第四章 ひろばの活動

 

 

 第四章では、3つのひろばへのインタビューやフィールドワークによって得られたひろばの活動についてのデータから、共通しているひろばの活動、それぞれの個性的な試みをまとめていく。

 

 

第一節 自由で安心な空間づくり

 

 インタビューの中では、【自由、リラックス、のんびり、安心、ほっとできる、気楽、息抜き、開放的、仲良し、安全、清潔】などの雰囲気を表す言葉が多く見られ、そのような空間づくりを心掛けていると思われる。

 今回調査を行った3つのひろばが開設時間内いつでも利用者を受け入れる態勢を整えている。通常開設時のひろば内での活動はプログラムがなく、自由となっている。自由な中で、遊び、友人づくり、情報交換、育児相談などが行われている。また、ひろばが仕切りのない1フロアーであることも自由な雰囲気を感じさせる1つの理由であると思われる。また、1フロアーで目が届く範囲に子どもがいることから、安心させることができていると思われる。

あさがおの利用者からは、あさがおを「第二の家」と言う語りが見られた。「ひろばに来れば知っている人がいる」「先輩ママに心配なことを聞ける」などという語りがあり、家と同じような「気楽」「安心」な空間となっていることがわかる。中加積保育園では、ミニサロンのころは細かく時間が決められていたが、ひろば型になってからは時間内のどの時間に来てもいいという形をとっている。ハーツきっずではリラックスできる空間を作ることで、その中での利用者の会話を聞き取ることができている。

 ただし、基本的にはプログラムがない自由な雰囲気で活動をしているが、中加積保育園とハーツきっずはみんなで何かをするという時間も大切にしている。それは、おやつの時間や片づけの時間などの前後に手遊びや体操、絵本や紙芝居の時間を設けている。ハーツきっずでは利用者が集まっているそのときに子育てアドバイスや交通安全について一言伝えるようにしている。このように、少しプログラムを取り入れているひろばもある。

 

 

第二節 多様なニーズに合わせた活動

 

前川:お母さんが何を望んでいるかを聞かないと。わたしらだけが、こうこうやって提供してれば絶対いいっていうことではなくって、お母さんとして望んでるのはどう?、っていうところをやっぱり聞いてかなきゃいけないんで。やっぱり現場であるこの子育てひろばで聞く声が一番後で活きてくる声だと思うので、何気なく横に座りながら話したりだとかして、聞き出してくっていうか。うん。そこが一番難しいといえば難しいんですけど。

 

 これはハーツきっずのスタッフの前川雅美さんとのインタビューでの語りである。ひろばの利用者である親のニーズは常に変化しており、多様化している。ひろばでは第一節で述べたように、安心して話せる雰囲気が作られているため、親のニーズを聞き取ることができる場所であると考えられる。今回調査を行った3つのひろばは、その聞き取ったニーズに応える活動をイベントとして企画し、実施している。

 あさがおでは、ひろばが開設されたころから、全てのイベント活動をスタッフと利用者が共同で企画して行っている。利用者の声からニーズを汲み取り、利用者の求める支援を行うことで、当初は何もなかったひろばのスタイルを自分たちの手で形にしてきたと言える。行動力のある利用者たちはイベント活動の企画だけではなく、運営にも協力をしている。中加積保育園では、未入園児の親が気になっている保育園内の様子を見学することができ、ニーズに応えることができている。ハーツきっずでは、利用者がリラックスして会話をしており、その中の声をスタッフが聞き取り、利用者が求めていることは何かということを考えている。またイベント後のアンケートなどに要望を書いてもらっている。そして、利用者の声からイベントの内容が考えられており、新しいイベントを始めたり、人気のあるものは回数を増やしたりしている。

 近年は父親の子育て参加が呼びかけられている。父親の子育て参加により、母親の育児不安が軽減されるということもあり、このことには母親のニーズに関与していると考えられる。利用者の声から実施することになったかは明らかではないが、3つのひろば全てで父親の子育て参加につなげるような活動が行われるようになっている。また、ハーツきっずでは最近、子育て中の親子だけではなく、初めて妊娠した人に対しての支援として、プレママひろばを実施している。中加積保育園のスタッフの青木祐紀さんは次のように述べる。

 

青木:プレママひろばというのを今度行います。何かというと、今ここの施設って、施設に子どもさんをつれてお母さんが遊びに来られる形で、子どもさんを産んだ方が利用されてるじゃないですか。子育てに悩みのある方にここを利用していただいて、いろんな情報交換とかをしてもらうことで、子育てに前向きになってもらうというところなんですけど。じゃあ妊娠をされて初めての子どもさんを持たれた方に対しての支援というのはどうかな、と。やっぱりその方々って、周りにおじいちゃんおばあちゃん、というかお父さんお母さんがいらっしゃれば、いろいろ聞けたりはするんだけど、今案外核家族も多かったりするので。初めて妊娠された方が何をどうしていいか、不安も大きいだろう、と。そういったところをいろいろ知識を増やしてあげれる場があるといいかなーというので、助産師さんに来てもらって、おなかの中でどうなっているのかを教えてもらったりとか、うん。

 

また、中加積保育園でもプレパパ・プレママひろばという妊娠中のお母さんとその夫が対象のイベントが考えられており、現在はその準備段階である。この2つのひろばの活動から、ひろばが更に多くの子育てに関わる人のニーズに応え、支援をしていこうという意識が感じられる。

 

 

第三節 親が育つようにサポートする活動を目指す

 

 ひろばでは親の「サポート」が行われ、ひろばの利用を通し、何かを学び、成長することが運営方針として意識されていると思われる。そのことは、スタッフの意識や育児相談の活動についての語りから考えられる。

あさがおのスタッフの川上由枝さんは次のように述べる。

 

川上:(スタッフは)あくまでもこの場の黒子的な、脇役で、お母さんたちが主役で、いろいろとこう助け合って、学びあっていく、その後押し…っていう部分で徹底しているので。

山口:先生とかそういうのではなくという感じですね。

川上:そうそう。そこがやっぱりひろばというもののいいところだと思います。

 

このように、あさがおのスタッフは「後押し」という意識を持って、利用者の子育てのサポートを行っている。ハーツきっずは、生協が行っている子育て支援であるため、利用者が「お客様」となってしまうところがあるそうだ。利用者が自分はお客様だと考え、やってもらえて当然という考えになってしまっているのだ。ハーツきっずとしては、ひろばを離れたときに1人で責任を持って子どもを育てていけるようなお母さんが育つように、いろんな形でサポートをしていこうとしている。また、中加積保育園の園長の柳溪暁秀さんは、ひろば型に期待する活動について次のように述べる。

 

柳溪:親としてつながりをもっともっと自分たちから持てるような、サークル活動とか、意見を言うとか、そういったふうに発達していってほしい。場を提供するから、いろんなことしてくださいよ、応援しますよ、提供するんじゃなくて応援しますよ、後押ししますよという。そういったふうになっていくのがいいなとわたしは思う。それを期待している。

 

中加積保育園では、園で提供しているひろばの支援で後押しを行い、それをきっかけに親が成長することを期待している。ひろばを開設した当初はグループを作っていた利用者たちが、今はそういったグループを作らないようになり、柔らかな雰囲気のゆるやかな集まりとなっており、母親がリラックスし、成長していることを柳溪さんは感じ取っている。

 

 

第四節 それぞれのひろばの個性的な活動

 

 ひろばの活動を調べていくと、そのひろば独自の活動や、特徴的な活動がある。そこで、3つのひろばの個性的な活動を取り上げ、まとめていく。

 

 

第一項 地域との連携

 

 あさがおのイベントは、お誕生日会、季節の行事、年齢別広場、講座、育児相談などのひろば内で行うイベントだけではなく、ひろばの外に出ての活動が多くあることが特徴的である。お散歩、出前広場、地域の祭りへの参加、お芋掘り、おじいちゃんおばあちゃんとの交流会などといった活動を行い、幅広く地域の人を巻き込んでいる。活動を通し、ひろばの存在を多くの人に知ってもらうこと、地域の子どもたちという大きなくくりで子育てに貢献すること、そして活動に関わる地域の人たちが子どもたち向けに動くよう動機付けをすることを目的としている。

これらは、ひろばのある白山市が広域であることを活かし、外に出て活動を行うことで、活動範囲を自ら広げようという意識を持って行われている。このように活動範囲を広げる活動ができるのは10年間で培った人的ネットワークがあるからである。行政側では担当課の子育て支援課だけではなく、他の課も協力してくれることがあり、観光、国際交流、生涯学習、男女共同参画などの分野にも関わることができている。例えば、白山ろく振興課に協力してもらい、おじいちゃんおばあちゃんとの交流会を行ったり、国際交流課に協力してもらい、外国人の子育て中の方への支援を行ったりしている。

あさがおには地域の人たちが欠かせない。中でも商店街の人たちとの繋がりはとても強いものである。元々商店街にひろばがあったため、その繋がりをずっと大切にしており、地域にとても愛されたひろばである。

 利用者の声には、「ひろばのイベントに参加すると知らないうちに地域の人とかと話す機会が増える」というものがあり、イベントに参加しなければ接点がないおじいちゃんおばあちゃんとの世代間交流や、商店街のお便り配り、ひろばに来ること自体にも地域との繋がりが感じられている。ひろばは子育て親子と地域を結ぶ橋のような存在になっていると考えられる。

 

 

第二項 保育園にあることを活かす活動

 

 中加積保育園では、保育園にあるからこそできる活動がある。

通常開設時には、第二節でも述べたように、気軽に保育園の見学ができることである。未入園児の親が、保育園がどのようなところかを実際に見ることができる。また、部屋から出て遊ぶ子どもがいるが、保育園内にあるためどこへ行っても保育士がいるので利用者は安心でき、リラックスできる。また、育児相談を常に受け付けており、保育士、看護師、栄養士にいつでも相談することができる。保育園内にあるひろばでなくても、保育士は数名おり、相談することができるが、それ以外の専門的なことを相談できる職員はなかなかおらず、そのような相談は育児相談や講座の際に講師に質問するのがせいぜいであろう。

また、イベント活動には保育園の行事に参加し、在園児と一緒に、というものが多くある。誕生会は通常はひろば内だけで行われているが、年に2回は在園児の誕生会と合同で行っている。馬とのふれあいや人形劇、高齢者との交流などの保育園の行事に一緒に参加することもある。在園児とのイベントでは、利用者は保育園の雰囲気を知ることができ、同じくらいの年齢の子どもたちを見ることでいろいろ発見があり、まだ保育園にいれていないからわからない利用者にとっては貴重な機会となっている。

しかし、夏季のプールの利用など、在園児との兼ね合いでスケジュールを工夫しなくては利用できないものもあり、保育園にあるからこその問題もある。

 

 

第三項 地域の制度を利用した活動

 

 ハーツきっずのある福井県では、2005年より、保育士、歯科医師、看護師など子育てに関する国家資格を有する人を「子育てマイスター」として募集・登録し、経験を活かし、ボランティアとして子育て講座や育児相談などの活動を行う「子育てマイスター制度」というものがある。ハーツきっずではこの「子育てマイスター制度」を利用し、子育てマイスターを講師に呼び、子育て講座を開いている。食育講座、歯についての講座、薬についての講座などがあり、専門的なことを気軽に相談することができ、助言してもらうことができる。

特に、食育講座では、生協が行っているということもあり、食に関しての知識を強く伝えることができている。旬のものを使った手作りおやつ、離乳食講座、食に関する知っていると得な知識の講座など、利用者の興味をそそるようなものが行われている。知識が高まることで子どもに安全なものをという意識を高めることを目的にしている。

 

 

第五節 まとめ

 インタビューを行い、3つのひろばで共通、または類似したものをまとめたことで、ひろばの活動の特徴がわかってきた。ひろばは利用者が話しやすい空間・雰囲気を作られており、そこで見えてきたニーズに合わせた活動が企画・実施されている。しかしその支援は提供するだけではなく、親が子どもと向き合い、成長していける子育てに導く、サポートが目指されている。また、それぞれのひろばが自分たちにできる、ニーズに合っている、そして利用者が楽しめる、それぞれの強みを活かした独自の活動をすすめている。

 実際のひろばの活動を知ることで、ひろば型の活動は子育て支援対策として有効なものであり、今後も利用者に寄り添った、柔軟な支援が行われていくだろうと感じた。しかし、これらの有効に思われる活動は、次の章で論じるように、社会的に広まっていくには課題があると考えられる。