第二章 地域子育て支援拠点事業ひろば型とは

 

 

第一節 子育て支援対策の経緯

 

 1.57ショック(1990年)を契機に、政府は出生率の低下と子どもの数が減少傾向にあることを問題と認識し、それ以降、「エンゼルプラン」、「新エンゼルプラン」などを策定し、少子化対策に取り組んだ。仕事と子育ての両立のための雇用環境の整備を行うと共に、保育サービスの充実や地域子育て支援センターの整備などもすすめられた。

 その後も少子化は急速に進行し、少子化対策を改めて点検し、少子化の流れを変えるための実効性のある対策について改めて検討することになり、厚生労働省は2002年、「少子化対策プラスワン」を取りまとめた。「子育てと仕事の両立支援」を中心としてきた従前の対策に加え、「男性を含めた働き方の見直し」、「地域における子育て支援」、「社会保障における次世代支援」、「子どもの社会性の向上や自立の促進」といった4つの柱に沿った対策を総合的・計画的に推進することとし、政府・地方自治体・企業等が一体となった取組みを進めることとなった。プラスワンの中では、本論文で調査する地域子育て支援拠点事業の先駆けである「つどいの広場」や「地域子育て支援センター」の設置が推進されている。

 プラスワンに掲げられた事項について、その実現を図っていくために、ここの地方自治体や企業における総合的な取組みを推進するための枠組みの整備を行うことが必要となり、その後の対策の基盤となる「次世代育成支援対策推進法」が2003年に成立・公布された。この法律によって、地方公共団体、企業等は次世代育成支援に関する行動計画の策定が義務付けられた。2005年には本格施行され、策定された計画に基づく取組みが進められている。

 2003年には少子化社会において講ずべき施策の基本理念を明らかにし、少子化に的確に対処するための施策を総合的に推進するための枠組みとして「少子化社会対策基本法」が制定された。

 また、2004年には少子化社会対策基本法に基づいて、少子化に対処するために政府が講じるべき施策指針として、「少子化社会対策大綱」が閣議決定された。ここでは、政府の取り組みの方向性を視点として、自立への希望と力、不安と障壁の除去、子育ての新たな支え合いと連帯の3つを掲げている。前者2つは主に職業、職場関連のことであり、後者は子育て・親育て支援社会をつくり、地域や社会全体で変えていこうとするものである。また、重点課題として、若者の自立とたくましい子どもの育ち、仕事と家庭の両立支援と働き方の見直し、生命の大切さ、家庭の役割等についての理解、子育ての新たな支え合いと連帯の4つが挙げられている。

同年には、少子化社会対策大綱に基づく重点施策の具体的実施計画として「子ども・子育て応援プラン」が決定された。このプランは、少子化社会対策大綱の掲げる4つの重点課題に沿って、2009年度までの5年間に講ずる具体的な施策内容と目標を提示している。また、概ね10年後を展望した「目指すべき社会の姿」を提示している。子育ての新たな支え合いと連帯の具体的施策の1つとして、地域における子育て支援の拠点の整備が挙げられている。2004年度に2,954か所であるのを2009年度までに6,000か所に増やすという目標を提示している(つどいの広場事業:2004年度 171か所→2009年度 1,600か所、地域子育て支援センター事業:2004年度 2,783か所→2009年度4,400か所)。

それからは「少子化社会対策大綱」及び「子ども・子育て応援プラン」に沿って、若者の自立や働き方の見直し、地域の子育て支援等、総合的な取組みを進めることで、子育て支援対策が行われた。

 2010年、「少子化対策大綱」及び「子ども・子育て応援プラン」が見直され、新たに子ども・子育て支援の総合的な対策である「子ども・子育てビジョン」が閣議決定された。この「子ども・子育てビジョン」では、子どもが主人公(チルドレン・ファースト)であると位置付け、「少子化対策」から「子ども・子育て支援」へと考え方を転換しており、社会全体で子どもと子育てを応援する社会の実現を目指し、2010年度から2014年度までの今後5年間で目指すべき施策内容と数値目標を掲げ、保育サービスの充実やワーク・ライフ・バランスの推進など、子どもの育ちを社会全体で支えあう環境づくりに取り組んでいる。子ども・子育てビジョンには目指すべき社会への政策4本柱と12の主要施策というものがある。その中で地域子育て支援拠点事業については「多様なネットワークで子育て力のある地域社会へ」という柱の「子育て支援の拠点やネットワークの充実が図られるように」という施策に組み込まれている。また、数値目標として2010年度に7100か所である地域子育て支援拠点事業を2014年度には10000か所にすると掲げられている。現在もこの「子ども・子育てビジョン」に沿って子育て支援が実施されている。

 これまでの子育て支援対策の経緯を図にすると図2−1のようになる。

 これをみると、これまでの子育て支援対策にはエンゼルプラン、新エンゼルプランの策定後、主に2つの流れがあることがわかる。1つは「少子化対策プラスワン」から始まる「次世代育成支援対策推進法」の成立、そして本格施行され、地方公共団体、企業等に行動計画の策定が義務づけられるようになったという流れである。もう1つは2003年に制定された「少子化社会対策基本法」から始まる、「少子化社会対策大綱」、「子ども・子育て応援プラン」、そして2010年の「子ども子育て応援プラン」が閣議決定され、少子化対策から子ども・子育て支援と考え方を転換した流れである。

 また、地域子育て支援拠点事業のような社会全体で子育てを行うような意図は、時間の経過とともに強まってきていることがわかる。「エンゼルプラン」や「新エンゼルプラン」、「少子化対策プラスワン」など対策が始まったころは、そのような意図はあったが、どちらかというと子育てと仕事の両立支援が重視されていた。しかし「子ども・子育てビジョン」では社会全体で子育てを行うことを基本的な考えに位置づけるようになっている。


 

図2−1

 

 

第二節 地域子育て支援拠点事業の概要

 

 先に述べた通り、2002年「少子化対策プラスワン」以降、国では地域における子育て支援の充実を図る施策として、保育所等において育児不安について専門的な相談ができる地域子育て支援センター事業や子育て親子が気軽に集い、交流ができるつどいの広場事業により、子育て支援の拠点づくりを推進してきた。2007年度からは、これらの事業とともに児童館の活用も図り、新たに地域子育て支援拠点事業(ひろば型、センター型、児童館型)として再編し、子育て家庭が歩いていける身近な場所に親子で集まって相談や交流ができるよう、すべての中学校区での設置(全国10,000か所)を目指して拡充を図っている。

この第二節では厚生労働省の地域子育て支援拠点事業実施要綱及び平成23年度子育て支援交付金交付要綱をまとめていく。

 

<趣旨>

 少子化や核家族化の進行、地域社会の変化など、子どもや子育てをめぐる環境が大きく変化する中で、家庭や地域における子育て機能の低下や子育て中の親の孤独感や不安感の増大等といった問題が生じている。このため、地域において子育て親子の交流等を促進する子育て支援拠点の設置を推進することにより、地域の子育て支援機能の充実を図り、子育ての不安感等を緩和し、子どもの健やかな育ちを促進することを目的としている。

 

<実施主体>

 実施主体は市町村(特別区を含む。)である。ただし、事業の運営の全部又は一部を適切な事業運営が確保できると認められる社会福祉法人、特定非営利活動法人又は民間事業者等に委託等をすることができる。

 

<基本事業>

地域子育て支援拠点事業の基本事業は以下の4つである。

1 子育て親子の交流の場の提供と交流の促進

2 子育て等に関する相談、援助の実施

3 地域の子育て関連情報の提供、

4 子育て及び子育て支援に関する講習等の実施

この4つの事業全てを行うことが決められている。この基本事業以外の活動は、実施形態や実施団体によって異なる。

 

<実施形態>

1.ひろば型

 常設のつどいの広場を設け、地域の子育て支援機能の充実を図る取組を実施している。従事者は子育て支援に関して意欲があり、子育てに関する知識・経験を有する者が2名以上、実施場所は公共の空きスペース、商店街空き店舗、民家、マンション・アパートの一室等、開設日数等は週3日以上、1日5時間以上とされている。

 詳しい事業内容については第三節で述べる。

2.センター型

 地域の子育て支援情報の収集・提供に努め、子育て全般に関する専門的な支援を行う拠点として機能するとともに、4つの基本事業に加え、地域支援活動を実施している。従事者は保育士等が2名以上、実施場所は保育所、医療施設等で実施するほか、公共施設等、開設日数等は週5日以上、1日5時間以上とされている。

3.児童館型

 民営の児童館内で一定時間、つどいの場を設け、子育て支援活動従事者による地域の子育て支援のための取組を実施している。4つの基本事業に加え、地域の実情に応じ、地域の子育て力を高める取組を実施するように努めている。従事者は子育て支援に関して意欲があり、子育てに関する知識・経験を有する者が1名以上、実施場所は児童館、開設日数等は週3日以上、1日3時間以上とされている。

 

 下の表は近年の地域子育て支援拠点の整備状況である。

 

2008年度実績

2009年度実績

2010年度実績

 

 

 

(交付決定ベース)

地域子育て支援拠点

4,851か所

5,173か所

5,521か所

・ひろば型

1,233か所

1,508か所

1,965か所

・センター型

3,463か所

3,470か所

3,201か所

・児童館型

155か所

195か所

355か所

資料:厚生労働省資料

 

<費用>

 運営費用は保護者からの徴収等の他に、公的補助がある。

 地域子育て支援拠点事業は、一時預かり、乳児家庭全戸訪問事業等と共に、次世代育成支援対策推進事業の1つであり、国の「子育て支援交付金」の交付対象事業である。

 交付金は、2つの基準によって算出される。1つ目は、次世代育成支援対策推進事業評価基準(巻末資料)に基づいて事業量や取組内容について評価をし、基準点数を出し、その基準点数の合計点等を基に国が認めた額である。2つ目は、事業計画に掲げる事業の対象経費の実支出額の合計額から寄付金その他の収入額の合計額を控除した額に2分の1を乗じた額である。この2つの額の少ない方を選定し、交付額としている。

なお、2010年度において次世代育成支援対策交付金(2010年度までこの交付金の交付対象事業であった)による事業実績がある市町村においては、基準点数の合計点に、執行率(前年度基準点数の合計(実績)/前年度基準点数の合計(計画))に応じて定められた減額率を乗じることとしている。(執行率90パーセント以上→減額なし、90パーセント未満→減額率0.9

 指定都市(政令市)及び中核市に対しては、直接補助方式となり、国が直接交付決定を行う。その他の市町村に対しては、間接補助方式となり、国が都道府県に対して交付金を交付し、都道府県が市町村に交付している。交付金の配分は、国からの交付決定額の範囲内で、裁量により決定して差し支えないとされている。

このように、地域子育て支援拠点事業、一時預かり事業、乳児家庭全戸訪問事業等を行う事業者に対し、指定都市や中核市、都道府県、市町村を通じて支払われている。

 

 

第三節 ひろば型の概要

 

第一項 ひろば成立からの流れ

 

 本論文で注目するひろば型は、地域子育て支援拠点事業に統合されるまでは「つどいの広場事業」として実施されていた。「つどいの広場事業」は、2002年に発表された事業である。趣旨や事業内容などについても現在の地域子育て支援拠点事業とほとんど変わりなく、主に乳幼児(0〜3歳)を持つ子育て中の親が気軽に集い、うち解けた雰囲気の中で語り合うことで、精神的な安心をもたらし、問題解決への糸口となる機会を提供することが必要であることから、

   1 子育て親子の交流、集いの場を提供すること

   2 子育てアドバイザーが、子育て・悩み相談に応じること

   3 地域の子育て関連情報を、集まってきた親子に提供すること

   4 子育てサポーターの講習を実施すること

を行ってきた。実施主体や実施団体についても現在と変わりない。開設日数は週3日以上を原則としているが、開設時間については規定されていない。従事者についても規定されておらず、保育士免許などは必要とされていなかった。事業開始年度は28か所のひろばが活動していた。また、商店街の空き店舗を活用して保育サービスを行い、中小企業庁と厚生労働省の事業を併せて実施し、連携事業としても行われていた。(1)

 つどいの広場事業が進むうちに、地域における子育て支援の拠点については、量的な拡充とともに、当事者自身が共に支え合い、情報交換をし、学び合う地域子育て支援活動の原点に根差した活動を広げていくことが重大な課題であるという認識がされるようになり、2004年には「つどいの広場全国連絡協議会」が設立された。2007年より「NPO法人子育てひろば全国連絡協議会」として、現在も活動している。協議会では、子育て支援者の資質向上に向けて、各種セミナーや研修会の開催などが行われている。

 2005年には、次世代育成支援対策交付金(現在は子育て支援交付金)に組み込まれる形となり、2007年には地域子育て支援拠点事業の、ひろば型として、センター型と児童館型と共に再編された。このように、ひろばでの支援が重要であると認識されてきていることがわかる。

 2009年からは、一時預かりや、放課後児童クラブなどの子育て支援活動をひろば型の基本事業と一体的に実施するひろば機能拡充も図られている。これにより、ひろば型の施設を中心とした関係機関とのネットワーク化を図り、子育て家庭によりきめ細やかな支援を行うことが期待されている。

 

 

第二項 ひろば型の事業内容

 

 第二節で述べた通り、地域子育て支援拠点事業の基本事業は4つある。ひろば型では、この4つの基本事業に加え、いくつかの取組内容が与えられている。

 まず、地域のニーズや実情を踏まえ、近隣の公共施設等を活用して、ひろば型と同様の事業を実施する出張ひろばの積極的な開設に努めることである。出張ひろばは、開設の翌年度に、ひろば型に移行することを念頭において実施され、週に1日から2日、1日5時間以上、ひろば型の職員が1名以上出張ひろばの職員を兼務して行うとされている。また、実施場所については、地域の実情に応じて、開設後に変更することも認められている。出張ひろばによって、常設のひろばを開設することが困難な場所でもひろば型と同じ活動を行うことで、支援を拡充しようとしている。

 また、地域の実情に応じ、地域の子育て力を高めることを目的とした取組を実施するよう努めることである。この取組には4つある。

・中・高校生や大学生等のボランティアの日常的な受け入れ・養成を行う取組

・地域の高齢者や異年齢児童等と世代間の交流を継続的に実施する取組

・父親サークルの育成など、父親の子育てに関するグループづくりを促進する継続的な取組

・公民館、街区公園(児童遊園)、プレーパーク等の子育て親子が集まる場に、職員が定期的に出向き、必要な支援や見守り等を行う取組

 出張ひろば、地域子育て力を高めることを目的とした取組に関しては、交付金の算定の基準となる評価基準の項目に挙げられている。これらの活動を行うことで、加算分として、点数が与えられる(巻末資料参照)。

 また、第一項でも述べた、ひろば機能拡充というものもある。一時預かりや放課後児童クラブなどの多様な子育て支援活動を実施することで、ひろばの機能を拡充し、ひろば型の施設を中心とした関係機関とのネットワーク化を推進している。この活動もまた、評価基準の項目に挙げられている。

 このようにしてみると、ひろば型の活動が、実施団体の意欲や工夫次第で豊かになることを期待する制度設計がなされていることがわかる。というのも、実施団体にとっては活動内容を充実させればその分の基準点数が与えられ、交付金額に関係してくるというモチベーションが持てるように思うからである。

 

 

第四節 まとめ

 

 これまで、子育て支援対策の経緯、地域子育て支援拠点事業やひろば型の概要について述べてきた。子育て支援対策の経緯をみると、「社会全体で育てる」という認識が明確になってきていることがわかる。そして地域子育て支援拠点事業は、そのための事業として整備されてきた。

 私が本論文で地域子育て支援拠点事業の中でもひろば型を取り上げる理由は、その事業内容に期待が持てると感じたからである。

 ひろば型は地域子育て支援拠点事業の3つの実施形態の中でも、一番条件のレベルが低いと思われる。それは、実施場所に選択肢があること、従事者の資格の有無にこだわらないこと、開設日数や開設時間が比較的少ないことをみればわかる。そのため、他の実施形態よりも多く実施か所の数を増やすことが可能であると思われる。つまり、子ども・子育てビジョンに掲げられた2014年度までに地域子育て支援拠点事業を10000か所に増やすという目標は、このひろば型の広がりが鍵を握っていると言えるだろう。

 地域子育て支援拠点事業、一時預かり事業、乳児家庭全戸訪問事業及び養育支援訪問事業については、2008年に成立した「児童福祉法等の一部を改正する法律」により、児童福祉法上の事業として新たに位置づけられるとともに、市町村に対し、事業の実施について努力義務が課されるようになった。また、これらの事業は第二種社会福祉事業として位置づけられた。第二種社会福祉事業とは、比較的利用者への影響が小さいため、公的規制の必要性が低い事業のことで、経営主体に制限がなく、すべての主体が届出をすることにより事業経営が可能な事業である。このことによっても、今後地域子育て支援拠点事業、特にひろば型が実施か所の数を増やしていきやすくなったとも考えられる。

 また、注目すべきは2009年から行われているひろば機能拡充である。多様な子育て支援活動を行うひろばには点数が与えられる。拡充を行うことで、ひろばの質を上げていこうという方向性が見える。

 このように、ひろば型は、数が増えるような規定となっており、そしてその機能も更に良くしていくことが推進されている。このことは今後に期待を抱かせる。

 しかし、はたして現場はどうであろうか。実際にひろばの実施団体は期待される活動を行い、機能拡充へと向かっているのだろうか。これはいくつかのひろばを調査することで見えてくる部分があると考えられるため、今回調査を行っていく。(2)