第五章 考察

第一節 経済的活性化と精神的活性化

第二章で述べたように古屋・牧山は、経済的活性化と精神的活性化という二つの面から市民農園における地域活性化について論じた。この項ではとやまスローライフ市民農園と越中いっぷく農園の状況をその二つの活性化の方法と照らし合わせて、市民農園の地域活性化の寄与の可能性について考えていきたい。

まず経済的活性化について、より関わりが深いと考えられる市民農園はいっぷく農園である。いっぷく農園の場合、いっぷく農園で栽培した農産物をいっぷく市で販売出来るということが直接農園利用者や道の駅に対して経済的な利益に繋がっている。さらに私はこの市民農園が道の駅の付帯施設であり、農作物の販売が道の駅の建物内で行われているということが、市民農園による経済的な活性化をより深める要素になるのではないかと考えた。例えば市民農園が独立しており、施設に付帯されていなかった場合に農産物の販売を行おうとすると、まずは集客という壁が立ちはだかる。市民農園利用者がその農産物を購入するとは考えにくいため、外から人を呼び込む必要があるが、市民農園単体が存在しているというのは、外側から見ると普通の農地がある状態と変わらず、外からの人を呼び込む魅力が薄いと考えられる。そのため何かの施設に併設していることで、集客も容易になり農産物が購入される確率も上昇すると考えられる。道の駅はその施設の登録の条件として24時間利用可能な一定数の駐車スペース、トイレ、情報提供施設を備えている必要がある。(国土交通省道路局HPより)そのため観光に来た人の休憩場所として扱われることも多く、外の地域から人が流れ込みやすい。道の駅福光でも車両調査を行っており、実際に富山市、高岡市、小矢部市、そして金沢市からの客が集まっている。市民農園だけでは集客がしにくく、農産物の販売を発展させていくことは困難であると思われるが、他の施設に併設し施設との繋がりを持つことで市民農園の魅力を発信することもでき、更なる集客、さらなる経済的な活性化を見込めるのではないだろうか。現在はいっぷく農園の利用者も多くは無く、販売の仕組みを利用している人が少ないので目に見えるほどの経済的な効果をもたらしてはいないかもしれないが、少なくとも経済的な活性化の可能性を含んでいると思われる。

次に精神的活性化について、より関わりが深いと考えられる市民農園はスローライフ市民農園である。第四章で述べたようにスローライフ市民農園は農園利用者と地元住民が関わりあうシステムである栽培サポーターの仕組みを持っており、この仕組みが精神的活性化の要素を含んでいる。栽培サポーターであるAHさんの意見としては、栽培サポーターは他の地域に住んでいる非農家である利用者との会話から様々なアイディアを膨らまし、この池多地区を変えていくヒントを得ていること、そしてサポーターの皆さんはこの池多地区をなんとかしなければならないという使命感を持ってやっているというものであった。そして栽培サポーターの仕組みは利用者にはサポーターから農業のノウハウと会話する楽しみを、サポーターには利用者との会話の楽しみとアイディアを膨らますヒントを貰っており、利用者とサポーターが互いに良い影響を与えあっていると述べていた。実際に農園利用者の話を聞くと、話す頻度、内容に各々の違いはあるが、インタビューを行った利用者のほとんどがサポーターとの会話があると述べており、HIさんのようにかなりお喋りしていて面白いという意見や、一方でSさんのように栽培サポーターが来たら即どうしたらいいか聞いて指導を受けているという意見もあるなど、利用者は栽培サポーターの存在を受け入れ、重宝しているように感じられた。但し、今回の調査において栽培サポーター側の意見は市民農園を開設することに関わり栽培サポーターの選定も行ったAHさん一人に話を聞いただけになってしまったため、栽培サポーターに選ばれた地元の農家の方の話を聞くことが出来なかった。そのため一般的な栽培サポーターがどこまで池多地区の地域活性化について考え、行動しているのかを細かく知ることは出来なかった。しかしいくらサポート代が出るとはいえ、農業という自分の仕事を行っている最中にこの栽培サポーターに参加しているだけでも、この市民農園や池多地区に対して何らかの思いや意気込みがあるのだと私は考えている。それがたとえAHさんの言うように地区のためになるアイディアを膨らましていなくても、利用者との会話を楽しみ、さらに会話を弾ませるだけでも利用者側にメリットをもたらしている可能性があるかもしれない。利用者であれ栽培サポーターであれ、一人ひとりが考えていることはさまざまであるが、この栽培サポーターの仕組みは市民農園に関係する人々に対して精神的な良い影響をもたらしているのだと私は考えている。

しかしこの栽培サポーターの仕組みには問題点もあるように思う。それは利用者とサポーターとのタイミングが合わず、話を聞くことが出来ないこと、そして農園の規模に対して人数が少ないことにあることである。実際にNYさん、Yさんの意見としてタイミングが合わないので栽培サポーターを活用出来ていないというものがあった。一方でAさんは来るタイミングがあわないことと、聞きたいと思っても他の人と話していて話すことが出来ないと述べていた。現在栽培サポーターは二人一組で5月から10月の土日の午前中の9時から12時に農園を回っている。しかし完全に固定された時間であり、尚且つ240区画という大規模な農園に対して二人と言う人数は決して多くなく、栽培サポーターを活用出来ない利用者も多いのではないだろうか。しかし栽培サポーター側も農業など自分の仕事があること、サポーターは20~30人しかいないこともあり、長い時間市民農園に関わることは出来ないため、時間の変更や人数の増加を簡単に行うことはできない。この問題を解決するためには、どうしても栽培サポーターの数を増やす必要があると考えられるが、どこまでこの現状を変えていける余力がこの池多地区にあるのか、ということは今回の調査では知ることは出来なかった。しかしこの栽培サポーターの仕組みは今後も改善していく余地があり、さらに発展していけるものであると私は考えている。

 

第二節 市民農園の地域活性化の寄与の可能性

第四章の分析で市民農園の魅力と地域への関わりを、第五章第一項の考察で市民農園の地域活性化の寄与の可能性について経済的活性化と精神的活性化の二つにわけて述べてきたが、私はそこから市民農園が地域活性化の糸口になる場合の条件が見えてきたように思う。その条件の一つ目であり最も大切なことは、市民農園単独で地域に影響を与えるのではなく、管理する団体や併設された施設などが市民農園を魅力あるものに変え、市民農園の魅力を地域に発信していくということである。そして二つ目の条件は地元の協力が必要であるということである。

とやまスローライフ市民農園の場合、第四章に述べたようにNPOが行っている栽培講習会や農具の貸し出し、付帯施設を利用した収穫祭や様々なイベントの開催など、NPOのきめ細やかな対応が利用者を市民農園に引きつけている。さらにHさんがNPOMさんに良く教えてもらっていると述べているなど、農園利用者とNPOが密接に関わっている様子が見られていた。さらに精神的活性化に関わる栽培サポーターは、地元の人の協力を無しには成し遂げることが出来ない。これは地元の人が自分の地域を変えたいという思いが市民農園にも良い効果をもたらしているのだと考えられる。もともとこのスローライフ市民農園は地元の呉羽射水山ろく用水土地改良区の協力を持って作られたことも考慮に入れると、地元、NPO、利用者の三者がうまく絡み合っていることで地域の活性化に繋がっていると思われる。

越中いっぷく農園の場合、第一項にも述べたように農産物の販売は道の駅の施設を利用していることでうまく成り立って行けると考えられる。そして市民農園が道の駅の魅力となり、さらなる経済的活性化を見込めるのではないだろうか。そして道の駅を通して間接的に、地域に良い影響を与えていく可能性があるのではないだろうか。

とやまスローライフ市民農園と越中いっぷく農園は同じ日帰り型市民農園というくくりの中に存在しているが、規模、施設、雰囲気、そして地域との関わり方が全て異なっている。そういった中でも二つの市民農園は独自の魅力を発展させ、地域に対して影響をもたらす可能性を秘めている。中山間地域などの過疎が大きな社会問題となっている中で、今後もこの市民農園が地域の活性化に役立っていくことを期待したい。