第三章 事例報告:富山県内における先進的取り組み

 

平成248月末までに くるみんを取得した富山県内企業(次世代育成支援対策推進法に基づく認定を受けた企業)16社のうち、男性の育児休業取得者が5名を超える企業2社をピックアップした。

くるみんとは次世代認定マークの愛称で、企業や法人が少子化対策を計画、実行し、子育て支援など一定の基準を満たした後、厚生労働省によって認定されると取得できるマークのことである。企業はこのマークを広告や商品などに付け加えることによって、次世代育成支援対策に取り組んでいることをアピールできる。

 

調査対象1:富山銀行

平成20年度にくるみんを取得した企業。

(会社概要)

名称:株式会社富山銀行

従業員数:380(平成25121日現在)

男女比率:男性:女性≒11

 

調査対象2:三協立山株式会社

平成21年度にくるみんを取得、平成22年度に均等・両立推進企業表彰(ファミリー・フレンドリー企業()部門)で都道府県労働局長優良賞を受賞した企業である。

(会社概要)

名称:三協立山株式会社

従業員数:5,907名(平成2461日現在)

男女比率:男性:女性≒41

 


第一節 株式会社富山銀行インタビュー

 

インタビュイー:株式会社富山銀行 経営管理部職員1名

 

富山銀行は、平成17年に財団法人 21世紀職業財団()によって「男性の育児参加促進事業実施事業主」に選定され、それをキッカケに男性の育児支援に力を入れ始めた。現在男性の育児休業取得者数は累計13名であり、富山県内ではトップである。育児休業取得者それぞれの取得期間は公表されていないが、土日を含む1週間の利用が大半である。また、男性の育児休業取得促進の相乗効果で、女性職員の育児休業取得率は100%になった。

 

●男性の育児支援に関する取り組み

 

・ポスターを作成し全支店へ配布、掲示

内容「両立支援に関する内外への公表(銀行のHPなどで)を進めていくことについて」

  「男性職員の育児参加検討委員会の開催など、男性の育児支援を進めていくことについて」

ポスター以外には、年2回全職員の元に送られる通達(本部から送られる行内向け指示・連絡文書)や、銀行便りという社内報によって育児支援制度に関する情報提供を行っている。育児休業を取得した男性社員を紹介する記事なども過去には載せられていた。

 

・子女出産予定報告書

年2回(4月、10月)通達が届いた後に、出産の予定がある職員(または配偶者が出産する予定のある職員)が提出する。提出後、育児休業の申請がない場合は、経営管理部から職員本人と職員の所属する支店の支店長に育児休業を提案する連絡がいく。過去に育児休業を取得した全ての男性職員が提出している。

 

・支店長会議

男性職員の育児支援制度の利用状況の会議での公表を行っている。

 

・男性職員の育児参加検討委員会

年2回(1月、7月)定期に開催している。委員会のメンバーは経営管理部の管理職と女性職員、組合の委員長など。この委員会では、男性の育児参加に関する進捗状況の確認、制度の効果の検証を行っている。

 

・育児休業補助金の支給

土日を除く5日間まで支給されていた。金額には上限があり、休業前賃金とほぼ同じ額が支給されていた。(平成181月〜平成1912月の2年間実施)

 

●今後の取り組み

 

次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画V期(現在も計画期間内)の目標のひとつに、「子の出産時における父親の年次有給休暇取得の促進を図る」ということが定められている。現在では育児休業制度を利用した1週間程度の休暇よりも育児目的の2,3日の有給休暇のニーズが高まってきている。また、それと同様に、半日休暇を利用する職員も増加しており、有給休暇と半日休暇を連続して利用する人もいる。有給休暇や半日休暇は本来育児を目的として設けられた制度ではないが、男性にとっては育児休業をとるよりはハードルが低く、利用しやすいようである。今後はそういった職員一人一人のニーズに合わせた柔軟な育児支援を行っていく狙いである。

 

 


第二節 三協立山株式会社インタビュー

 

インタビュイー:総務人事総括室 人事部 多様性推進課職員3名

 

両立支援制度の利用状況 (平成231231日現在)

育児休業

女性

25(現在)

男性

8(累計)

育児短時間勤務

女性

71(現在)

男性

2(累計)

配偶者出産休暇

男性

137(累計)

再雇用登録制度

登録30名、再雇用1名(累計)

在宅勤務制度

女性

育児理由5(累計)

男性

介護1名、障害1名(累計)

 

1.三協立山の育児支援制度


●育児休業
 現在までに8人の男性社員が取得済みである。しかし、実際に男性社員が取得した期間は2週間が最長であり、育児休業というほどではないのが現状である。休業中に給料は支払われないので、育児休業取得者は育児休業給付金(第二章第三節第二項を参照)を利用して生活することになり、収入は休業前の約50%になってしまう。


●短時間勤務制度
 7時間50分という所定労働時間のうち、合計2時間(小学校1年生から3年生までは終業1時間のみ)まで、朝夕分割して短縮できる制度。法律では子が3歳に達するまでとされているが、三協立山では小学校3年生まで期間を延長している。男性の利用は現在までに1名のみ。


●勤務時間選択制度
 始業時刻が複数用意され、従業員がその中から選択をして勤務する制度。終業時刻はこの始業時刻に応じて決まる。始業時刻が複数あっても所定労働時間は変わらない。


●配偶者出産休暇制度
 誕生日の当日は慶事休暇、残りの2日は自分の持っている有給を使える制度。有給を取得しづらい会社の雰囲気を踏まえて作られた制度である。現在までに約130名が利用している。(
出生の届出があった男性の25%)


●再雇用登録制度
 一度出産、育児で辞めた人を再雇用するという制度。結婚、出産などで退社された人を登録し、登録した人に人事から年1回調査票を送る。調査票に対し、「もうすぐ働けます。」といった回答があり、かつ会社がその人を欲しい場合は再雇用する。利用した男性は1人のみで、ほとんどが女性である。現在、登録者は29名である。


●在宅勤務制度
 20101月にスタートし、20116月に人事制度化した新しい制度。現在までに7名が利用している。うち2名が男性であるが、育児ではなく、介護と障害が理由である。しかし残り5名の女性は育児理由での利用であるので、育児理由でこの制度を利用する男性が今後現れることが期待される。


NO残業デー
 毎週水曜日と金曜日に設けている。帰らなければいけない、と締め付けることで、ずるずる仕事をすることなく、効率化を図るようになり、社員にとっても会社にとってもメリットになる。

 

2.社内専用サイト「ハートぷれいす」について

三協立山株式会社には、社員向けポータルサイトがあり、社内のいろいろな情報を発信するサイトがある。ほとんどの社員は毎日必ず開くサイトであり、その中に「ハートぷれいす」へのリンクがある。このサイトでは、育児支援制度を利用しながら仕事と育児を両立している社員を紹介している。現在、12,3名の従業員が紹介されており、育児休業を取得した男性の配偶者からのメッセージを載せている例もある。これに対し、ハートぷれいすの運営者は「実績を見せることで、会社が受け入れてくれるんだっていうことを社員のかたが感じていただければなと」と語る。また、ハートぷれいすでは、その他に「制度の紹介」、「なんでも相談室」、「お知らせ」というコーナーを設けており、「制度の紹介」では、父、母ごとにページが設けてあり、文章では分かりづらい就業規則や法律、配偶者出産休暇制度、育児休業制度、制度利用後の賞与、給与への影響、手続き、提出書類などについて、イラストを交えて分かりやすく紹介している。「なんでも相談室」は、メールのような形で相談できる場所である。男性社員が制度の利用に関して問い合わせてくることも多い。                                    

しかし、工場勤務の職員はサイトが見られないため、以前はサイトに載せられた内容を紙新聞のようにまとめて掲示するという取組みも行われていた。

 

●男性社員向けアンケート

三協立山株式会社の多様性推進課が、両立支援制度の改善を図るために独自に行ったアンケートである。これまで社外には公開されていないが、本研究のために提供していただいた。

 

実施期間:201235日〜316

対象者:20111月〜12月の期間に、出生の届け出のあった男性社員103(回答率86)

「育児休業制度について」

・男性も育児休業を利用できることを知っていましたか。→はい…74

                          いいえ…26

・育児休業の利用に関心がありますか。→はい(事情が許せば利用してみたい)25

                  どちらかといえばはい…25

                  どちらかといえばいいえ…30

                  いいえ…20

・育児休業の利用に対して懸念される事項は何ですか?(複数選択可)

                  →収入への影響…49

                  →周囲への負担増加…76

                  →人事考課への影響…31

                  →その他…6

その他の内容  ・仕事のブランク、人間関係など、復帰後に元の通りに働けるか(2)

        ・周囲の理解(2)

        ・復帰後の自分への負担(1)

        ・懸念はない(1)

この他にも育児休業制度に関する自由記述欄があったが、個別には突出した印象や誤解を生む危険があるものも含まれるため、ここでは列挙せず、後で考察に関係のあるもののみ取り上げることとする。

三協立山では、育児休業制度の認知度はかなり高まってきてはいるものの、利用に関心があるか、という質問に対してはい、または、どちらかといえばはいと答えた人が50%であることから、実際に育児休業を取得する意欲のある人は半数にとどまっていることが分かる。また、育児休業の利用に関する懸念事項として、収入面、周囲への負担、処遇への影響を選択した人が多数いるが、この結果は、第二章第二節で取り上げた「育児休業を取得しなかった理由」の調査結果と類似している。

 


第三節 育児休業取得者インタビュー

 

インタビュイー:三協立山株式会社 情報システム部 Aさん

 

Aさんは、3人目の子がちょうど生まれる際に育休を取得した。社内専用サイト「ハートぷれいす」で男性社員も育休を取得できることを知り、仕事の区切りも良いところであったため育児休業取得を検討し、多様性推進課に相談をしに行った。育児休業を取得した理由は、妻の出産後1週間の入院が必要であったため、Aさんが1人目と2人目の子どもの面倒をみなければならなかったからである。現在は、1人目の子が小学校1年、2人目の子が幼稚園年少であり、3人目の子が保育園に通っている。

                 

育児休業の取得日数:4日間(2011131日〜201123日)

育児休業の申請書の提出日:1/27

●休暇スケジュール

合計10日間の休暇

1/28…配偶者出産休暇

29()

30()

31   1日目

2/1   2日目

2    3日目

3    4日目

4…メモリアル休暇(自分で記念日を会社に申告して通常の有給休暇を取得するというもの)

5()

6()

 

●育休取得時の状況

妻:専業主婦

子ども:5歳と2歳と0歳。5歳の子は幼稚園に通っており、2歳の子は入園前。

両親:自宅から車で4050分ほどかかる県内の離れた土地に暮らしている。親戚も同様。

 

●育児休業中の1日のスケジュール

 07:00  起床、朝食準備

 07:15  朝食

 08:00  子供着替え、朝食片付け

 08:30  1人目幼稚園へ(バスが迎えに来るので見送り)

 08:45  掃除、洗濯

 10:00  2人目を連れて妻の病院へお見舞い

 12:00  昼食(病院の近くで外食)

 13:00  自宅へ戻り、2人目お昼寝(自分も疲れて一緒にお昼寝)

 15:00  1人目帰宅(バスで送られてくるのでお出迎え)

 15:30  夕食のお買い物

 16:30  2人の子供を連れて妻の病院へ2回目のお見舞い

 18:00  帰宅し、夕食準備

 19:00  夕食

 20:00  夕食片付け、お風呂

 21:00  かくれんぼや絵本を読むなどして遊び、22:00までには寝る

 

●心境の変化

育児休業が男性に与える影響で最も大きいものは妻に対する接し方ではないだろうか。Aさんは、育児休業をしていた当時のことを次のように語っている。

 

「子供二人の面倒を見るときは、1対2なので、一人をかまっていると、もう一人がどっか行ったりとか、普段だったら、「おー、そっち行ったぞ。ママ助けてやってくれよ。」とか、手分けできるんですけど、それが手分けできないこの辛さっていうんですかね。もう一人サポートいてくれたら助かるのにって思うことがあって、母親は普段からそれを一人で切り盛りしているっていう大変さが分かりましたね。」

 

いつも妻が1人で行っている育児を実体験することで、妻の立場に立ち、その大変さを改めて理解できるようになる。そして、職場復帰した後もできる限り妻のサポートをするようになるのではないだろうか。