第五章 調査概要

 

本調査では、返本率の高さ、及びその対策の影響について、中部・北陸地域の書店を対象にインタヴューを実施した。調査協力店は以下の通りであり、上から、書店名、インタヴュイー、調査実施日、書店規模、従業員数、その書店の返本に対する意識を記している。

なお、本調査での書店の規模は、チェーン展開のエリアを基準とし、全国で展開している書店を大規模、特定の地域で展開している書店を中規模、個人で経営している書店を小規模とする。

 

P書店】

インタヴュイー:店長のAさん

第一回インタヴュー実施日:20101111

第二回インタヴュー実施日:2011年8月10

書店規模:大規模書店

従業員数:500名以上

 

・返本に対する意識

 

書店の返本率が高くなることの影響について、返品にかかる作業に軽視できないコストがかかること挙げられた。また、返本率が高いということは、入ってきた商品が売れていないためであり、売り上げの低下という問題が発生していると語っている。

P書店では、売り上げが右肩上がりであり、返本率も取次から指摘されるほど悪い数値ではないため、返本率対策は特に行っていなかった。Aさんは、もし仮に返本率対策を独自に行うとしたら、より売り上げを伸ばす努力をするという。ただし、売り上げを伸ばす努力はどこの書店でも当然行われていることであり、時勢もあって思うように売り上げが伸びないとすると、仕入れを絞るしかないと語っている。

 

Q書店】

インタヴュイー:店長のBさん

第一回インタヴュー実施日:20101218

第二回インタヴュー実施日:2011年9月11

書店規模:小規模書店

従業員数:3名

 

・返本に対する意識

 

 返本率が高くなることの影響について、出版社・取次が配本を削ることで生じる「売り損」と、返品にコストがかかることの二点が挙げられた。「売り損」とは、売れ筋の商品であるにもかかわらず早く売り切れてしまって、販売のできない状態に陥ることをいう。「売り損」が起きるような本は、他店においてもすべからく売れる商品であるため、追加の注文も難しいという。また、返品にかかるコストは、本を段ボールに詰める作業で生じる人件費と、返本を取次に送る運送代の二つがある。段ボール一箱で運送代が300円程度になり、マージンの少ない書店にとっては厳しい数字といえる。そのため、小規模な書店においても、返品のコストは重いものになっている。Bさんは、大規模な書店になると、扱う本の量も増えるため、小規模以上に人件費が必要になるので、非常に厳しいのではと推測している。

 また、Q書店では店頭販売の他に、本の配達サービスを行っている。この二つの販売方法で、仕入れた本をほぼ売り切ってしまうため、返本はほぼ発生していないと語っている。

 

R書店】

インタヴュイー:店長のCさん

第一回インタヴュー実施日:20111021

書店規模:小規模書店

従業員数:1名

 

・返本に対する意識

 

R書店は、雑誌のみを扱っている書店であり、すべての商品が前の号の販売実績に基づいて配本されている。さらに、売れない商品は少な目に発注するといった調整をCさんが行っているため、返本で困っているということはなく、高い返本率による影響も今のところはないと語っている。

 

X書店】

インタヴュイー:書籍担当のDさん

第一回インタヴュー実施日:201111月8日

書店規模:中規模書店

従業員数:約100

 

・返本に対する意識

 

 返本率の高さが書店に与える影響について、それぞれ関連性のある三点の問題が挙げられた。まず根本的な問題として、返本が増えることによって、配本が削られる問題があるという。具体的には、仕入れた本の量に対して、許容される返本率が定められており、返本がその数値を上回ると配本が削られる仕組みになっている。Cさんは、この問題によって、人気のコミックスなどの売れ筋の新刊が入ってこなくなることを危惧していた。この問題に関連して、二点目の問題は、在庫過多に陥ることが挙げられた。返本によって配本が削られることを防ぐため、書店はあえて返本を行わないという対策をとることができる。これによって、一つ目の問題を回避できるが、返すはずだった本が在庫としてたまることになる。さらに、この在庫過多を恐れ、自ら仕入れを減らしてしまうことによって、「売り損」が発生しかねないことが、三点目の問題として挙げられた。