第二章 市民農園

この章では農林水産省HP及び北陸農政局HPに記された内容に従って、市民農園の概要をまとめる。

 

第一節 市民農園の概要

一般に市民農園とは、サラリーマン家庭や都市住民がレクリエーションとしての自家用野菜・花の栽培、高齢者の生きがいづくり、生徒・児童の体験学習などの多様な目的で、小面積の農地を利用して野菜や花を育てるための農園のことをいう。このような農園は、ヨーロッパ諸国では古くからあり、ドイツではクラインガルテン(小さな庭)と呼ばれている。日本では市民農園と呼ばれるほか、レジャー農園、ふれあい農園などいろいろな愛称で呼ばれている。現在はこうした小面積の農地を利用したい人が増えていることから、自治体、農業協同組合、個人など多くの人々が市民農園を開設できるようになっている。そして市民農園には日帰り型市民農園と、滞在型市民農園という二つの形態が存在している。

一つめの形態である日帰り型市民農園は、都市住民等が自宅から通って利用する市民農園のことを指している。都市住民等の農作業による健康づくりや高齢者の生きがいづくり、土との触れ合いやレクリエーション等の余暇活動の場として関心を寄せられている。日本の市民農園の大半がこれに属している。

二つ目の形態である滞在型市民農園は、ラウベと呼ばれる簡易の宿泊施設が附帯されているなど、農村に滞在しながら利用することが出来る市民農園のことを指している。この市民農園は田舎暮らしや農のある暮らしに対するニーズの高まりを背景として、近年相次いで開設された。遊休農地の解消や共生・対流(都市と農山漁村を双方向で行き交うライフスタイル)の取り組みであると同時に、地域に新しい風を入れるという点で地域活性化を図るための手法として注目されている。

 

第二節 市民農園の開設形態

 市民農園実施主体が市民農園を開設するにあたり、いくつかの法整備がなされている。こうした法整備の面から市民農園を分類分けすると、市民農園の開設形態は、市民農園整備促進法によるもの、特定農地貸付法によるもの、農園利用方式によるものの三つに分けることが出来る。

 まず市民農園整備促進法とは、市民農園を整備する必要がある時、その整備が適正かつ円滑に進むように様々な措置を講じていく法律のことである。健康的でゆとりのある国民生活の確保を図るとともに、良好な都市環境の形成と農村地域の振興に資することを目的としている。市民農園整備促進法を利用して市民農園を開設する場合、市町村が市民農園として利用することが適当と認められる区域を指定し、その指定された土地が市民農園として利用出来るようになる。ただし、市街化区域1については、市民農園区域の指定は不要となっている。そして市町村が指定した市民農園区域又は市街化区域で市民農園を開設しようとする者は、「市民農園の整備及び運営に関する計画書」(整備運営計画書)を作成し、市町村の認定を受けた後に市民農園が開設出来るようになる。この方法を用いて市民農園を開設できるのは地方公共団体、農業協同組合、農家となっている。

 次に特定農地貸付法とは、農地について賃借権などを設定し、農地を使用収益できるようにする法律である。この法律により賃借権設定などの許可を取れば、農地法上の許可は不要となっている。この法律を用いて特定農地貸付けを行おうとする場合、市民農園実施主体は申請書に貸付規程(地方公共団体及び農業協同組合以外の者にあっては、貸付規程及び貸付協定)を添えて農業委員会へ承認を申請しなければならない。農業委員会は、承認の申請が周辺の地域における農用地の農業上の効率的かつ総合的な利用を確保する見地からみて、農地が適当な位置にある等、一定の要件に該当する場合にはこれを承認する。さらに貸付けには、10アール未満の農地の貸付けで相当数の者を対象として行われなければならないこと。営利を目的としない農作物の栽培のための、農地の貸付けであること。貸付期間が5年を超えないこと、の三つの要件が課せられている。この方法を用いて市民農園を開設出来るのは、地方公共団体、農業協同組合、農家、NPO、企業等となっている。

 最後に農園利用方式とは、農業者(農地所有者)が農園の農業経営を自ら行い、農園利用者が農作業の一部を行うために該当市民農園に入場するという方式のことである。これは農地に賃借権等を設定するものではなく、農業者の指導、管理のもとに利用者がレクレーション等の目的のため複数段階で農作業を体験するものである。この場合、農業者と利用者は「農園利用契約」を締結することになる。この方式に当てはまるのは複数段階で農作業を行うことであり、果実等の収穫のみを行う「もぎとり園」のようなものは当てはまらない。

 

第三節 市民農園における都市農村交流

市民農園による地域活性化については、農林水産省でも注目されている。例えば農林水産省では、平成14年に「食」と「農」の再生プランを発表し、「都市と農山漁村の共生・対流」を重要な施策と位置付けるとともに、農山漁村の各種資源の最大限の活用、都市と農山漁村で交流できるライフスタイルの実現に取り組んでいる。これを反映して、平成154月には、構造改革特別区域法が施行され、農地の遊休化が深刻な問題となっている地域において、地方公共団体及び農業協同組合以外の多様な者による市民農園の開設を可能とする特定農地貸付法等の特例措置を講じ、市民農園の開設を促している。さらにこの構造改革特区については、全国展開することとなり、平成17年9月1日付けで改正特定農地貸付法が施行され、第二節で述べた特定農地貸付法を用いることで全国の地方公共団体及び農業協同組合以外の多様な者による市民農園の開設が可能となった。さらに、平成18年3月には市民農園で栽培された農作物の販売が可能な範囲についての考え方を示すなど、積極的な市民農園の開設の推進に努めている。

この市民農園による地域活性化の可能性の研究については古屋・牧山(2004:205-210)の論文が挙げられる。古屋・牧山は滞在型、日帰り型市民農園を兼ね備えた笠間クラインガルテンを研究対象とした。そして滞在型市民農園利用者の意識と行動を日帰り型市民農園利用者と比較することによって把握し、地元住民との交流活動に着目した利用実態を把握することで、滞在型市民農園による地域活性化への寄与の可能性について検討することを調査の目的としている。この中で古屋・牧山は滞在型市民農園における農村地域の活性化の可能性を、経済的活性化と精神的活性化の二つに分けて論じている。調査対象である笠間クラインガルテンの場合、経済的な活性化については、直売所への出荷やそば処などによる雇用の機会のほか、地元住民が農産物を利用者に直接販売することがあげられる。そして精神的活性化については、ともすれば交友関係が閉塞的になりやすい農村地域にとって、他地域の人と交遊することが大きな意義を持っている、と述べている。そして笠間クラインガルテンは利用者と地元住民との交流が大きな比重を占めているので、利用者と地元住民との交流段階に注目し、そこから市民農園の地域活性化への寄与の可能性について探っている。

この古屋・牧山論文では、滞在型、日帰り型市民農園の両方の利用者に対して交流段階の調査を実施しており、日帰り型利用者よりも滞在型利用者の方が交流段階が進んでいるという結果が出されていた。その理由として、滞在型の方が滞在時間が長いことに加えて日帰り型の利用者がみな近在であり、地元住民との交流関係を比較的築きやすい環境にある滞在型利用者の輪の中に入り込みにくいという事情があるためと述べている。この論文ではこのような結果が提示されていたため、後の地域活性化への寄与の可能性については日帰り型市民農園についての記述はなく、滞在型市民農園のみを対象とし結論を述べていた。そのため私は市民農園の地域活性化について、日帰り型市民農園を対象として経済的活性化と精神的活性化に二分するやり方を参考にして考察を行う。