1章 問題関心 

 

 2010年の97日に、沖縄県・尖閣諸島で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突した事件で、2010114日に当時「機密」とされていた映像が動画共有サイトYouTube に投稿された。sengoku38を名乗る投稿者が深夜にアップロードした映像は、多くのネットユーザーに閲覧され、多くのコメントが寄せられた。動画はsengoku38のユーザーIDごと削除されたが、短時間の間にネットでの拡散が続いた。

 今回この事件が大きな反響を呼んだ原因として、一次情報が従来のマスメディア(新聞やTVなど)に先んじてネットで流されたこと、政府が「公開しない」として以前から注目を集めていた情報だったことなどが挙げられるだろう。

 様々な視点から新聞やTVなどのメディアでも大きく取り上げられ、ネット上でも物議を醸した。その中には、新聞やTVなどのニュースの中でネット上の「主語のない声」を掲載しネット上の「世論」として報道するもの、逆にネット上で新聞やTVなどの「報道」がネット掲示板で取り上げられ、それに対して様々なコメントがつくなど、相互のメディアに対して言及するものも見受けられた。

 新聞やTVなどのメディアによって、一つの公共圏(議論の場)とみなされる「ネット世論」、とくにネット掲示板におけるコミュニケーションの実態がどのようなものかを探った。