第六章 まとめ ―演劇と笑いの有効性―

 演劇の一番の良さは、『感覚的な伝わりやすさ』であると考える。聞き手は、コントを見て笑った瞬間に、何が逸脱的行動であるのか、そして人間はいつかは死ぬ存在であるということを理解する。それらを一般的な健康講座で図や絵を使って伝えようとしても、聞き手が自分の身になって考えるのはなかなか難しいと思われる。しかしこの講座では、演劇の登場人物に共感したり、反感の気持ちを持ったりしながら自分の日常生活を振り返ることができるのである。また、演劇と言っても、あらかじめ収録されたものを鑑賞するのではなく、聞き手が、複数の生身の人間が演じるのを自分たちの目の前で鑑賞するということは、特に高齢者にとってよい刺激になるのではないかと考えた。そうやって感覚的に多くのことを理解させながらも、日常生活での実践については決して押し付けがましくないのである。

そして、一般的な健康講座では作ることが難しい医療従事者と聞き手の互恵的な関係がある。これは、『コント』という存在がそうさせているのではないか。『コント』と聞いてかしこまる人はほとんどいないであろうし、また、いくら知り合いであるといっても、今から悲劇を演じる役者に、公演前に気楽に話しかけることができる客はまずいないだろう。会場の和やかな雰囲気を作り、会場に訪れる人みなの交流を促す。また、講座中も積極的に演じ手と聞き手のやりとりが行われる。これら全体の流れの中で、医療従事者と聞き手の互恵的な関係が形成されるのである。これらが演劇としてのコントの有効性ではないか。