1章 はじめに・問題意識

 

近年、利用客の減少による、各地域における公共交通(以下、地域公共交通と呼称する。)の路線廃止・休止が相次いでいる。路線の廃止が表明された際には、自治体や市民による存続に向けての活動や要望は必ずと言っていいほど見られるが、2002年に「万葉線(旧:加越能鉄道)」が廃止の危機から一転して存続の運びとなるまでは、そのような地域の人々の活動によって、廃止を表明した路線が再生・存続を果たしたという事例は皆無に等しかった。このように成果が上がりにくい地域公共交通の存続運動において、いかにして万葉線は存続をなしえたのか。地域鉄道再生の転換期をつくったともいえる万葉線の存続・再生の過程を調査することで、現代の社会で地方公共交通が抱える問題を解決するヒントを導き出すことができるのではないかと考えた。

また、この万葉線の再生過程においては、市民による活発な存続運動が展開されたことが特筆される。そして、この事例ではそのような市民レベルの活動において運動を推進するのに重要なファクターとなったのが「路面電車と都市の未来を考える会・高岡(通称名:RACDA高岡)」という市民団体の存在であった。路面電車と都市の未来を考える会・高岡(以下、RACDA高岡)は、公共交通を切り口にしたまちづくりを目的として、19984月に岡山の「路面電車と都市の未来を考える会(RACDA)」という団体をモデルに結成された市民団体である。政治団体でもなく、結成から純粋な市民組織であったRACDA高岡が運動にどう関与し、いかなる役割を果たしたのか。また、当初廃線やむなしという社会状況のなかで、どのようにしてRACDA高岡は存続運動を進め、存続の動きとなったのか。本研究では公共交通の存続運動を「社会運動」としてとらえることで、成功する存続運動に内在するシステムを社会学的に導き出し、これからの社会において地域公共交通が再生を果たすために必要となる要素、並びに今後の地域公共交通の在り方を検討することを目的とする。

 

キーワード:地域、公共交通、存続運動、市民団体、社会運動