第五章 分析

 

 

 第四章で述べたように、ひろばでは子育て支援として有効と思われる活動が行われていた。第五章では、国がすすめていこうとしているひろば型の支援において、重要だと思われるポイントを要綱や基準点数表の項目から挙げ、そのポイントに注目して分析を行う。

 

 

第一節 開所日数の現実と理想

 

 地域子育て支援拠点事業実施要綱によると、ひろば型の開設日数については、原則として週3日以上、かつ1日5時間以上の開設が実施要件とされている。また、交付金の算定方法の1つである基準点数を出すときの基本分の項目に挙げられている。3〜4日、5日、6〜7日開所で基準点数が異なってくる。

 中加積保育園では、2003年から子育て支援室を開放し、ミニサロンの活動を行っていた。そして、2010年からはひろば型に移行して活動を行っている。ミニサロンは月4回くらいの頻度で開かれ、開設時間も午前中だけという短い時間だった。ひろば型に移行するにあたって、開設日数や活動内容、担当スタッフなどを変更・決定する必要があった。そのときに開設日数については現在の週4日の開設に決められた。このように、ひろば型を開設するために開設日数が必要で、開設日数を増やした施設がある。

 あさがおでは2010年までは商店街の中でひろばを開設していたが、実施場所を移動をしなければいけなくなった。移動したことで、建物の都合によって日曜日、祝日の開設ができなくなり、現在は週6日開設している。あさがおの利用者Aさん(32歳・女性・子どもは4歳と2歳)は次のようなことを話していた。

 

山口:ひろばがこうなってほしいという希望はありますか。

A:年中無休。年中無休―!年中無休!(傍にいる川上さんに向かって)あのー、年中無休で!ひろばどうなってほしいっていうから年中無休。

川上:じゃあ(利用者も)みんなスタッフ交代で。

A:あ、そっか。うちらが開けばいいのか。ママの日っていう。年中無休いいよね。なんか、今のご時世って土日休みじゃないっていう家庭もあるじゃん。そういう家庭にとって土曜日やってるって、前は日曜日もやってたけど、もうたまらないんだよね。そういう場所が。だから、年中無休。24時間ね。コンビニ化。あさがおコンビニ化計画。

 

Aさんと同時にインタビューしたBさん(38歳・女性・子どもは2歳と10か月)、Cさん(34歳・女性・子どもは3歳と1歳)も年中無休という希望に同意していた。Aさんが述べるように、土日休みではない家庭にはひろばが利用されにくいと思われる。全ての子育て家庭を支援するためにはひろばを毎日開設することが理想的である。しかし、建物の問題もあり、インタビュー内であさがおのスタッフの川上由枝さんが述べるようなスタッフの問題もある。スタッフの休みを確保する必要があるなど、年中無休でひろばを運営していくには、人的支援、環境的支援、金銭的支援などの様々な支援が必要となる。

 このように、ひろばを開設するために開所日数を変更する必要があるなど、開所日数の理想と現実が異なっている例がある。

 

 

第二節 ひろば機能拡充

 

 ひろば機能拡充は、ひろば型の施設が、一時預かりや放課後児童クラブなどの多様な子育て支援活動を実施することで、ひろば型の施設を中心とした関係機関とのネットワーク化を図るものである。基準点数の基本分の項目に挙げられており、機能拡充を行っているかで基準点数が異なってくる。

 あさがおは、一時預かりを実施している。会員登録をしている利用者を対象に、生後6か月から就学前までの子どもを1時間500円で預かっている。2010年度では年間延べ130人が利用している。自分たちができる範囲での活動として、ひろば事業と一時預かり事業の2つを柱として活動をしている。スタッフ、ボランティアが協力して、一時預かりを行っている。

 ハーツきっずにはひろば型の活動を行うひよこるーむの他に、一時預かりを行ううさぎるーむ、2歳児プレ保育を行うこりするーむがある。うさぎるーむでは、登録をしている利用者を対象に、1から3歳児の子どもを1時間750円(市によって400円、無料な場合もある)で預かっている。病院への通院や冠婚葬祭、就職活動など、お母さんの用事があるときに子どもを預けることで、安心して用事を済ませることができる。また、こりするーむでは、登録をしている利用者を対象に、毎週火曜日と金曜日の9時から12時まで、1か月10,800円で2歳児保育している。保育園、幼稚園の入園前の準備として、子どもが友達との関わり合いの中で集団生活が出来るように支援をしている。子どもの社会性や自立性を育てることができ、生活リズムを作ることもできる。また、お母さんたちが定期的な曜日と時間にゆとりを持てるような支援にもなっている。

 また、ハーツきっずは今後、訪問事業にも挑戦したいと考えている。離乳食作り、掃除、子どもの世話などの家事全般の手伝いをしたり、お母さんの話し相手になったり、日常の生活のことをしながらお母さんの気持ちを軽くしていこうとしているが、ひろばなどの支援活動とは方向が違うことや専門的な部分が必要となることが理由で踏み込めずにいる。しかし、福井県民生協に訪問の支援などをしている「くらしの助け合いの会」というものがあるため、そこと連携して活動を始めることを考えている。

 あさがお、ハーツきっずは、ひろばの活動とは別の活動を両立して実施している。あさがおは自分たちにできることを活動しており、ハーツきっずは様々な活動を行い、更に新しい活動を始めようとしている。しかし、ひろばの活動以外の機能を充実させるためには、スタッフの人数、ひろばの知識とはまた別の知識が必要となっている。

 一方、中加積保育園は、機能拡充を行っていない。一時預かり、学童保育をしているが、保育園の事業として行っている。ひろばの事業と保育園の事業とは別の事業と考えるため、機能拡充は行っていない。あくまでもメインは保育園の事業で活動している。

 

 

第三節 不完全な出張ひろば

 

 ひろば型は、4つの基本事業に加え、いくつかの取り組み内容が与えられており、その1つが出張ひろばの積極的な開設である。地域のニーズや実状を踏まえ、近隣の公共施設等を活用し、週1日から2日、1日5時間以上開設し、ひろば型の職員が1名以上出張ひろばの職員を兼務して行うとされている。また、開設の翌年度にひろば型に移行することを念頭において実施するとされている。基準点数としては加算分の項目として挙げられており、出張ひろばを開設することによって、基準点数を増やすことができる。

 あさがおでは出前広場というイベント活動を行ったり、子育てサークルに出向いたり、地域の産婦人科に定期的に情報提供に行ったりしており、地域に出向いて活動が行われている。このような活動は年々増えてきているが、開所日数については週1から2日には程遠い。また、開設の翌年度にひろば型に移行できていない。

 中加積保育園では、ひろば型に移行してから、2か月に1回、ひろばのスタッフ2人で市の健康センターへ行き、「すこやか子育て相談」というイベント活動を行い、保育をしている。しかし、この活動は出張ひろばとは言えないと思われる。

 ハーツきっずでは、ひろばに来たいけど来られない人のために公民館で出張ひろばを年に4回くらい開いている。出張ひろばでは、ひろばの利用者に人気のある親子リトミックを行っている。しかし、次のような事実もある。これはハーツきっずのスタッフの前川雅美さんのインタビューでの語りである。

 

前川:ただ今(出張ひろばに)行ってて結構もう(ハーツきっずに)来てる人が多かったりもするので。来られない方々にどういうふうに知らせていけるかっていうところは課題ではありますね。

 

来たいが来られない人のために行っている出張ひろばが、実際にそのような人の支援になっているとは言い切れない。ひろばの利用者への支援も大切であるが、更に多くの子育て親子を支援するためにも、まずはひろばのこと、出張ひろばのことを知ってもらうことが必要だと思われる。出張ひろばを開くにあたり、駐車場の確保も問題となっている。利用者は車での移動が多いため、多くの駐車場が必要となっている。また、ハーツきっずでは、保健センターで他のひろばと合同で出張ひろばを行っている。他のひろばと交流することで、情報交換ができたり、新しい利用者が増えたりするので、両者にとってメリットがある。このような活動を行っているが、出張ひろばの開所日数規定を満たしておらず、出張ひろばからひろば型への移行もできていない。

 このように、3つのひろばでは、出張ひろばに似た活動が行われている。しかし、どの活動も出張ひろばとは言えない。ここで注目したいのが、出張ひろばと同じく、基準点数を算出する加算分の項目にある、地域の子育て力を高める取組の1つである、「公民館、街区公園(児童遊園)、プレーパーク等の子育て親子が集まる場に、職員が定期的に出向き、必要な支援や見守り等を行う取組」である。3つのひろばで行われている出張ひろばに似た活動は、出張ひろばというよりこちらの方が当てはまるように感じられる。

 

 

第四節 地域の子育て力を高める取

 

 地域の子育て力を高める取組は、出張ひろばと同じように、基本事業に加えて実施するよう努めるとされている。この取組は4つの取組があり、いくつの取組を実施しているかで基準点数を算出する加算分が異なってくる。第四節では、第三節に述べた「公民館、街区公園(児童遊園)、プレーパーク等の子育て親子が集まる場に、職員が定期的に出向き、必要な支援や見守り等を行う取組」を除く3つの取組について分析していく。

 

 

第一項 ボランティアの受け入れ

 1つ目は「中・高校生や大学生等のボランティアの日常的な受け入れ・養成を行う取組」である。

 あさがおはボランティアの登録があり、現在約40名のボランティアがいる。あさがおのスタッフの川上由枝さんは次のように述べている。

 

川上:おばあちゃんもいたり、若い子もいたり。受け手側にも幅を持たせることによって、若いママであっても、ちょっと年配だと行きづらいなって思うようなことも、おばあちゃん世代がいたり、スタッフなんかでも若いスタッフもいれば、どっかに接点もってくれればいいっていう体制。家族のような体系ね。おじいちゃんがいて、おばあちゃんがいて、お母さんがいて、お姉ちゃんがいて、赤ちゃんがいてっていう。このひろばが、家でもない、実家のような、でも実家でもない、第三の居場所として、とっても大事にしたい。行きたい、頼りになれる場所としては、そういったスタイルがいいなあと思っているので。

 

あさがおでは家族のようなひろばのスタイルにするために、受け手側に幅を持たせるよう幅広い世代のボランティアを受け入れている。地域のおじいちゃんおばあちゃんや専門学生たちがボランティアに参加したいときに参加している。

 中加積保育園はボランティアを受け入れたい気持ちはあるが、機会がない。学生たちに勉強したい、一緒に遊びたいと言われれば受け入れるが、機会がない。また、積極的なお母さんがいないため、お母さん世代のボランティアもいないと話していた。

 ハーツきっずは、ボランティアはいない。ハーツきっずのスタッフの前川雅美さんは次のように述べている。

 

前川:ボランティア、最初できた当初はいたんですけど。生協がしている子育て支援だから、なんかそういったところの理念の違いっていうか、考え方の違い(があった)。利用者さんから見ると誰がボランティアで誰がスタッフかっていうのはわからない。例えば子育て相談にそのボランティアの人に乗ってもらったことにしても、なんか間違った答えをされて、ガンって落ち込んでしまうお母さんがでてきてしまったりとか。責任が持てない。やっぱりちゃんとした対応ができないといけないかなって思うので。そのボランティアさんを指導していくってわけにもいかないし、難しいところだったみたいですね。

 

このように、生協が行っている子育て支援という責任があり、ボランティアに任せられないため、ボランティアを受け付けていない。しかしボランティアの受け入れではないが、中学生の職業体験・社会体験の受け入れをしている。

 あさがおのように地域で育てることを強く意識しているひろばは、ボランティアの受け入れを行っている。しかし、中加積保育園のように機会がないひろば、ハーツきっずのように正しい知識を大切にするひろばのように、ボランティアの受け入れを行っていないひろばもある。

 

 

第二項 世代間の交流

 

 2つ目は「地域の高齢者や異年齢児童等と世代間の交流を継続的に実施する取組」である。

 あさがおでは、地域の高齢者との交流としておじいちゃんおばあちゃんと交流している。広域な地域を活かし、山側のほうに住んでいるおじいちゃんおばあちゃんと交流し、昔の子育てを教えてもらったり、生活の知恵を教えてもらったりしている。また、土曜日にひろばを開設しているため、保育園や小学校に通っている兄弟姉妹やひろばの卒業生が一緒にひろばに参加しており、異年齢児童との交流の場にもなっている。

 中加積保育園は、ひろばが保育園内にあるということもあり、異年齢児童との交流が盛んである。保育園のイベント活動に参加して交流することもあり、お母さんが保育園の雰囲気を知る機会にもなっている。高齢者との交流も、保育園のイベント活動が定期的にあるため、一緒に参加することがあり、話をしたり、昔の遊びを教えてもらったりしている。高齢者とのイベント活動はひろば単独で行ったことはまだない。

 ハーツきっずでは、世代間交流はほとんどない。ハーツきっず羽水の建物の隣に、同じく福井県民生協が実施している高齢者施設があり、防災訓練を一緒に行っている。しかし高齢者施設側に子どもがいるのは危ない部分があり、迷惑になるのではないかと考えている。また、異年齢児童との交流として、保育園の交流をしたいと考えてはいるが、難しい状況にある。ハーツきっずが一時預かりもしているため、保育園にチラシを置くことを断られることがある。地域に保育園が多いこともあり、繋がって交流をしていきたいという思いは大きいが、現在はできておらず、今後の課題となっている。

 このようにしてみると、世代間交流はひろばの特徴に関係していると考えられる。あさがおは広域な地域を活用し、高齢者や異年齢児童との世代間交流が盛んである。中加積保育園は保育園内にあるため、異年齢児童との交流ができたり、保育園の高齢者との交流のイベント活動に参加することができる。ハーツきっずは企業ということもあり、交流が難しい部分がある。

 

 

第三項 父親の子育て参加を促進する

 

3つ目は「父親サークルの育成など父親の子育てに関するグループづくりを促進する継続的な取組」である。第三項ではひろばでの父親子育て参加を促進する活動を分析していく。

あさがおでは父親を対象とした講座を行っている。また、イベント活動時には力仕事を父親に手伝ってもらっている。現在、父親たちがサークル(パパネットあさがお)を設立し、定期的に活動している。

ハーツきっずでは、「お父さんと遊ぼう」というイベント活動を実施している。父親に子どもに関わってもらい、その間母親はリフレッシュの時間を持つことができる。イベントを通し、父親が子どもの成長を感じることができる。また、他の子どもを見ることで発見があったり、他の父親の話を聞いて励みになったりする。イベント活動では、消防署や飛行場など、外に出る活動で父親も楽しめる内容を考えている。また、父親のNPO団体の人を講師に呼び、講演を行うこともある。

中加積保育園では、年に数回、平日は働いている父親も参加できるように土曜日にミュージックケアのイベント活動を実施している。しかし、「お父さん」と限定し、大々的に「お父さんと遊ぼう」という感じではなく、「いつも遊べないお父さんお母さんと一緒に遊ぼう」という感じで行っている。このことについて、中加積保育園のスタッフの青木祐紀さんは次のように述べている。

 

青木:あんまり「お父さん」を大々的に出すのもどうかなって。今のご時世ちょっと考えてしまう。まあお父さんも大事なんだろうけどー、なんかねぇ。

山口:そんなにこだわらず、

青木:うん、みんなでおいでよ、みたいな。

 

このイベントには8、9組、多い時は12組の親子が参加している。そのうち父親の参加は2、3名である。今後はプレパパ・プレママひろばを実施する予定であるが、こちらも父親だけ、母親だけ、ということはなく、親になる方々、そして生まれてくる子どもに対する支援にしていく。また、保育園の父親クラブを巻き込むことで、ひろばにも父親の参加を増やせないかと考えている。

 3つのひろばが父親の子育て参加を呼び掛けており、このようなひろばが多いことが多いことが考えられる。

 

 

第五節 まとめ

 

 第三章まで、ひろばの活動は子育て支援対策として有効なものであると述べてきた。しかしここで、要綱や基準点数表といった国が決めた規定と照らし合わせてひろばの活動を見てみると、課題が見えてきた。それは、制度として規定された活動内容と実際に行われている活動内容にずれがあることである。特に出張ひろばでは大きなずれがあり、規定された活動内容と、実際の活動内容では異なる点が多々あった。また、ボランティアの受け入れ、世代間の交流についても、それぞれのひろばの事情によって、活動にばらつきがあった。このような制度と実態とのずれの背景を第六章で考察していく。