第六章 まとめ

外国人の母親へのインタビュー調査では、それぞれ来日の経緯や国籍、居住形態が異なり、日本に来る外国人にも様々な生活状況にあることを感じさせた。短期間の滞在から、定住へという流れはこれからも増えていくだろう。従来の外国人に関する研究では、就労に関する問題や日本語習得に関する問題が主に注目されてきた。しかし、定住化が進むにつれて、日本で生まれ育った子供は増えていくだろうし、それに伴う現象や問題も増えていくのではないだろうか。Aさん、Dさん、Eさんのように、1990年前後に来日した家庭では、現在子供たちが小学校や高校に通っている。外国人の両親を持つ子供たちは、家と学校で使用言語を使いわける、という特別な環境で育つ場合が多い。それに伴う親子間での意思疎通の問題は、先行研究にあるように、今回の調査でも確かに見られた。そして、Dさん、Eさんのようにブラジルへの帰国の可能性がある場合、子供の母語の習得は重要になる。

しかし、現状で外国籍の子供たちへの母語習得の支援は少なく(3)、子供の母語習得に関して不安を持つ親がいる。日本に住んでいるのだから日本語の習得は必要だ。しかし、特殊な環境で育った子供たちにとって、母語習得が必要な場合もある。特に帰国の可能性のある子供にとって、帰国後母国での生活に順応するために、母語習得や母国の文化理解は重要である。母語習得という選択肢を子供たちが持てるよう、母語支援の必要性についてはもっと注目されていいと思う。また、Bさん、Cさんは数年前に来日し、子供は就学前にあたる年齢である。日本語がほとんどわからない母親にとって、子育てに関わる手続きや公的サービスの利用は言語の面で不利である。今回のインタビュイーは皆、同居家族の支援を受けて言語の問題をクリアしていたが、同居家族の支援を得られない状況にある母親がいたら、情報の入手や公的サービスの利用に関して圧倒的に不利な立場に立たされてしまう。公的サービスや手続きに関して、言語面でのサポートの充実は外国人の親にとって強く望むことだと感じる。

 今回の調査はインタビュイーの国籍や滞日年数を特定しなかったため、様々な状況にある外国人の親及び子供たちに話を聞くことができた。しかし、調査した家族数は少なく、ここで紹介した外国人の子育て状況については、富山県に住む外国人家族のごく一部を示したにすぎない。また、今回調査した家族以外にも、不就学の問題、経済的な問題などさらに深刻な悩みを抱える家庭はあるはずだ。ごく一部の家族の調査ではあるが、富山県に住む外国人の様子について、外国人特有の悩みや傾向を見つけることができたと思う。外国人の定住化に伴う支援は富山県ではまだ始まったばかりだと感じている。今後も、外国人の母親の子育てに関わる支援、その子供たちの学習や言語の面での支援が充実してほしいと願う。

最後に、快くインタビューに応えて下さったご家族の皆様、調査に協力していただいた多文化共生事業に関わる方々に、深く感謝申し上げます。