管理人とマイミクの人】を加入条件としている背景には、参加メンバーにはただ加入しているだけでなく積極的にオフ会に参加してほしいという管理人の思いがあるのではないかと思う。オフ会参加経験のある人なら、オフ会を開催したときに、参加経験のない人よりも参加してくれそうであるからである。「YUKI(JAM)」「北陸ユキンコリニスタ」で告知されたカラオケオフ会は、「YUKIに恋して後悔はなし♪」のメンバーを見つけるための場としても機能しているのではないだろうか。

   オフ会に参加することでメンバーと顔見知りになり、mixiでのメッセージや日記へのコメントのようなオンラインでの交流を経て、再びオフラインで交流を深める。この繰り返しにより、オフ会の内容やメンバー間の話の内容は、YUKIに関することだけであったのが、次第に私的な内容へと変化していく。「出会いは、インターネットを通してなので普通じゃないかもしれないけど、オフ会で出会った友達のことはYUKI友兼普通の友達だと思っている。」とインタビューで【ななりん。】さんが語るように、初めはオンラインだけで繋がっていた関係が、オフラインとオンラインでの交流の繰り返しで次第に強いものとなり、それが、インターネットを通しての友達は「インターネットで知り合った共通の趣味を持つ友達」でもあり「普通の友達」でもあるという感覚にさせる。このようなことが起こるきっかけになるのも、オープンなオンラインとクローズドなオンラインを繋ぐオフ会であると考えられる。

 

第四節 情報での繋がりを超えた関係

   今回調査したコミュニティは、「YUKIが好き」という共通の趣味を持つ人々がインターネットという電子メディアを通して集まった集団である。電子メディアを通して情報という縁で繋がるという点で、「YUKI(JAM)」「北陸ユキンコリニスタ」「YUKIに恋して後悔はなし♪」は、先行研究で挙げた「情報縁」という概念に該当しているように思われる。しかし、第四章のインタビュー調査での「YUKI友との出会いはインターネットを通して知り合うため普通じゃないかもしれないが、オフ会で出会った友達のことはYUKI友兼普通の友達だと思っている。」という【ななりん。】さんの語りから、彼女は、YUKIを通じて知り合った人たちのことを、「自分と同じYUKIが好き同士」という関係だけではなく、「YUKIのことを抜きにしても、普段遊んだり連絡をとったりする普通の友達」のような関係でもあると考えていることがわかる。最初は、インターネットを通した同じ趣味を持つ者同士の繋がりであったのが、交流を重ねていくうちに次第に「情報縁」という関係を超え、日常においても会って会話したり遊んだりする関係へと変化していったのである。

   先行研究で挙げたもう一つの「選択縁」という概念から考えると、「YUKI(JAM)」はコミュニティ加入に制限がなく、コミュニティの書き込みやオフ会への参加によって、自分と合いそうな人を探し自由に交流できるという点から、「選択縁」という概念が当てはまると考えられる。しかし、「北陸ユキンコリニスタ」「YUKIに恋して後悔はなし♪」は北陸地方に限定したコミュニティであり、限られたメンバーとしか接触できない。このことは、互いに自由に相手を選び合うことができるという「選択縁」には当てはまらないと思われる。

【ななりん。】さんに対するインタビューで、YUKIカラの告知は「YUKI(JAM)」で、マイミクのYUKI友と遊ぶ時の告知は「YUKIに恋して後悔はなし♪」で行うとあるように、今までと同様、同じYUKIが好きな人が自由に参加できるYUKIカラも行われるということがわかる。清水(2006)の調査グループは、Face to Faceの関係を持つようになってからはクローズドな関係に変化していき、「情報縁」の特徴は排除されていったと述べているが、今回の筆者の調査では、オフ会後にクローズドな関係を求める動きは確認できたが、「情報縁」を完全に排除するという動きはみられなかった。

SNSのコミュニティ全般にいえることではないかもしれないが、今回の調査から、オフ会後にクローズドな関係を求める動きが存在することは確認できた。実際に顔を合わせて交流することは、情報で繋がった関係よりもさらに強い関係性を生み出すのだろう。