第2章 ダルクについて
第1節 ダルクとは
ダルクとは、薬物依存症者の当事者グループNA(Narcotics Anonymous)の活動により回復した近藤恒夫が、自らの体験に基づき創設したもので(近藤ほか2004)、Drug(薬物)・Addiction(依存)・Rehabilitation(回復)・Center(施設)の頭文字をとったものであり、現在全国に約50か所ほどある、民間の薬物依存症からの回復施設である。以下では、白川(2009)に基づいてダルクの概要を説明する。
ダルクでは、当事者の長期間にわたる薬物使用は、本人の「意思」の問題ではなく、依存症という慢性の病気と考え、依存症という共通の悩みを持つ当事者同士が、共同生活を通して、互いに助け合いながら「新しい生き方」を見つけ、しらふの喜びを感じ、再び社会の健全な一員として生活していくことが目標である。また、従来の医療や司法による治療や予防的介入とは異なり、回復を望む薬物依存症者に対し、先に薬物を断った薬物依存症者の当事者により、薬物を断つことへの手伝いが行われている。
第2節 ダルクの活動
1、薬物使用で失った生活習慣を仲間との共同生活を通して取り戻す。
2、アルコール依存の自助グループAAから派生した12ステッププログラムとミーティングを通して自己を見つめ直し、それを受け入れる新しい生き方を見つける。
3、ダルクでのリハビリ期間を終え、社会復帰後も「回復し続けるため(薬物をやめ続けるため)」、自助グループに通う習慣を身につける。
4、新しいメンバーへの手助けや、メッセージ活動、地域でのボランティア活動を通して、失っていた「アイデンティティ」や「自己の役割」を取り戻す。
5、薬物依存が病気であるという考え方を広く知ってもらえるように、教育、行政、医療の各機関や各施設での講演、メッセージ活動を行う。
6、薬物依存症者本人やその家族の相談を受け、自分の体験を基にアドバイスする。
これらのプログラムは、現在の医療施設では現実的にカバーしきれない、またその役割ではない分野であり、ダルクは、医療機関や更生施設と社会をつなぐ中間施設であると、考えている。
・ダルクの活動におけるメッセージ活動とは、薬物依存症などで苦しんでいる人々へ向けたものであり、薬を止めて生きている姿を見せること、今の生き方を伝えることである。病院や刑務所などは、治療や服役など形だけのものになりがちで、心までは元気になれない。つまり、今苦しんでいる人と共感し、同じ気持ちを分かち合っていくことが大切であるという。(林さんのインタビューより)
第3節 富山ダルクについて
富山ダルク (富山県富山市)
【事業内容】
・デイケア事業 習慣スケジュールに従って回復プログラムを実施
9ヶ月〜1年のプログラム「個人によって異なる」
その後就労プログラム「個人によって異なる」
(自分でアルバイト等を探すことから始めて、継続することを第一に考える。)
・ナイトケア事業 定員20名 24時間サポート体制
・相談事業 平日 9:00 〜 17:00
・地域におけるメッセージ活動 随時
・予防啓発活動 学校他講演活動、病院メッセージ 刑務所内授業(刑務所の方から グループまたは個人の授業を頼まれる。メッセージ活動と同じようなことをする。)
・富山県に家族会がない為、茨城、愛知、びわこ、新潟などの家族会を紹介
※デイケア・ナイトケア事業概要
精神病院あるいは刑務所から直ちに社会生活に戻った場合、薬物を再使用する割合が高く、また、たとえ再使用しなくても、社会復帰をするにはかなりの困難が伴う。家族の中の抱え込みなども同様。その困難を乗り越えるためには、同じ病気を抱えた仲間との共同生活によって、互いを鏡とし、共感と思いやり を築きながら、孤独に陥らない環境を保つ必要がある。ミーティングで自分自身を見つめ直し、午後からのリクレーションプログラムにより薬物を使わない楽しさを感じ、体力面からの回復もしていく。
この宿泊可能な中間施設(刑務所、精神病院から社会への架け橋となる)では、自らの病気を認め、自助グループ(NA等)に通う生活にも慣れ、社会復帰後も継続していく回復のプログラムを学んでいく。プログラム修了者に対しても、夜間緊急連絡や サポートを行っていく。
【職員】
代表 岩井 喜代仁
責任者 林 敦也
スタッフ 2名
スタッフは、1年以上のダルクプログラムを行い、回復した当事者が務める。個人の希望でスタッフ
になる。
【入寮者】
現在入寮しているのは18名でいずれも男性。年齢層は20代からおよそ50代。
【費用】
入寮費 1ヶ月目 ¥170,000(蒲団・本人日用品初期費用 ¥20,000を含む)
毎月 ¥150,000
・その他、別途医療費(歯医者)の立替金は、25日締めで別途請求。
・任意退寮(本人が勝手にダルクを飛び出る等)及び強制退寮の場合は、入寮費の清算返金はされない。
・生活保護受給者は、その範囲内で利用(入寮)可能。(本人ならびに福祉事務所と相談の後)
【内訳】
住居費 \30,000
プログラム費 \44,400
食費三食 \45,000
移送費NA \30.000
――――――――――――――
合計 \150.000
【基本的な週間プログラム】
|
月 |
火 |
水 |
木 |
金 |
土 |
日 |
7時 |
起床 |
起床 |
起床 |
起床 |
起床 |
起床 |
10時 |
9時〜 |
ハウス |
ダルク |
ステップ |
ダルク |
ダルク |
ステップ |
セルフケア |
13時 |
ボランティア |
洗車 |
海岸ランニ |
ボランティア |
運動(体育館) |
ステップ |
セルフケア |
19時 |
NA |
NA |
NA |
NA |
NA |
NA |
NA |
就寝 |
24:00 |
24:00 |
24:00 |
24:00 |
24:00 |
24:00 |
24:00 |
(2009年9月現在)
・朝に行うミーティングについて
基本は仲間の話を聞いて自分と向き合うプログラムであり、90%は聞くことである。
時間は午前9時から10時半くらいまでの約1時間半である。
ハウスミーティング…その週の流れをメンバーみんなで決める。通院などの個人の予定をみんなで把握しておく。
ダルクミーティング…過去の掘り下げを行い、他人に話し、聞いてもらうことで自分の問題は何な
のかということを明確化していく、
いわゆる棚卸(12のステップよりステップ4)をすること。入ったばかりのメン
バーはまだ、過去の話しかできないが、クリーン(1)が続いているメンバー
は、現状の話をしてもよい。90%が話を聞くことが目的である。
ステップミーティング…NAの12ステップに則って、感じていること、思っていることを話す。これは
新しい生き方をするためのものであり、12ステップを絶対と決めつけないで
個人の考えを尊重していくものである。
・午後の活動について
一応のスケジュールは組んであるが、月曜日のハウスミーティングで別のプログラムに変わることもある。その辺はスタッフとメンバーの裁量にゆだねられている。
<レクレーション>
地域とのかかわり、コミュニケーション。社会との距離を縮める。
<和太鼓>
1曲をみんなで協力して、練習し、演奏する。協力することの大切さを学ぶ。
<セルフケア>
自分で自分なりのプログラムをする。基本は自由時間みたいなものであり、個人個人が好きなことをする。
・NAについて
全国には各所にNAが存在するが、富山ダルクができた当初、まだ富山にはNAがなかった。そのため富山ダルクによって設立された。ダルクとNAは全く別のものであるが、富山ダルクがつくったものであるため交流が続いている。具体的には、夜に行われている近隣のNAミーティングにダルクのメンバーが参加している。NAは社会に出てなかなか薬を使いたいという気持ちを言えない人々の気持ちを吐き出す場所であり、そのような場を作りたいと思う人なら個人であれ誰でも作れるという。NAの詳しい内容は次節で述べる。
【禁止事項・厳守事項について】
入寮の際、必ず利用承諾書を提出。その用紙に書かれている禁止事項及び厳守事項には、集団生活を維持していくため、またそれ以上に本人同士を守るために、絶対に従う。
タバコは許容されているが、アルコールは禁止されている。また外部に連絡すること、男女の関係、暴力も禁止されている。
第4節 NAについて
NAとはナルコティクス・アノニマス(無名の薬物依存症者たち)の略で『12ステップ』を使った薬物依存症者の自助グループである。1953年にアメリカで始まって 以来、世界50ヶ国に広がっている。(中略)コミュニティに広がりを持つNAやAAのようなサポートグループが存在しなければダルクのようなリハビリセンターは存在し得ない。また、NAグループの多くのメンバーがダルクの卒業者・通過者である。ダルクプロ グラムでNAに出席することを強く提案することは重要な意味を持つ。ダルク卒業後もNAに出席し、『12ステップ』を実践し、「スポンサー」と呼ばれる相談者を得、各グループの中で役割を得る事でクリーン(1)な人生を継続できるからである。(北九州ダルクHPより引用、一部改変あり)
NAの12のステップ
1、私たちは、アディクション(依存症)に対して無力であり、生きていくことがどうにもならなくなったことを認めた。
2、私たちは、自分より偉大な力が、私たちを正気に戻してくれると信じるようになった。
3、私たちは、私たちの意思といのちを、自分で理解している神(ハイヤーパワー) の配慮にゆだねる決心をした。
4、私たちは、探し求め、恐れることなく、モラルの棚卸表を作った。
5、私たちは、神に対し、自分自身に対し、もう一人の人間に対し、自分の誤り の正確な本質を認めた。
6、私たちは、これらの性格上の欠点をすべて取り除くことを、神にゆだねる心 の準備が完全にできた。
7、私たちは、自分の短所を取り除いてください、と謙虚に神に求めた。
8、私たちは、私たちが傷つけたすべての人のリストを作り、そのすべての人たちに埋め合わせをする気持ちになった。
9、私たちは、その人たち、または他の人びとを傷つけないかぎり、機会あるたび に直接埋め合わせをした。
10、私たちは、自分の生き方の棚卸を実行し続け、誤ったときは直ちに認めた。
11、私たちは、自分で理解している神との意識的触れ合いを深めるために、私たち に向けられた神の意志を知り、それだけを行っていく力を、祈りと黙想によって求めた。
12、これらのステップを経た結果、スピリチュアルに目覚め、この話をアディクトに 伝え、また自分のあらゆることに、この原理を実践するように努力した。