第四章 分析

第一節 市民農園の持つ特徴

 この節では市民農園の持つ特徴を、インタビュー調査の結果と二つの市民農園の状況から考えていきたい。

 

第一項 人を引き込む市民農園

第一章で述べたように、近年農業者以外の人々の中に庭いじりとは別に、農業に近い形で野菜や花を栽培し自然に触れ合いたいというニーズが高まっており、そのために市民農園の数が増加し農業を始める人が多くなっている。そのような状況の中で、今回の調査を行ったスローライフ市民農園利用者が農業を始めた理由は、HIさんは子どもの食育の為、Sさんは何か趣味を持ちたいから、Hさんは泥いじりや花を育てるのが好きだし健康にいいと思って、Aさんのように家庭菜園からレベルアップを図って、など人によって様々であった。農業を始めたいと思った彼らが、そこで何故市民農園を利用するという選択に至ったのだろうか。そのことについて私は市民農園利用者が農業を行うために市民農園を選択した一番の理由は、自分の家に農業を行える土地が無いから、であると考えていた。実際に今回の調査でもKさんやHさんのように自分の家では土地が無いために市民農園を始めたと述べていた人がいた。しかしその他の意見としてAさんのように家の近くに農地を貸してくれる人がいたが素人なので農作業のやり方がわからない、水の権利等の関係があると考え、それであるならば少し距離があるしお金を払う必要があるが、水も使える、農具も貸してくれる、やり方も教えてくれるなどのメリットがあるスローライフ市民農園を選択した、というものがあった。一方でSさんは全くのド素人なので栽培サポーターや事務局の人がいるから自分は農業を出来ている、建物やトイレがあり、耕運機もじょうろも鍬も貸してもらえて自分で準備しなくていいことがとても良かったと述べていた。そして同様にNYさんも指導もついているし、道具も貸してくれるなど、管理されている、という感じがした為この市民農園を選んだと述べており、市民農園の指導や管理に対しての良さからスローライフ市民農園を選択している利用者も多かった。その他にも、スローライフ市民農園で利用者によく活用されているのが野菜の栽培講習会である。この講習会については、講習会の話を聞いた5人中5人が参加していると答え、さらに細かく話を聞くと、Sさんは野菜の育て方は本でも知ることが出来るが、実際に農業をしている人の話を聞いた方がいいので講演会に毎回参加したと述べていた。そしてAさんのように初級では物足りず、初級中級の両方に8割参加している人もいて、栽培講習は利用者が活発に農業に参加する原動力になっているのではないだろうか。

農業を始めるためには土地や農業用具、農業の知識などの前準備が必要である。その中で市民農園は農地を提供してくれることはもちろん、その他の要素が人々を農業に惹きつけ、初心者が農業に入っていきやすい道筋を作っているのではないだろうか。スローライフ市民農園でインタビューを行った9名の利用者のうち、農業初心者が6名、さらに農業経験者である3名中1名はプランター程度の経験であったことも考慮にいれると、市民農園は一般の人々を農業に引き込みやすい特徴を持っていると考えられる。

他にも、少し特殊な例として越中いっぷく農園のTさんがいる。Tさんは初めからいっぷく農園で栽培した花をいっぷく市で販売出来ることを知っており、そのことを目的として市民農園を始めるに至っている。こういった市民農園そのものが持つ魅力以外の販売という特殊な要素も人をひきつけ、市民農園への道筋になっていく可能性があると思われる。

 

第二項 コミュニケーション

市民農園における利用者間のコミュニケーションについて調べていくと、スローライフ市民農園ではインタビューを行った農園利用者全員が、来るタイミングさえ合えば周りの区画の人々と雑談をしたり、野菜の作り方を教えあったり、自らが育てた野菜等を交換しているなど何らかの交流を行っていた。特に、利用一年目のNYさんは、周りの区画に二年目三年目の人がいるので教えてもらえることが多く、周りの区画の人と話すことが特に大事だと述べており、HIさんは隣の区画の人と結構話すし、おすそ分けをしてもらうこともある。子ども達がいるので皆さんが話しかけてくれるし、子どもも挨拶などをすることで社会勉強にもなると述べていた。さらにHさんは他の人に農作業について指摘してもらえることがこの市民農園の良いところだと思っていると述べ、インタビュー中にもKMさんは野菜の栽培がとても上手なので、あの人にも話を聞いた方がいい、と勧めてくれるなど、利用者間の交流を見て取ることができた。また、比較的小規模である越中いっぷく農園においても、利用者同士で会話することがあるとTさんとTTさんは答えていた。

これらのインタビュー内容から、市民農園は利用者間の交流が盛んに行われるという特徴を持っていると思われる。それは利用者同士の区画が隣り合っていること、尚且つ利用者は野菜や花を栽培するという同じ目的を持っているということの影響であると推測できる。そしてその特徴は利用者同士の来るタイミングが合う必要があるため、利用者が多い比較的大規模な市民農園において顕著に表れる傾向にあると思われる。実際にスローライフ市民農園を何度か訪れた際に農園を見渡すと、農業が活発に行われない秋の平日でも数名の人が農作業を行っており、休日の場合だと20名弱の利用者が農園に来ていたように見えた。さらに市民農園において利用者間の交流が盛んにあるということは、利用者が会話という農作業以外の楽しみを市民農園に見出し、農園に対し愛着を持つ可能性が増える。そして農作業における様々な問題を共有することによって農業の難しさを緩和し、さらにいい農産物を作っていけるのでは、というような今後への希望を持つことで、市民農園の継続利用に繋がる可能性を有している、と私は考えている。

 

第三項 市民農園の経験が利用者に及ぼす影響

今回のインタビュー調査で市民農園が利用者に対して何等かの変化をもたらしているのかどうかを探っていくと、Sさんは野菜の育つ過程を知っていくことで野菜に対しての見る目が変わり、人件費や肥料のことを考えると野菜の値段が高いという理由が分かったと述べていた。HIさんとHさんは、子供や孫が市民農園で栽培した野菜なら嫌いなものでも食べてくれるようになった。子どもたちが農業の大変さや野菜が育つ過程を知り、自分で収穫することで野菜に愛着を持つことができ、食育にもなる、と述べていた。さらにNYさんは市民農園を始めたら食べ物に関心を持つようになった。自分で作ることは楽しいし、健康にも良いような気がすると述べていたし、Aさんは農作業は腰も痛くなるし、夏の暑い時などは何をしているのだろうと思うが、やはり作物が実ると嬉しいし、多少虫が食っていても、無農薬の自分の畑で作った野菜の方が安心して食べられる、と述べていた。一方でS2さんの夫のように、市民農園を続けたいから健康を維持していきたい、と考えている人もいた。このように今回の調査では、利用者が農作業体験から収穫までの経験の中から、自分なりの市民農園の良さを見出し、自分自身に良い影響を及ぼしていることを自覚しているということが伝わってきた。

その他の利用者に対して影響を与えるものとして考えられるものは、スローライフ市民農園で開催されている収穫祭である。2011年度収穫祭の詳細は表3に記述する。

 

3:とやまスローライフ・フィールド 2011 収穫祭 1123日(水)10:00~13:00

10:30~11:20 講演会 in交流館

~食と農と環境を結ぶ農業教育~に関する講演

11:30~     市民農園利用者表彰 in交流館

対象者:畑をきれいに使っている方(上位5名)、栽培の上手な方(上位5名)

11:30~    花の散歩道ガーデニング皆勤賞 in交流館

対象者:開催回数7回のうち5回以上参加の方を皆勤賞として表彰する

11:30~    野菜品評会表彰 in交流館

対象者:市民農園利用者。当日9:30分までに市民農園で収穫した野菜を交流館に持って来る

10:00~    展示・販売会 in交流館

ガラスの作品展示、竹の器展示・販売を行う

10:00~    写真ギャラリー in交流館

とやまスローライフ・フィールドの活動を写真で紹介

10:00~    収穫祭 アロマ体験 in交流館

10:00~    やきいも 無料配布 in里山観察塔

10:00~    池多特産品販売 in生活館前

池多地区で栽培している野菜、果物や加工品を販売

11:00~    食べ物販売 in生活館

地元で採れた野菜をふんだんに使った芋煮汁、新米おにぎり、コロッケ他を販売

(収穫祭リーフレットより)

 

この収穫祭には私がいた約2時間だけでも人が入れ替わり立ち替わり来ている様子が見られ、その場にも常に20~30名の人がいるといった状態で賑わいを見せていた。講演会には、市民農園利用者だけでなく、地元の農家の方も参加しており、食べ物などの販売を行っている生活館の周りには親子連れが目立っていた。さらにNPOのスタッフと栽培サポーター、農園利用者が会話をしている姿や、やきいも無料配布の場所ではNPOの方とNPOが造成した開ヶ丘の住宅に住む子どもが仲良さそうに会話している姿も見ることが出来た。私は収穫祭を訪れた際に野菜の品評会を覗いたが、同じ人が何点も出品していたということもあるが、約2030点の農産物が並べられ品評が行われており、品評会などが行われる交流館にも結構な人の出入りを見ることが出来た。今回の調査では品評会に出品していた農園利用者に話を聞くことが出来なかったが、この収穫祭で行われる市民農園利用者表彰という農園の利用状況を審査するという取り組みや、野菜の品評会は一部の利用者の農産物栽培の向上心を刺激する可能性を秘めていると考えられる。

いっぷく農園については第三章で述べたように、いっぷく市友の会に参加することで市民農園で栽培した農産物をいっぷく市で販売することが出来る。この農産物を販売出来ることに関して、実際に販売を行った事のあるTさんはいっぷく市に花を出す際には買う人の気持ちになって、買っていきやすいような組み合わせにしていると述べていた。一方TTさんは良いものが出来た場合のみいっぷく市で売りに出して、そうでなかった場合には、道の駅のイベントで使ってもらいたいと述べていたなど、販売に対してのこだわりがあるように感じられた。いっぷく市に農産品を出品することで、これは他人の手に渡るものであるという意識を持つことができ、野菜に対しての気持ちの持ちようが変わることで農業を行う際にこだわりが生まれ、もっと良いものを作りたいという向上心が生じる可能性があるのではないだろうか。このように市民農園で行われる取り組みが、利用者の意識の変化を促し、利用者をさらに市民農園に引き込む可能性もあるのでないだろうか。

農業を行うということは、農作業を楽しみ、収穫を楽しみ、それを食べるという楽しみを得ることが出来る。加えて、市民農園という自分以外の人間が関わる空間で農業を行うことで、農作業、収穫、食す、以外の物事から、自分が想像していなかった影響を、市民農園利用者が受けることが出来るのではないだろうか。そしてその影響からさらに農業に興味を持ち、農業に利用者を引き込んでいく可能性を秘めているのではないだろうか。

 

第二節 市民農園と地域との関わり

 この節では市民農園利用者と、市民農園のある地域との関係性について調査対象別に分析を行う。

 

第一項 とやまスローライフ市民農園

 スローライフ市民農園における利用者と地元住民との繋がりについて特に重要視されるのは栽培サポーターの存在である。第三章で述べたように栽培サポーターは、地元である池多地区の農家の人が市民農園を巡回し、その人達に市民農園利用者が自由に質問出来るという取り組みである。この仕組みを作った理由は、都市の人と池多地区の農家の人がもっと交流してもらいたいからと、農業には何が育ちやすい土かなどの地域性があり、その土地の人がその地域性を一番よく知っているから、ということである。この栽培サポーターについてHIさんは、かなりおしゃべりもするし、野菜についての話や世間話をして面白いしためになると述べていた。Sさんはサポーターが来たら即どうしたらいいか聞いて指導を受けていると述べていた。S2さんも、夫がよくサポーターと話をしていると述べ、他にもAさんのように話を聞きたいけれど他の利用者と話していて自分はなかなか話すことが出来ないと述べていた人もいて、栽培サポーターの人気が伺えた。さらにNYさんのように、栽培サポーターは重宝しているが、栽培サポーターと自分が農園に来るタイミングがなかなか合わない、という意見もあったが、NPOスタッフのYHさんは質問をしにサポーターを呼びに来る利用者もいると述べおり、大半の利用者は栽培サポーターを活用しているように思えた。逆に栽培サポーターであるAHさんは、この取り組みにおける経験は自分たちの勉強にもなるしこの地域の人では思いつかないような突飛な話も聞けると述べていた。この勉強になるというのは、この地域の地質や環境でもピーナッツやパパイヤ、ショウガなどを育てることが出来る、ということや、農園利用者の中には無農薬で栽培を行う人もいて、そこから新しい栽培方法を知ることが出来る、ということである。実際にその新しい農産物を販売用の作物にすることや、無農薬の栽培を普段の農業に活用することはコストなどの現実的な側面からはかなり難しいと考えているが、市民農園利用者との様々な話からアイディアを膨らましていくことが出来るのではないか。さらに同じ地域の農家の人ばかりだと、今までのことを踏襲していくだけになってしまうため、他の地域や非農家の人とどんなことでもいいので会話をして欲しい、それが地域を変える何かのヒントになるかもしれない、とAHさんは述べていた。栽培サポーターの仕組みは、利用者にはサポーターから農業のノウハウと会話する楽しみを、サポーターには利用者との会話を楽しむことと、その会話や農作物の栽培から様々な影響を受け、アイディアを膨らますヒントをもらい、サポーターと利用者が互いに良い影響を与えあっている、とAHさんは考えている。

 

第二項 越中いっぷく農園

市民農園と地域との関わりを考えた場合の典型的な形態は、地域の外から来た市民農園利用者と市民農園がある地域住民の交流であり、第二章の古屋・牧山の研究や、スローライフ市民農園の地域との関わり方もその形態で成り立っている。しかしいっぷく農園の場合、市民農園は道の駅の付帯施設として作られ、地元住民との交流を目的として作られた訳ではないため、スローライフ市民農園のように市民農園利用者と地元住民が関わりを持つような明確なシステムを持っていない。さらに今までの市民農園利用者も近隣に住んでいる人であることも多かったため、外から来た利用者と地元住民との交流を当てはめることはできない。しかしその代わりにいっぷく農園ではいっぷく農園ならではの形態を持っている。それは第三章で述べたように、いっぷく農園の利用者は道の駅で農産物の販売や、道の駅のイベントで自分の作った農産物を利用してもらうことが出来るため、道の駅と深い関わりが持てるようになる、という形態である。この農産物の販売の仕組みを通して市民農園利用者と道の駅が密接に関わりを持つことによって利用者が積極的に道の駅の活動に関わり、活発に農園活動を行うことで、間接的に地域を盛り上げる可能性が考えられる。

しかし現在のいっぷく農園における農産物の販売を通した農園利用者と道の駅の交流は活発であるとは言えない。それは市民農園利用者が多くはないことにある。そのためいっぷく市で販売されている農産物はいっぷく市友の会に入っている地元農家のものが大半であり、市民農園と道の駅が活発に関わりあっているとは言い難い。市民農園が道の駅を通して間接的に地域に関わる為には、市民農園で生産された農産物が地元農家の農産物の販売の妨げにならない程度に、しかし市民農園で栽培された農産物が魅力的な商品として扱われる程度の規模が必要になる。それにより市民農園が道の駅の魅力の一つとなることで、さらに市民農園利用者の増加を見込むことが出来るかもしれないし、人が増えることで人と人との出会いも増え、市民農園の活動も活発化するかもしれない。今回インタビューを行った農園利用者の二人はインタビュー中に道の駅スタッフと仲が良い印象を見せていた。しかしそれは市民農園を始めてからという訳ではなく、Tさんはもともと道の駅の近くに住んでいるため、TTさんは市民農園利用前から地元農家としていっぷく市で農産物の販売を行っていたという要素が強い。現在は農園利用者の増減が乏しいため農園利用者と道の駅の関係に変化があまり生じていないが、今後農園利用者が変化していく中で、市民農園を通した道の駅と関わりが深い利用者が生まれてくる可能性もあると思われる。

その他の地域との関わりとして魅力に感じられた要素は、いっぷく農園には高校や幼稚園、デイサービスの人達に利用された経験があるということである。もともと市民農園には農業の出来る広大な土地が必要であり、さらに地域活性化の手段として用いられることが多いので、中山間地域等に作られることが多い。そのため学校やデイサービス等が市民農園を利用することは困難であると推測出来る。しかしいっぷく農園は国道304号線沿いにあり、JR福光駅からも2km程度しか離れておらず平野部に立地しているため、学校やデイサービスが利用しやすい環境にある。今後また学校やデイサービスが利用していくことで、より地元の人の関心が道の駅や市民農園に向く可能性があるのではないか。現在いっぷく農園を利用している人が多くないが、今後さらにいっぷく農園が発展していく道筋はいくつもある、と私は考えている。