2章 先行研究

 

1節 都市と地方の交流

〜移住・交流事業を進める理由〜

空閑(2008: 55)によれば、都市と地方の移住・交流事業が盛んになりつつある理由として地方では次のような問題があるためとして以下の点を挙げている。
○人口減少問題
○限界集落の問題
(限界集落とは、人口の50%が65歳以上の高齢者になり、冠婚葬祭など社会的共同性の維持が困難になった集落のことを指す。 このことにより、生活機能維持が困難となる集落や、10年以内に消滅する可能性を持つ集落が存在している。)
○負のスパイラル
(地域の経済活動が人口減少によって縮小し、生活サービスやコミュニティレベルの低下を招いて循環的に衰弱していくこと。これらの問題によって、地域コミュニティの存続の危機に陥るところが存在している。)

また越智(2007: 36-37)によれば、生活面での地域格差がなくなってきていることと田舎暮らしに対する見方の変化が起こっているという。20年前までは田舎暮らしを希望する人は変わった人だと見られていたが、現在ではライフスタイルの一つになっておりサラリーマンにとっては憧れになっているという。地域自立応援施策研究会(2010)によれば、「団塊の世代」と呼ばれる世代は退職を機にふるさと志向が高まっている。また、LOHAS(ロハス)(1)といった言葉に代表されるように都市から地域への生活を望む層は若者を含め、着実に増加している。

このような地方と都市を取り巻く環境の中で、都市住民との交流を深めて、都市住民の地方への移住を促すことが、問題の解決策とされており、近年の都市と地方の移住・交流事業が盛んになりつつある要因である。

 

〜メリット〜

空閑(2008: 55-56)によれば移住・交流事業では、次のような効果も期待されているとしている。
○地域への経済波及効果

(地域経済へのプラス効果により自治体に入る税収が多くなる。)
○地域の産業構造の転換
(これまでの工場誘致や輸出産業に固執せず、戦略産業として、生活サービス産業を育成する必要があるが、移住・交流を推進することでその育成さらには創出が可能になる。)
○地域生活の向上
(上記の生活サービス産業の創出を受けて、移住者だけでなく、すでにそこに住んでいた地域住民にとっての満足度が高まり、地域生活の向上に繋がる。)
 これらのことから地方への移住を促すことは、地方での問題点を解決させ、さらなる地域の発展の可能性も秘めていると思われるとしている。

 

 2節 よそ者効果

 ここでは外から来た人をとらえるために文化人類学研究の「よそ者論」をレビューする。

 

1項 「よそ者」の概念

 敷田(2009: 80)では、よそ者とは、自分たちとは異質な存在と認識され、「よそ者」や「旅の人」など、地域外から来る外部者と述べている。赤坂(1992)は地域への生産活動への寄与を基準としてよそ者を大きく3つの種類に分類している。一つ目は観光客のような地域の宿に宿泊するが通過するだけの人。二つ目は仕事のために一時的に居住する人。最後に共同体の生産活動に参加する移住者である。

日常の地域では「よそ者」という言葉に否定的な意味を込めて使用されることが多く、好意的に受け止められたりすることは少ない。しかし、最近の地域づくりではよそ者が持つ「他者のまなざし」に対してより好意的に評価されることもある(敷田 2009: 80-83)。

 

 第2項 よそ者効果の説明

 地域づくりやまちづくりといった分野で、よそ者の役割が積極的に評価されるようになってきた。これは、よそ者が関わることで地域づくりが促進され、よそ者によって地域に無いものが提供されるという点を評価したものである。敷田(20052009)はこのような、よそ者が地域に関わることで起こる効果を「よそ者効果」 とし、「よそ者効果」には以下のものがあると述べた。

○技術や知識の地域への移入
(これまで地域になかった技術や知識を地域に取り入れることで、地域資源を有効活用することができる。また、地域づくりを進めるにあたり地域側に地域づくりの知識が不足している場合には、よそ者がその不足を補うことができる。)
○地域のもつ創造性の惹起や励起
(地域外からよそ者を呼び、その刺激を生かして地域内の創造性を高め、新しい魅力が生まれる。)
○地域の持つ知識(ローカルノレッジ)の表出支援
(ローカルのノレッジとは「土着の知」とも呼ばれ、地域で代々受け継がれてきた知識の事である。具体的には地域の山林の管理の仕方などがあげられる。また、地域住民は地域に慣れきっているため地域資源の価値やすばらしさに気付かないが、よそ者は地域に不慣れなためにこれを見出すことができる。)
○地域の変容の促進
(よそ者が持つ異質性は、地域側に驚きや気づきをもたらし、地域の変容を促進させる働きがある。もともと地域が持っている資源や知識をよそ者の刺激を利用して変化させることでもある。)
○地域とのしがらみが無い立場からの解決策の提示
(よそ者は地域のしがらみに捕らわれない立場だからこそ、優れた解決策を提案できる。)

一方、敷田(2009)は、こうしたよそ者効果は複合的に同時に起きており、以下のような弊害が存在するとしている。

○よそ者は自らリスクを負うことが少なく、第三者的なアドバイスに陥りやすい。
○アドバイスが地域の実情を認識した、適切な内容ではない可能性がある。
○よそ者が専門家である場合、地域側が盲目的に専門家に追従してしまうといったケースが起こり得る。それによって専門家が地域を去った後、元に戻ってしまう。

○地域の主体性を無視した一方的な変革は従来の外来型開発と同じで。地域に損失や将来的負担を持ち込むだけで終わってしまう場合もある。 

敷田(2005)では、よそ者を交えた地域づくりにおいて、よそ者が地域社会に参加するには「正当性」が必要とされている。「正当性」とは利益があることや行為の正しさ、文化的に必要とされることだという。また、よそ者の基準で活動を進めることは地域住民が持つ既得権益を侵し、それまで地域で中心だった人物が阻害されてしまい「しっぺ返し」を受ける可能性があると述べている。よそ者が意見や判断を明確にすることで軋轢を生む可能性もある。彼らが持つ異質性や発想を生かすには、よそ者が意見を主張しやすい環境を整えることが重要であり、よそ者の意見に耳を傾ける場を創る必要があるとしている。

地域づくりにおいて地域が変容するには、よそ者の持つ外部の文化を受容し、再編成しなければならない。よそ者の持ち込む知識や技能が地域を変容させたように地域住民には見えるが、実際には、そうした知識や技能を新たな文化に昇華させる能力は地域側に備わっている。このようなよそ者と地域住民との「相互変容」のプロセスこそが地域づくりでは必要とされていると述べている(敷田2009、同2005)。

 

3項 着眼点として

以上、敷田が示した地域におけるよそ者効果を中心にレビューした。そこから本論文では、以下の点を中心によそ者論とインタビュー調査で得られたデータを比較させたい。地域おこし協力隊の活動で、よそ者効果とそれによって生じるという弊害というのは本当に起こりうるのだろうか。そしてよそ者と地域住民との相互変容のプロセスは実際に起こりうるのか。以上の2点について後述の第5章で検証していきたい。