第四章 総量規制

第一節 総量規制とは

 

 扱われる業界によって、地価の伸び率や汚染物質など、それぞれ異なるものを制限する用語ではあるが、出版業界においては、取次が出版社からの仕入数を削減することを指す。本の仕入数が減ることで必然的に書店に配本される本の量も削減されるため、返本の量を減らすことに限っては、最も確実な成果が期待できるが手段であるといえる。そのため、既存の販売制度や流通のシステムを変える、改善することで、その結果として返本率の削減させることを目指す責任販売制度やSCMと異なり、より返本に対して、良くも悪くもピンポイントに絞った手段であるといえる。

 確実な返本の減少を見込める反面、総量規制について業界全体での損得を見た場合、書店と出版社がそれぞれリスクを負うことになるといえる。出版社は、取次に本の納入部数が減らされることによって、その分の売上が削減され、かつその状態で返本分の金額を支払わなければならない。それによって、小田光雄(2010231232)は、出版社の経営状況によっては、そのまま倒産しかねないと述べている。書店にとっても、配本数が減らされることは、そのまま販売のできる商品が減ることを意味する。そのため、売れ筋の本であるほど配本数が減らされることで、より売り上げが削減されてしまうので、その影響は大きいと思われる。

 

 

第二節 日販ショック

 

 2010年1月に大手取次の日本出版販売によって行われた総量規制の通称。委託販売での本の取り扱いが増えているにも関わらず、返本率が増加傾向にあることから、日本出版販売が取り扱う委託販売制度での仕入数を目標値として5%削減した。この総量規制を行った年の日本出版販売の第63期(2010.4.12011.3.31)決算概況によると、書籍の返本率を前年比3.7%削減(35.5%)することに成功している。なお、この結果には、第三章第二節第三項で触れた、インセンティブ方式、インペナ方式の契約による成果も含まれる。また、出版産業全体で見ても、2010年は返本率が前年に比べて1.6%減少(39.0%)しており、日販ショックによる影響と見られている。

出版業界紙のShinbunka ONLINEの記事によるとこの総量規制に対して、日販の事前説明が不十分であったこともあって、出版社、書店からの苦情が相次いだ。中でも出版社からは、大した説明も行われなかったために、売り上げが減ることへの対策がとれなかった、重版の多い人気シリーズまで削減され、何を根拠に行っているのかわからないといった怒りの声が上がっている。また、小田光雄(2010231232)は、この総量規制に対して出版社による怒鳴りこみに近い抗議があったと述べている。その一方で書店の反応は分かれており、送品が半減されたとの不満がある一方で、特に減らされなかったと語る書店もあり、後者は上記のトリプルウィン・プロジェクトに参加していたことから、参加店には影響がないのではと推測されている。首都圏のリージョナルチェーン書店では、配本が削られたものを調べた結果、通常よりも3〜6割近く減らされており、極端に少なかったものは追加に発注といった対応をとっている。また、この総量規制による売り上げへの影響について、少なくともプラスの影響はないと断言している。