第五章 考察

 

第一節 本来の「婚活」と実際の「婚活」

 ブログ調査、インタビュー調査、そして質問紙調査による分析で、本来の意味で広めようとした「婚活」と、実際に婚活をしている女性たちの「婚活」には違いが見られた。山田(2010)は婚活の必要性を唱えると同時に、待っていても理想的な相手は現われないため積極的に行動しなくてはならないことと、経済状況の悪化により妻子を養っていけるだけの豊かな経済力を持つ男性の減少から女性も結婚後も仕事を続ける覚悟する必要があることを述べている。また、自分磨きとして女性は男性に依存しないだけの経済力を付けることが必要とされることも述べている。

しかし、女性たちの中では結婚後の生活を考えて高収入の男性と結婚したいという気持ちは根強いと考えられる。それに婚活ブームで起きた誤解では、婚活が高収入の男性を掴む活動になってきているということもあり、中には専業主婦になることを目指し自分が働かなくとも生活していけるだけの経済力を持つ男性をターゲットに婚活をしている女性もいる。その一方で、共働きを念頭に置いて婚活をしており結婚後は今の仕事を続ける気はないが家計の助けになるようパート程度で働くことを考えている女性もいる。このようにターゲット設定をどのようにしているかは様々であるが、やはり基本的に結婚する男性には経済的に豊かであって欲しいと女性たちは考えている。それは、結婚後の自身の生活というものが男性の経済力で決定されると考えているためである。自身が将来安定した生活を送っていくためにはある程度の収入がある男性が望まれるのだ。いつまで交際が続くかわからない恋愛では見た目や雰囲気などが重要になっていたが、男性の経済力はそこまで重要視されていなかった。しかし、結婚ということになると自身が安定的に将来生活していくためには経済力は重要になってくるのである。そのため、どの程度の経済力を望むかは婚活をしている女性で様々ではあるが、婚活においては男性の収入の面を気にする女性は多いと考えられる。

これらから、山田の言う「婚活」と女性たちの実際の「婚活」を比較してみることにする。積極性という面では、山田が意図したように婚活を始めることで女性たちは結婚に向けて積極的に活動をしている。その一方、ターゲット設定における男性の経済力の面では、本来の「婚活」で言うように女性も経済力を付けたり、理想と現実のすり合わせといったことは実際には難しいようである。経済状況の悪化から、豊かな経済力を持つ男性が減少したのは事実かもしれない。しかし、経済状況の悪化は生活の不安を与え、結婚においては安定を求めざるを得ない状況を作ったと言える。男性の収入のことも考え、現在の仕事を辞めても結婚後はパートで家計を助ける覚悟を持って婚活をしている女性もいる。本来意図される「婚活」はあくまでも結婚に近付く理想であり、実際に結婚後の自身の生活を考えれば男性の経済力は豊かに越したことはなく、婚活というものが本来の意図のようにならないのは仕方のないことのように思われる。

 また、婚活ブームによって婚活が合コンや結婚情報サービス産業を勧めているという本来の「婚活」では意図しない誤解が生まれた。本来の「婚活」ではただ合コンに参加したり、結婚情報サービスに登録したりすればよいというものではなく、自身で積極的に出会いを作り出すことが求められる。婚活をしている女性の語りでは、主に行っている婚活は合コンやパーティーに行くことが多かった。ただ合コンに行くのではなく、合コンを主催したりパーティーで知り合った男性と連絡先を交換して次の合コンにつなげたりと積極的な活動が行われている。これらの活動は、出会いを増やす婚活と言える。しかし、出会いを増やすことだけが婚活ではない。外見でも内面でも自分自身を磨いたり、高く設定しているターゲット設定を見直したりと活動は色々ある。女性たちは出会いの絶対数を増やすことが自身の婚活であると認識しているようである。また、積極性という面では出会いの場に出向くということでは積極性が見られるが、気に入った相手へのアプローチや、男性に連絡先を聞きに行くといった積極性は婚活をしているからできることではなく個人差があるようだ。そして、パーティーに一人で行けるかどうかも積極性の指標であると考えられる。女性の中には、一人で参加することで男性に本気と思われたくないという一種プライドのようなものがあり、婚活において消極的な面もある。婚活においては積極性が求められているものの、活動そのものには積極的な部分、消極的な部分が存在しているのが実際であると考えられる。

 本来の「婚活」と実際に行われている「婚活」を比較すると、婚活が本来意図されたように婚活をする女性はいないのではないかとさえ思えた。確かに婚活をしている女性たちは、婚活を始めたことで結婚に向けて自身で積極的に活動するようになったと感じており、本来の「婚活」の基本線では活動している。しかし、結婚相手となる男性の経済力や男性に対するアプローチなど実際の恋愛に通じるような積極性では本来の意味での「婚活」とは異なった活動が見られる。実際の「婚活」では、自身が本当に幸せと思える結婚をするには型にはまらず、自分なりの活動をして結婚したいと女性たちは思うのではないだろうか。婚活という言葉ができたことで、結婚に向かって活動しやすい土壌ができた。それにより、出会いの数を増やすという面で積極的に活動できるようになった。しかし、自身の譲れない条件や自ら行うアプローチなどには個人差はあり、本来意図されたような「婚活」とは異なった部分ができたのであろうと思われる。

 

 

 

第二節 婚活ブーム第二の波と恋愛のような結婚

 婚活ブームにおける第二の波は、婚活をより社会的・経済的に安定した相手を獲得する活動に変容させた。結婚という目的のために、開内(2010)は「恋愛のような結婚」はあきらめられ、ロマンティック・ラブ・イデオロギーは解体したと言う。そして、恋愛至上主義の流れは変わり、より結婚に向けて活動しやすい土壌が作られたと言うのだ。

しかし、本当に「恋愛のような結婚」はあきらめられたのだろうか。条件的に安定した男性に巡り合えたならば、すぐに結婚するつもりで結婚するのであろうか。確かに、婚活は結婚に向けた活動である。周りの結婚や年齢的な焦り、子どもを産めるうちにすぐにでも結婚したいと考えている女性は多い。良い人がいればすぐにでもという言葉は良く耳にする。では、良い人とは一体どのような人であろうか。結婚するのに条件的に良い人であればそれだけで良いのだろうか。確かに、結婚後に長い夫婦生活を共にするには経済力などの生活面に関する条件は出てくるであろう。しかし、自身のターゲット設定に合致する男性と出会えればそれだけで結婚できるのであろうか。条件的に良ければ結婚できると考えるのであれば、婚活から結婚は直結する。では、婚活から恋愛、そして結婚という流れは女性たちにとって考えられていないのであろうか。筆者は恋愛と結婚は完全に切り離すことはできないのではないかと考える。調査データにおける女性たちの語りの中には、「婚活恋愛」というものがあった。この「婚活恋愛」とは婚活をして出会った人を人として好きになり、恋愛をして結婚することであると思われる。このことから、婚活と恋愛は必ずしも切り離せないものであると考えられる。また、調査データにおける積極性の語りでは出会いの数を増やす活動が多かった。このことから、女性たちは婚活を恋愛の前段階としての出会いの部分と捉えているのではないだろうか。つまり、婚活をしている女性たちにとって、婚活は出会いの部分であり、そこからの恋愛結婚というものを想定しているということである。特に出会いに関して言えば、恋愛自身は出会いが絞られることがなく、さらに条件的に相手を選んでいるということもないので出会いの範囲は限られていない。その一方、婚活はターゲットを設定して恋愛に移行できる男性の範囲を設定し、それから恋愛結婚に結び付くのである。つまり、出会う男性はターゲット設定によって限定されるが、恋愛結婚に移行しようという考えは同じではないかと考えられるのだ。婚活ブーム第二の波では婚活は結婚に向けた目的的な活動であり「恋愛のような結婚」はあきらめさせられたとあった。しかし、実際に活動する女性たちは「婚活恋愛」という言葉が出てくるように、婚活からすぐに結婚に結び付くのではなく、婚活から恋愛、その後に結婚という方向を信じているようである。このことから、必ずしも恋愛結婚はあきらめられていないと思われる。したがって、女性たちは恋愛結婚の前段階として婚活を捉え、出会いの活動として婚活をしているのではないかと考えられる。