第八章 総量規制の分析

第一節 総量規制に対する書店の意識

第一項 大・中規模書店にとっての総量規制

 

 第四章第二節で触れた、2010年に行われた総量規制である日販ショックについて、P書店、X書店では実施されたことを把握していたが、日本出版販売とは契約をしていなかったので影響はなかった。

この日販ショックに対して、P書店のAさんは、本が売れない現状では販売数を増やすことで返本率を下げることは困難であり、仕入れを減らすことで返本率を下げる手段である総量規制を行わざるをえないのではと、一定の理解を示している。またX書店のDさんは、総量規制が行われた場合、売り上げを維持するために、より一層売れる商品を優先すると思われるので、結果として返本率を低下させる副次的な効果も考えられるという。その一方で、Dさんは、今契約している取次が総量規制を行ったとしても、書店としての対策が用意されているため、減らされて終わりということはないと語っている。具体的には、ブックライナーのような書店専用のオンライン書店から仕入れたり、店舗の間で本を移動させるといったりすることで、減数された分を補填するという手段があり、総量規制に限らず希望の冊数から大幅に減数された場合における書店の対策は十分考えられるとDさんはいう。ただし、オンライン書店で発注した場合、書店のマージンが下がるため、あまりもうけにはならないと語っている。

 

第二項 小規模書店にとっての総量規制

 

 Q書店では日本出版販売との契約をしていたため、日販ショックの影響を受けている。しかしQ書店では店頭販売の他にも本の配達を行うことで仕入れた本をほぼ売り切っており、常に返本が発生しない状態を維持していたことから、総量規制の下でもほとんど減数されることはなかった。一方で、周りの書店はこの総量規制によって大きな打撃を被っており、顧客の少ない地方の書店にはとても厳しいと語っている。そのためBさんは、Q書店の立場から言えば、総量規制には賛成であるが、配達を行っていなかった場合を考えると、もう駄目だったかもしれないと語っており、元々薄利な上に、家賃や土地代、人件費を払っている小規模書店が配本数を減らされると、大打撃を被ると分析している。

R書店では、日本出版販売とは契約をしていないため、総量規制の影響を受けていなかったが、Cさんは、配本が今の冊数から大きく減らされるのはやはり厳しいとしている。

 

 

第二節 分析

 

 配本が削られることは、書店にとって大きな負担になるといえる。だが決して書店に対策がないわけではなく、書店専用のオンライン書店の利用や、店舗間の商品移動といった対応をとり、求める商品を確保することができる。しかし、前者はただでさえ低い書店のマージンをさらに下げ、後者はチェーン展開をしている書店でしか行えない。特に小規模書店は、配達を行っているQ書店のような特殊なケースを除くと、非常に苦しい立場に立たされるといえる。

総量規制には、確かに返本率低下という結果を出しやすい側面がある。書店に配本される数自体が削減されることに加えて、Dさんが述べた、書店がより売れる本を優先することで返本が減る効果も見込める。しかし、それを割り引いても、書店にとって総量規制は、売り上げが削られる、対策を追われるといったリスクがあることから、喜ばしいものではない。そのため、第四章第二節にオンライン記事で述べられたように、書店には、マイナスではあっても決してプラスの影響はないといえる。