第六章 考察

 

 

 本論文ではここまで地域子育て支援拠点事業ひろば型について調査を進めてきた。国の子育て支援対策の経緯をみると、「社会全体で育てる」という子育て支援がすすめられていることがわかった。「社会全体で育てる」ための地域子育て支援拠点事業は今後社会に広がっていくことが期待されている。中でも、数を増やすための鍵となっているひろば型に注目した。

 今回はNPO団体が実施するひろば、保育園が実施するひろば、企業が実施するひろばの3つのひろばの活動について調査を行った。ひろばの活動を分析したところ、ひろばの活動の特徴的な部分や、それぞれのひろばの個性的な部分が見受けられた。これらの活動は子育て支援として有効なものであると感じられた。

 しかし、制度と活動を並べて分析を行ったことでわかったことがある。それは、制度として整えられているが、現場での実際の活動とは異なる部分があるということだ。この乖離は制度的な後押しのもとで今後減少する(そのことでひろばの機能が拡充され、各地域で広がっていく)と考えられるだろうか。結論から言えば、そうは思えない。

 今回分析のポイントとして挙げた交付金の算定基準である基準点数表について考察していく。中加積保育園では市と補助単価を決めて、ひろば型として活動をしている。市がセンター型として活動していくことを拒んだ理由の1つとして、補助の負担が大きいということがある。ひろば型ならば補助の負担がまだ軽いということもあり、一定の額を決め、活動が行われている。中加積保育園の園長の柳溪暁秀さんは次のように述べる。

 

柳溪:あの、正直言っていずれにしても、やりたい活動があっても、これをするからっていって、市が「はい」って言ってくれないと、しても加算がないわけだ。

山口:もうその額はもう決められたものなので、

柳溪:うん。で、プラス、プラスのことをどんだけしようと思っても、プラスを出せる財源はないですよ、と。

 

このように、補助単価を決めてひろばを開設している中加積保育園では、活動を増やしても加算は考えられておらず、算定基準そのものが機能していないことがわかる。このことから、算定基準の制度は活動の動機づけにはなりにくいことが明らかとなった。

 また、あさがおのスタッフの川上由枝さんは次のように述べる。

 

川上:まあ実質その活動自体を評価されるかっていうと、内容の評価で振り分けられることはないのね。

山口:やっているかやっていないかで、

川上:そうそう。評価と金額がきちんと合っているのかどうか、腑に落ちないんだよね。

 

このように、基準点数表に関しては、大くくりに「やっているかやっていないか」だけで判断されており、内容プログラムを充実させても評価がされる仕組みにはなっていないようだ。

ここで第二章第二節<費用>に立ち直って、算定基準の制度の問題を考えたい。第一の問題は予算の配分方式に関わる。指定都市、中核市以外は市町村が窓口として交付金を配分している。その際、算定について、本論文が調査した事例では、事業者に詳しい説明がされていなかった。そのため、事業者にとっては「どのような活動をプラスすれば、どれぐらい評価されるのか」がわかりにくくなっている。第二の問題は、算定方法そのものである。これは、基準点数の合計点等を基に国が認めた額と、事業計画に掲げる事業の対象経費の実支出額の合計額から寄付金その他の収入額の合計額を控除した額に2分の1を乗じた額の<どちらか少ない方>を選定するという算定方法となっている。前者の額よりも後者の額が少ない場合、基準点数は交付金の算定方法としては機能しなくなり、どれだけ充実した活動を実施しても交付金の額に影響はない。活動内容を充実させればその分の基準点数が与えられ、交付金額に関係してくるというモチベーションが持てると思われたこの制度であるが、実際はインセンティブとして働きにくく、事業者にとってこの算定基準は納得のいくものではないと考えられる。

 このように、算定基準の制度は事業者にとってのインセンティブとして働いていないことがわかる。制度の通りに充実させていこうというインセンティブが働かないため、事業者としても、ポイントに関して無関心になりがちだと考えられる。

今回活動について調査していて感じたことが1つある。それは、ひろばのスタッフたちはポイントがつくから活動を行っているのではなく、利用者の声を聞いて活動をすすめるうちに、条件は満たしていないが、実質的にそれに近いものを行うようになったのではないかということである。その例が出張ひろばである。ひろば内では利用者のニーズを聞き取り、活動が企画・実施されており、その中で外に出てひろばを利用していない子育て親子を支援したり、ひろばの存在を知ってもらっていた。それは出張ひろばの条件を満たしてはいないが、ひろばの出来る範囲での活動が出張ひろばに近いものとなっていた。規定を参考に活動したものではなく、自ら考えて行った活動であるため、出張ひろばの規定とは異なり、他の活動に類似したものとなったと考えられる。このように制度上の位置づけがなくても自主的に類似した取組が発生することは、現にある。しかし、逆に言えばそうした取組を適切に評価し、財源的に後押しする仕組みがない以上は、あくまでもそれらは「類似の」取組であり、更なる機能拡充へと向かう駆動因を欠いたままである。

地域子育て支援拠点事業ひろば型の制度は、地域や利用者に合った子育て支援をしていく上で、ある程度融通の効く、ひろばに任せられている部分のある制度であり、それは有効であることもある。細かく規定していないため、ひろばそれぞれの個性のある、利用者に寄り添った活動ができている。そのことは今回の調査でも明らかとなり、ひろば型の活動の魅力となっている。しかし、今後ひろばの数を増やし、機能を充実させ、さらに多くの子育て家庭を支援していくためには、動機付けができるような、支援者にとって現実的な制度が必要であると考える。