第3章 地域おこし協力隊制度

 

第1節  概要

〜目的〜

総務省が制定した「地域力創造プラン」(総務省2011)では、地域おこし協力隊は、地域への貢献や、地方での生活を望む都市住民のニーズにこたえ、少子高齢化や人口減少に苦しむ地方を活性化するものとされている。また、協力隊員の地方への定住・定着も視野に入れている。

 

〜仕組み〜

地域おこし協力隊は地方自治体から委嘱され、3大都市圏(埼玉、千葉、東京、神奈川、岐阜、愛知、三重、京都、大阪、兵庫、奈良)をはじめとする都市地域から、13年ほど地域に移住、もしくは住所の籍を移し、担当地域で地域協力活動と呼ばれる活動を行う。地域協力活動は自治体ごとの状況や隊員の能力に合わせて、活動を行っていくものである。以下に「地域おこし協力隊要綱」(総務省2009)からの例をあげるが、具体的な活動内容は自治体ごとに決めることができる。

○農林水産業への従事等

○水源保全・監視活動

・水源地の整備・清掃活動等

○環境保全活動

・不法投棄パトロール、道路等の清掃等

○住民の生活支援

・見守りサービス、通院・買物等の移動サポート等

○地域おこしの支援

・地域行事、伝統芸能等コミュニティ活動の応援等

・都市との交流事業、教育交流事業実施の応援等

・地場産品の販売その他地産地消の推進のための取り組みの応援

地方自治体は、独自に応募、募集を行い、都市住民を受け入れ、地域おこし協力隊員として委嘱し地域協力活動に従事させ、隊員の活動終了後も定住・定着を支援するとされている。また、受け入れる自治体が受け入れ方や、行う活動をホームページや広報等を用いてオープンにし、住民や議会に説明責任を果たすことも重要である。

また、活動が円滑に実施されるように、複数人の受入れを同時に行うことと、隊員に対する隊員活動終了後の生活支援・就職支援等を同時に進めることが有効であるとされている。隊員の意向を尊重し、関係する各機関や住民等とも必要な調整を行ったうえであらかじめ地域協力活動の年間プログラムを作成し、地域協力活動の全体をコーディネートするなど、地方自治体には、責任をもって地域協力隊員を受け入れることが求められる。その他、隊員の活動が円滑に実施されるよう、必要な研修の実施、地域との交流の機会の確保などに配慮することが重要である。

地域おこし協力隊は、地方公共団体が自主的・主体的に取り組むべきものであり、総務省はその取り組み実績を事後的に調査のうえ財政上の支援措置を講じるものである。したがって、国に対する事前の申請等、特段の行為は要しない。総務省では移住・交流推進事業(JOIN)などの移住関連の団体と連携しながら、地方自治体に対して必要な財政上の支援を行い、情報提供を行うとされている。

 

〜財政措置〜

地方自治体が地域おこし協力隊事業に取り組む場合の財政支援については特別交付税措置を行う。受け入れ側地方自治体が負担した場合、地域おこし協力隊員1人当たり350万円を上限とする措置を行っている。必要経費の例としては、募集時のPR代、隊員の報償費、住居費、隊員の研修費などがあげられる。

また、似たような事業に「緑のふるさと協力隊」があげられる。これは平成6年から始められた事業である。4月からの1年間、18~35歳の若者を地方自治体に派遣するとなっている。住む住居(及び家賃)と光熱水費、基本的な生活備品(寝具・炊事道具・洗濯機、暖房器具等)は用意され、月5万円が生活費として支給される。活動内容は農産業の補助、観光PR、地域行事への参加といったもので地域おこし協力隊と似ている。事前研修(活動を始める直前)、中間研修(9月初旬)、総括研修(活動終了直後)の3回の研修を設けている。それぞれの研修を通じて協力隊員として大切なことや、農山村での経験を社会に伝える重要性などを学ぶ。月に一度のレポートの提出や、通信の発行、ホームページへの情報掲載などを通じて、現地での暮らしぶりや活動の様子を伝えている。

(総務省2011、移住交流事業地域おこし協力隊2011、地域自立応援施策研究会2010、特定非営利法人地球緑化センター2011

 

 

第2節  事例研究

 ここでは実際に行われている地域おこし協力隊の活動を「外部人材等の活用に関する調査研究会報告書」(財団法人自治総合センター 2011)から北海道喜茂別町をピックアップする。

 

北海道喜茂別町 (人口:2486人)

隊員数 10人(男8人、女2人)

開始年度 平成226

 

行政の声

〜きっかけ〜 

公共施設などの整備にめどがつき、農村集落の対策に取り組むことになった。集落で調査を行った結果、地域コミュニティの維持が困難になってきていることが判明し、外部からの人材を投入する必要があると判明したため。そこで、外部から移住・就業を促進し、集落の維持を図ると共に定住者の新しい知識や技術を活かして地域経済の活性化、交流人口の増大を図ることを目的として地域おこし協力隊員を募集することになった。

 

〜住民、議会への説明〜 

新しい発想を持った人材を導入する事、集落支援の公益的行動をする事、国の制度を活用する事で経済的負担が発生しない事を説明した。住民には受け入れ後も自治体の広報誌、JOINのホームページに活動報告を掲載、協力隊新聞を発行するなどして活動内容を報告している。

 

〜受け入れ地域〜

全集落を5つに分け、各地域に2名ずつ派遣。それぞれの地域に1名ずつ集落支援員を置き、隊員や住民との連絡や、助言を行っている。

 

〜活動内容〜

 地域行事の活動支援、高齢者支援、農業支援、企業、就業活動、新聞発行、文化活動などの自主企画事業とされている。

 

〜サポート〜

 受け入れや研修には街づくりの推進、環境保全、経済活動の活性化等の活動を行うNPO法人が協力している。事業全般のマネジメントや隊員の企業・就業支援も行っている。役場は役場や住民と隊員との間に立って全体的な調整役となる専任マネージャーを設置している。他にも集落支援員を設置して地域のしきたりを教える、地域のイベントに参加することを要請するといった支援を行っている。

 ハード面では住居を無償保証で貸与し必要に応じて工事を行う、車両の燃料代やインターネット、携帯電話代金の支給を行っている。

 

〜成果〜 

住民の生活の利便性の向上(買い物など高齢者の生活の安心が図られた)

地域への誇りや自身の回復(コミュニティ維持、生活支援により地域に住み続けることが可能になった)

地域の環境改善(不法投棄巡回パトロールでごみの発見、処理)

住民間での連帯感の増加(イベントに参加するようになった、隊員の活動によって住民の理解や協力が得られるようになった)

 

〜改善・継続〜 

事業終了後の隊員の定住化の取り組みと集落支援活動を両立させる事。

 

〜課題〜 

PR不足で隊員は何をしているのかと問われた。

農作業支援で隊員が手伝いに行かない農家から不満が出た。(不公平感が生じた)

住宅の確保が大変。

隊員に役割・目的意識をどのように持たせるか。

事業終了後の姿を行政も隊員も描けていない。

 

隊員の声(複数回答あり)

〜応募した理由〜 

・人の役に立ちたいから。(3人)

・自分の能力や経験を地域おこしに生かしたいと思ったから。(4人)

・地域おこしをして収入を得られる事が魅力的に感じた。(2人)

・人に勧められた。(2人)

・何か新しい事をしたかったから。(3人)

 

〜行政に求める事〜 

・町民への説明など受け入れ準備をしっかりしてほしい。(協力する体制を整えてほしい)(2人)

・町民となれば自然と何をやるか理解できるので管理してほしくない。(1人)

・メンタルケアをしてほしい。(1人)

・真剣に向き合ってほしい。(3人)

・隊員間で格差を作らないでほしい。(1人)

・任期後の生活支援(1人)

・特になし。(3人)

 

〜準備、心構え〜 

・地域性を掴むこと、地域の情報を把握しておくこと。(4人)

・協調性、柔軟性を養っておく。(1人)

・自然体で活動すること。(1人)

・やる気を持って強い志を持つこと。(2人)

・協力隊としての活動と町民としての活動の線引きが難しいことを理解しておく。

1人)

 

〜感想〜 

・色んな年代の人と触れ合えるのが楽しい。(1人)

・農作業の手伝いをすると感謝されるのでやりがいを感じる。(4人)

・コミュニケーションの大事さを感じた。(1人)

・地域の人に少しずつ認められていくのがうれしい。(2人)

・地域の方々が好意的に迎えてくれてうれしかった。(1人)

・高齢者の方々の仕事を取らないように支援することが難しい。(1人)

・農作業の大変さを感じた。(3人)

 

まとめ

各地域に2名ずつで派遣しており、さらに役場のサポート面として役場、地元と隊員との間に立つ専任スタッフが置かれている事で隊員の精神面で余裕を持ち、活動がしやすくなることが予想できる。成果の面でも地域コミュニティの促進に貢献している事がわかる。

隊員たちは人の役に立ちたい、自分の能力を生かして地域おこしをしたいといった奉仕精神を持っており、農作業を手伝うといったことで地域住民とのコミュニケーションをとっている。最初は打ち解けられなかった隊員たちが、徐々に地域内で打ち解けていることから、住民たちとは頻繁にコミュニケーションをとっていくことが大切である。また、準備として相手先の情報や地域性を知っておくことで活動がしやすくなると実感していることもわかる。

今後の課題としては任期後に隊員たちがそのまま移住できるように、行政や地元、NPOがどのように支援していくのか考えなければならないこと、行政が隊員の活動をさらに熟慮することであろう。