5章 まとめ

 

これまで述べてきたように万葉線の問題は地域の人々に多くのことを問いかけた。

この万葉線問題で市民に対して公共交通の在り方が問われたのは、地域公共交通の存在意義や地方自治そのものに人々が関心を持ち参加する一歩となり、そしてRACDA高岡は、それを市民に対し訴えかけ、市民自治形成の手助けをする重要な役割を担っていた。

万葉線が、廃線やむなしという状況から奇跡的に存続を果たしてから10年が経とうとしている。島氏の言葉を借りれば、この万葉線の事例は地域公共交通にとっての「分水嶺」となった。それまで、存続運動を行ってもまず残ることはなかった公共交通が、この万葉線の事例により流れが変わったのである。もちろん、活発な存続運動が行なわれていたからといって、万葉線の事例のようにうまくいくものばかりとは限らない。現在でも危機にひんしている公共交通は多く存在し、万葉線存続後に地域公共交通がすべて活発になったとは言い難い状況である。

201114日付の北日本新聞(朝刊)の16面に「明日に向かって走れ!生き残り目指す地方鉄道」という見出しの特集記事が組まれた。この記事では、各地域公共交通が行っている経営健全化のための活性化策を示しており、厳しい状況にある中での各路線の奮闘ぶりがうかがえる。しかし、このようなアイディアや経営努力を以ってしても経済面で限界が来る時があるだろう。そのような、採算が取れない以上は廃止しかないのかという事態に陥った時、私たちの社会は公共交通をどのように考えるのか。万葉線問題はそのひとつの解決策を社会に対して提示した例とも言えるだろう。

また、万葉線の再生は富山県西部の公共交通にとっての終着点ではなく、あくまでも「試金石」である。2014年には北陸新幹線が開通する予定となっている。華やかな新幹線開通の陰で、現在のJR北陸本線は第3セクターに移管し、厳しい経営を迫られるであろう。また、城端線・氷見線などの枝線についても客数の落ち込みから安泰であるとは言い難い状況である。富山県内でも並行在来線の問題をはじめとして、今後ますます公共交通の問題は浮上してくるであろう。その際には地域住民が、公共交通の在り方を含めて自分たちの住む地域社会に関心を向けることが重要なポイントになると思われる。そしてそれには、RACDA高岡のような、市民が主体となって自分たちの地域について考えるための存在は必要になってくるであろう。

RACDA高岡のように自発的な市民活動を行う団体が増え、それにより地域の人々に公共交通への関心が広がることで、地域に愛される公共交通がより増えることを願うと同時に、人々が自立的に行動して活性化する地域が増えることを願ってやまない。

 

〈最後に〉

本稿を執筆するにあたり、RACDA高岡会員の皆様には大変お世話になった。島氏、小神氏、善光氏には貴重な時間をインタビューにあてていただき、原稿のチェックにも協力していただいた。また、同会員の大井俊樹氏には、論文執筆中に的確な助言を頂戴した。会員の皆様の厚意と協力があったからこそ、本論文は完成したと感じる次第である。

この場を借りて厚くお礼申し上げたい。