第四章 調査概要

第一節 調査方法

中心商店街の空き店舗を活用し、三世代交流や子育て支援など地域福祉を担う拠点として利用されている、富山県氷見市のまちなかサロンひみを調査対象とする。運営に関わる人へのインタビューやだんだん広場やさんさんキッズといった活動に参加する形でのフィールドワーク、コミュニティカフェ(以下カフェ)を観察する形でのフィールドワークなどの調査を行った。

・運営委員長Aさんへのインタビュー(計3回)

・カフェ部門チーフBさんへのインタビュー(プレ調査)

・さんさんキッズチーフCさんへのインタビュー

・カフェスタッフDさんへのインタビュー

・カフェ部門チーフBさん、カフェスタッフ1名、さんさんキッズスタッフ2名へのグループインタビュー

・だんだん広場でのフィールドワーク

・さんさんキッズでのフィールドワーク(計2回)

・カフェでのフィールドワーク(インタビュー調査でサロンに行った際に随時実施。)

 

 

運営委員長Aさん(62歳男性)

現役時代は会社員であり、退社後、市のボランティア総合センター⁽²⁾(以下「ボラセン」)の運営委員としてボランティアを始める。ボラセンの方で、パソコンがわからない、パソコンを習いたいという人が多く、ひみパソボラネット⁽³⁾というパソコンを学ぶボランティア団体を立ち上げ、代表を務めている。そうした活動をするうちに、町内会長や自治振興委員⁽⁴⁾といった地域での役割が与えられた。以前は市外に住んでいて、30代で朝日丘地区に移り住んだ。会社に勤めている際は、会社内での人とのつながりがあったが、退職すると地域とのつながりが必要になってくると考え、ボランティアを始めた。

 

カフェ部門チーフBさん(女性)

 民生委員⁽⁵⁾。サロン開設に関して、中心となり活動した。カフェには毎日のように顔を出している。

 

さんさんキッズチーフCさん(女性)

民生委員・主任児童委員。息子(40歳)が小学校1年の時ボーイスカウト(小さい子はカブスカウト)のお世話を始めて、息子が大人になっても続けていた。そして平成6年に、主任児童委員⁽⁶⁾が民生委員の中にできて、その時から今までずっと主任児童委員を務めている。「もう30何年前にカブスカウトの世話しとったがが、こういう子供関係のほうに関わるきっかけになってずーっと続いて。もともとそういうことが好きやったんかもしれん。」と話しているように、子育て関係の活動に熱心である。

 

カフェスタッフDさん

 民生委員。民生委員をやっていることがきっかけで声がかかり、サロンのカフェスタッフを務める。月2回、カフェのスタッフとしてシフトに入り、人が足りない時はさんさんキッズのシフトに入ることもある。Aさんが代表を務める、ひみパソボラネットに通っている。

 

 

 

 

 

第二節 まちなかサロンひみ

第一項 概要

・場所 富山県氷見市本町(中心商店街の空き店舗を改修)

・開館時間 10時〜17

・定休日 火曜日(祝日の場合は木曜日)、お盆と年末年始

・オープン 2009830日(日)

 

31「まちなかサロンひみ 配置図 1階」

    サロンみ 配置図  


1階〉

・出入口

歩道に面している、出入り口側はガラス張りになっている。

32「出入口」

ガラス面には、折り紙の作品が貼ってあり、華やかな印象。ガラス張りなので、外からの人は中の様子がわかりやすく、中からは、知人が歩いているのが見えると、声をかけに行くスタッフもいるほどである。

 

・観光情報コーナー

33「観光情報コーナー」

観光マップなど、氷見市の観光情報が掲示されており、各種パンフレットが用意されている。

 

・ボランティア情報コーナー

34「ボランティア情報コーナー」

ボランティア募集に関する情報などが掲示されている。隣のコピー機は、110円で、コピー枚数に応じてスタッフに支払う。

 

・コミュニティカフェ

基本のメニューはコーヒー(温・冷)、ジュース各種、紅茶、昆布茶(蒸しパン付き)、ゆず茶(蒸しパン付き)、ソフトクリーム各種で全て200円と蒸しパン(単品)が50円である。その他、季節のメニューとして、ぜんざいやわらびもちがある。

注文したいものをスタッフに声をかけて頼み、用意できたらスタッフがテーブルまで運んでくれる。食べ終われば、スタッフがテーブルから回収してくれる。持ち帰りも可能。

  1200円のチケット11枚綴りの物を2000円で販売しており、利用者の多くはチケットで支払う。

35「カフェコーナー」

テーブルが5つと各テーブルに椅子が4つとメニューが1つずつ置いてある。

36「カウンター」

飲み物とソフトクリームはこのカウンターから提供する。蒸しパンなどの食べ物は厨房での調理となる。


・ミニ・ギャラリー

 地域の方の作品(小物・書道・写真など)の展示。

37「ミニギャラリー」

白い壁の部分がギャラリースペースである。手前の畳コーナーは床から高さがあり、腰掛けて、向かいのカウンターにいるスタッフと会話する光景もよく見られる。

 

 

2階〉

・和室

  当初はミーティングなどで使用予定であったが、現在はほとんど使われていない。

・洋室

  「だんだん広場」「さんさんキッズ」「パッチワーク教室」に使う部屋で絨毯が引いてある。

  部屋の貸し出しの際にはほとんどがこの部屋が利用される。

38「入口から見た洋室」

 左手前のボックスの上には、「さんさんキッズ利用者名簿」が置いてあり、「さんさんキッズ」参加者は、参加するごとに必要事項を記入する。

39「窓側から見た洋室」

 戸の奥が和室となっている。

 

 

 

 

 

第二項 開設と運営に関して

●設立の経緯

・サロン開設に向けての協議が始まるまで

全国至るところで、商店街が衰退し、まちなかの空洞化が嘆かれている(伊藤2005)ように、朝日丘地区もだんだん若い人がいなくなり高齢者が増え、まちなかの空洞化が進む。第二章の第三節で朝日丘地区の概要を述べたが、戸数・人口共に減少してきている。以前は図23からわかるように、商店街は今よりも店が多く賑わっていたが、図24のように、食堂や銭湯が減っていき、地域の人たちがお互い顔を合わせてコミュニケーションをとれるような場所が無くなってきている。運営委員長のAさんによると、昔は隣どころか、大体どんな人がいて、どんな家庭でどういう環境で、元気でおられる、おられないといったような声をかけられる状態が当たり前だったのが、だんだんそれがなくなってきた。若い人が減っていき、お年寄り夫婦だけや独居など一人だけの人も増えてきて、まわりとのつながりが希薄になってきた。気軽に寄って、顔を見せ合って話せる場所を設け、日常の中で困ったことや楽しかったことをみんなで共有できればいいのではという思いが地区社協のメンバーにあった。

カフェ部門チーフのBさんは、民生委員という立場で地域住民と関わる中で、地域のコミュニティがだんだん弱くなっていることをかなり気にしていた。Aさんも町内会長や自治振興委員をやる中で、地域のつながりが少なくなっていることと、自分の町内でもお年寄りばかりの家庭があることを改めて感じた。積極的に外へ出て人と触れ合う人もいるが、そういったことが苦手で引きこもりがちの人も増えてきている。Aさんの町内ではないが、近くで何件か独居老人が2、3日見かけない間に亡くなっていたということがあり、こうした状況もなかなか把握できなくなっていることから、日ごろ顔を合わせてそれぞれがある程度わかるような形にしておきたいと考えていた。

そうした中で市の方でも、三世代交流ができる場を設けたいとの考えがあり、商店街の空き店舗を利用して事業を始めることで助成金が出る、「まちづくり交付金」⁽⁷⁾を利用して、そのようなコミュニティ施設を立ち上げられるという提案がBさんの方に来た。しかし、空き物件の有無や事業内容、家賃などの資金的問題など、全く決まっていない状態からのスタートであったため、話を進めていくには、一つの町内だけではなく、朝日丘地区としてやっていく方が合理的だという結論になったのである。そこで、Bさんは自身が所属する朝日丘地区社会福祉協議会(以下地区社協、巻末参考資料1)に相談を持ちかけ、地区社協としてもまちのコミュニティ広場のような施設が欲しいという考えがあったので、地区社協という組織の一事業としてサロンを開設する方針で協議が重ねられた。

 

・協議開始と助成制度の利用

協議は200812月から月に2回ほどのペースで、サロン開設の20098月までの半年余りの間に行われ、地区社協と市の担当者、ボラセンのスタッフが参加した。朝日丘地区の商店街で空き店舗が見つかり、大家と交渉が成立。「まちづくり交付金」の予算は約800万円で、それに見合った改修となったが、建物(以前は衣料品店や旅行会社として使われていた)自体が築60年ほどで古かったことと、二階が住居スペースであったため、大幅な改修となった。そして、「まちづくり交付金」については、あくまでも空き店舗改修の費用を助成するというものであったため、運営には、コミュニティ活動に対して助成をする「クリエイト・マイ・タウン事業」⁽⁸⁾を利用した。そこで得た50万円は、エアコンなどの設備を揃えたり、開設後の運営資金として使われたりした。また、地域住民に呼びかけ、食器などの不用品も集めて、サロンオープンへの準備が進められた。その他、運営資金を調達する意味で、カフェで使えるチケット(200円券11枚綴りで2000円)を地域住民に事前に買ってもらい、用意した100冊全てが売れた。

 

・スタッフの募集

 市は運営には関与しないため、ボランティアスタッフを集めることとなった。ボラセンのスタッフが協議に参加した理由はここにある。3年ほど前に立ちあがった朝日丘地区のボランティア組織が地区社協の中にあり、ここの母体となる組織がボラセンである。サロン開設に向けての動きが進んでいる当時、ボラセンに登録されている朝日丘地区のボランティアが100名近くいた。その中で、地区ボランティアとは別に、サロンのスタッフもできる人を募集した。地区社協のメンバーももちろんスタッフとして参加する形となり、特に民生委員に積極的にスタッフを頼む形となった。友人を誘って一緒に参加したいという人もいて、地区外からもスタッフが集まる形となった。Aさん、Bさんによると、ボランティアスタッフだけで運営する体制は珍しい。

 

●運営委員会

運営委員会は運営委員長、カフェ・だんだん広場・さんさんキッズの各チーフなど8名から成る。部門はカフェ・だんだん広場・さんさんキッズ・総務の4部門であり、総務はサロンの統括として会計や外部への対応を行っている。朝日丘校区内のそれぞれの町内会長兼自治振興委員⁽²⁾が運営委員を務めており、朝日丘地区社会福祉協議会(以下朝日丘地区社協)のメンバーで、地区社協の一事業としてサロンを運営している。それぞれ、地区社協の会長や地元商店街の代表、朝日丘のボランティア事務所の代表など、地域での役割ももっている。運営委員会のミーティングは必要があるときのみで、定期的な集まりはない。

 

●朝日丘校区のボランティア事務所

 朝日丘校区にボランティア団体が3年ほど前に出来た。市全体は市のボランティア総合センターがあるが、校区内での活動を考えた時に、この地区でも団体をつくればいいという話になった。ボランティアセンターからの情報伝達や、ボランティアを希望している人の窓口が個人であったことなどを考えると、サロンができたことを利用して、連絡がスムーズにできるため、ボランティア事務所をサロンに置いた。市全体のボランティアも含め、サロンに掲示することは情報発信として大きな意味があり、事務所を置くことによって、ある程度予算も見てもらえる。また情報発信だけではなく、ボランティア行事にもサロンを使っている。例えば、校区内で大きな祭りがある際に、清掃活動のボランティアを企画する。事前の打ち合わせをサロンで行い、当日清掃活動が終わったら、サロン内のカフェでお茶しながらおしゃべりして、というような使われ方がある。

 

●資金面

Aさんによると、カフェの利用者はおよそ月500~600人で、その収益だけではやり繰りできない。オープンから半年ほどの決算状況からすると、「さんさんキッズ」が年間100日開所することによって50万円、朝日丘のボランティア事務所をおくことで年間20万円が入ってきて合計70万円。「クリエイト・マイ・タウン事業」(2010年度は助成無し)の助成で50万円。決算してみた結果、繰越としていくらか残せる形で運営できている(20105月のインタビュー当時)。

 

 以下の「ボランティアスタッフ」「スタッフの声」「利用者」では、カフェのチーフBさん、カフェスタッフDさんへのインタビューやカフェでのフィールドワークからのデータを中心にまとめる。

 

●ボランティアスタッフ

〈スタッフ〉

スタッフは全てボランティアで、民生委員をやっている人、また60代が多く、女性がほとんど。Dさんもその内の一人で、次のような語りがあった。

 

D:私も民生委員してて、そこから少しでもお手伝いしてくださいって言われて入ったん

だけど、全然関係の無い、また私の友達が来たりと。

私:繋がってって。

D:うん、繋がって。やっぱりとっかかりはそういうところから広がっていかないと、全

然知らない人声掛けても入りにくいから。役職をうまく利用して入れて、また輪を広げていくような感じで、今スタッフは決まってると思います。

 

 このように、知人を次々誘っていくような形で、スタッフが集まった。また、スタッフは近所に住んでいる人とは限らないが、地区内に住む人が多くを占める

 

〈シフト〉

 シフトは各部門ごとにチーフが組んでいる。チーフは状況に応じてシフトに入ることもある。その他の運営委員の中でも4名はシフトに入るメンバーがいる。カフェは、第何何曜日は誰が出るというような基本シフトがあり、1013時までの午前に2人、1317時までの午後に3人としている。日が近づいてくると都合の悪くなる人もいるので、シフト表を張っておき、それぞれ確認して都合が悪ければチェックしていく。埋まってない時間帯があれば、チーフが声をかけて埋めて行く。月の60パーセントほどは固定されているが、全くフリーでお願いしてくる人もいる。残りの空欄は、シフトを見に来た人で出来る日があれば入ってもらっている。Bさんによると、週一回シフトに入っていれば、頻繁に活動している方とのこと。だんだん広場は週一回なので、何週目は誰というように固定されている。さんさんキッズも何週目の何曜日は誰というように、だんだん広場と同じく固定になっている。新しい人が加わることはめったにない。一人一部門と決まっているわけではなく、二つの部門を担当するスタッフもいる。また、Dさんは知人とシフトに入ることがほとんどあり、「大概ね、ちょっとグループ作って(シフトに)入ってる。(中略)うん、やりやすい。和気あいあいとできるから。」と語っており、知人同士でのやりやすさがボランティアの継続に繋がると考えている。


●スタッフの声

〈スタッフをやっていて良かったこと〉

Dさんは、民生委員をやっていることがきっかけでスタッフを始め、「ええ、そこ(民生委員)から。最初はうーんと思ってしたけど、今では楽しいです。」と言い、人との出会いが多いことやスタッフ、利用者と話すことで元気がもらえたり、自分とは違った考え方を勉強できることを挙げた。また、次のような語りがあった。

 

D:うん、出会いも多いし、自分自身のためにいいの。私がこれだけ歳いって60過ぎて家

にいても。余った時間ここにいたほうが、なんか輝けるかなというか。

私:充実した感じが。

D:うん、充実した日が過ごせる。だから人のためでなくても、この歳なったらね、自分

のためにボランティアしとるみたい。

私:それはでも、うん、大事ですよね。

D:うんうん。そういう(自分のためにという)気持ちのほうが強いです。

 

 

 人のためというよりは、自分のためにボランティアをしているというような言葉が何度も聞かれ、サロンでのボランティアが自身の生活に充実感を与えていることを語った。随時行ったカフェでのフィールドワークでは、スタッフから以下のような声が聞けたのでまとめる。

 

 スタッフをやっていて良かったと思うのは、人との出会い。家にいるだけでは出会えない人とのふれあいがある。スタッフどうしのコミュニケーションに関しても、スタッフの多くは主婦で、生活の知恵の情報交換など、自分は物知りなほうだと思っていても驚かされることが多い。またその分、自分の家庭のやり方がそれぞれあり、我を通したい気持ちがあるため、それに対して何を言われても気にしない強さや受け入れる寛容さが身についたと感じている。その他、体を動かすことも自分のためになっていると感じており、メリットはたくさんある。

 

 こちらからも、サロンが人との出会いや情報交換の場になっていること、サロンでの活動が自分のためになっていることが挙げられた。Bさんを含む、スタッフ4名でのグループインタビューでも、人との交流の幅が広がることや、同じ物事に関しても違ったものの見方を知れること、高齢者から昔の話が聞けて勉強になることなどを挙げ、「人が交流するっていいことだなと思う」「そういう(人の話が聞けるという)ことでは、すごくいい場所」といった思いが聞けた。

 

〈ボランティアの継続〉

 カフェスタッフによると、スタッフを辞めていく人は仕事や家庭の都合が理由である場合がほとんどであるという。スタッフは地域に戻るとそれぞれの地位(大御所と呼ばれるような人や町内での立場上偉い人など)があるが、サロン内ではボランティアはみな平等であり、輪の中に入っていきやすく、活動もスムーズであると感じている。

 Dさんには、シフトに入っていない時でも、利用者としてサロンに来るかを聞いたところ、自分は忙しくてあまり来れないと答えたうえで、次のような語りがあった。

 

D:やっぱりそれはその人の生活リズムで、(予定が)空いてたら来れるけれども、忙しい

かたはなかなか来れない。そういうのと、長続きするために、あんまりべったりだったら本人が辛くなるから、月に何回と決めておけば負担かからなく、ながーくできるから。そういう点もあるがでないかなーと思います。うふふ。

私:あんまり辞めていかれるかたもおらんって。

D:うん、おられんわ。要は無理しないから。無理しないのと楽しいのと。

 

無理をしないことで本人が辛いと感じないこと、活動が楽しいと感じられることがボランティアの継続に繋がると感じている。また、ボランティアは商売ではないことも、気が楽だということを話していた。楽しさを挙げているのは、Bさんを含むグループインタビューでの語りにも見られた。

 

ス:楽しいことあるからやね。

私:ここ来たら楽しいからまたやりたいなーって。

B:それは利用する人もボランティアする人もみんな一緒。

一同:うーん。

ス:そうでなかったらね。

B:気持ちはみんな一緒。

 

 これらの語りから、スタッフとしての活動が楽しいと感じていることはボランティアの継続に大きく影響していることが伺える。Aさんも運営する立場として、サロンの運営継続に一番大切なのは、ボランティアする人たちが楽しめること、つまりそのようなボランティアを確保していくことだと考えている。

 

 

〈都合の悪いこと〉

 Dさんは、特に不便に思っていることは無いとしたうえで、あえて言うなら月に2回し

かシフトに入っていないため、メニューによってのマニュアルを忘れてしまうことを挙げ

た。季節のメニューが加わったり、毎回一通りのメニューが注文されるわけではないので、

久しぶりに注文された品の準備の仕方を忘れたりしてしまうことだという。

 Bさんも、不便に思っていることはまり無いとしたうえで、シフトについて、780人でスタッフを動かしていながらも不足があることを指摘した。しかし、足りなければメールを回したり、誰かを呼び出したりはできるとし、「ハプニングはいろいろあります。だけど、そんなにここやってて私らひどい迷惑しとるよとかそういう嫌味言われたこともないし、あんまりデメリットはない。」と語った。

 

〈世代交代〉

 カフェのスタッフによると、ボランティアが皆平等で活動しやすいことはよいが、いつまでもこのメンバーで固まっていくようでは世代交代の問題に関わってくるので、次の引き継ぎをどうするかを考えなければいけないと感じている。Aさんも、今は運営委員が活動できている状態であるが、それも皆ボランティアであり、世代交代について考えていかなければならないと感じている。サロンを立ち上げたからには、将来を見据えて次の世代にバトンタッチする体制をどう作っていくかが今後の課題であることを語った。時給を出して来てもらうのではなく、ボランティアを楽しむ場所としての役割もサロンにあるという考えが当初からあるので、運営するなかではかなりのプレッシャーがあるが、あくまでも人件費無しのボランティアでの運営を続けていきたいとの考えを示した。

 

●利用者

〈サロンの存在の浸透〉(特にカフェについて)

 Aさんへのインタビューで、利用者について尋ねたところ、近所といっても地区が広いため車で来てくれる人がいたり、45人での小さな地区の集まりに利用してもらえたりすることを考えると、朝日丘地区の人にはサロンの存在が浸透してきていると感じていることが分かった。また、グループインタビューでは、次のような語りがあった。

 

私:常連さんというかいつも顔見せに来る人とかもいらっしゃいますか。

B:おられる、おられる。大体2,3人ぐらいで誘い合わせて、ばあちゃんたちがここでじ

っくーりとしゃべってく。

一同:うんうん。

B:まだおってもいーい言うて。ええ、じっくーりとしゃべってくよ。そういう人らちが

どれだけかおる。

私:やっぱり地域の人にもだんだん知られてきているというか。

B:そういう実感はあるね。

一同:うん。

 

シフトに入っている日は、町内の人に自分がサロンにいることを知らせてくると、その町内の人が、友達を誘ってサロンに来てくれることもよくあるという。普段は近所でじっくり話すことがなくても、サロンでならテーブルを囲んで、飲食しながらおしゃべりができる。そんな、地域の交流の場になっているとスタッフは感じている。カフェでのフィールドワークでも、地域の人に浸透してきていることがわかる場面がいくつかあった。

・「この前ゆず茶飲んだから」と言って、コーヒーを頼む。

・「ここのぜんざいおいしいよ」と誘い合わせた知人に教えて、またぜんざいを注文する。

・「ゴーヤジュースあるって聞いたから買いに来た」とカフェに買いに来る。

・「近くで買い物した店で、バス待つ間にそこのサロン使えばいいよ」と言われて休憩しに来る。

・チケットが無くなり、買い足しに来る。

 以上のように、以前にサロンに来たことがあるとわかる、サロンを人に勧める場面がよく見られた。チケットでの支払いも多く、リピート客が多いこともわかる。

 

〈年齢層〉

 Aさんによると、利用者は高齢者が多く、平日の利用が多い。休日は家に家族がいるため、比較的自由な時間の多い平日が外に出やすいためではないかと考えている。高齢者以外だと、「さんさんキッズ」の送り迎えで保護者が来たり、商店街での買い物帰りの休憩、あるいはカフェのメニューの持ち帰りを利用する人であるという。

 

〈利用者数〉

 カフェのスタッフは、毎日日誌をつけており、当番や利用者数の記録を行っている。201039月の月別利用者数は以下のようになっている。

 

 

201039月のカフェ利用者数」表31

3

4

5

6

7

8

9

利用者数

604

541

630

555

709

598

587

 

 

31から、平均して月600人ほどの利用者数となる。Aさんによれば、一日平均は20人ほどで、だんだん広場のある月曜日は、だんだん広場の参加者だけで約15人なので、40人を超す賑わいのある日もある。一方、少ない時では、一日で67人の利用者という静かな日もある。利用者数にばらつきはあるが、比較的午後の利用者の方が多いとAさん、カフェスタッフ共に話していた。

 

〈カフェの利用の仕方〉

 以下では、カフェでのフィールドワークからのデータを中心に、どのようなカフェの利用の仕方があるのか例を紹介する。

・地域の小さな集まりでの話し合い

・近所の保育園の散歩の休憩

・トイレ休憩

・弁当を持ち寄ったり、出前をとったり、ランチを楽しむ場

・カフェでの買い物、あるいは商店街での買い物ついでの一休み

・毎日の散歩の立ち寄り場

・「だんだん広場」などの活動前後の利用(場所代代わりとしてカフェで注文)

・利用者がいない時のスタッフ同士のコミュニケーションの場

・コピーだけのちょっとした用事でも立ち寄れる場

・観光、ボランティアの情報収集

 以上のように、カフェは基本的に自由に使うことができる。

 

●場所の提供

地区のコミュニティやヤングママのサークルなど、2階の部屋を貸してほしい人達に場所を提供している。このような使用は不定期であまりなく、月一回程度だが、だんだん広場やさんさんキッズで部屋を使用している場合もあるので、事前に電話で予約を入れてもらい、大人数での使用の際にはそれに合わせてカフェスタッフの数も増やすなどして対応している。場所代は設定されていないため、Aさんはその代わりにコーヒーの1杯でも注文してもらえたらと思っている。部屋まで飲み物をサービスすることも可能。

 

 

 

 

 

第三節 まちなかサロンひみで行われている活動

●だんだん広場

 毎週月曜日の13時半〜15時に高齢者が集まって、歌やゲームを行う。月に一度、会食会も行っている。(会食会の日は12時半〜)

〈活動内容〉【調査:月曜日13時半〜15時】

参加者14名、スタッフ2名の計16名。

・歌いながらの体操 

「茶つみ」「めだかの学校」など親しみのある曲を全員で歌いながら座ったまま手足や肩を動かす体操を行う。歌詞が書かれた模造紙が用意されており、毎回同じ曲をアカペラで歌いながら体操を行う。ゴムバンドを使いながらの体操も交え、各自無理のない程度に体を動かす。

・発声練習のようなもの(声に出して文章を読む)

「ありさん あつまれ あいうえお」「かにさん かさこそ かきくけこ」などの文章を声に出して全員で一斉に読む。

・棒を使ったゲーム

新聞紙を丸めて作った棒に上から下まで等間隔に青、黒、緑、黄、赤のビニールテープで印がつけてあり、最初は一番上の青を片手で持ってゲームがスタート。スタッフが「緑」と言うと棒を片手だけ使って青から緑に持ち変える。ある程度やると、掛け声を参加者一人一人で順番に言い合っていく。

・脳トレ

テーブルを準備して座布団に座る人、椅子に座る人、それぞれの都合に合わせて席を選ぶ。マス目に1〜100までの数字の書いてあるボードと、同じ数字が書かれたおはじきが一人1セット配られる。ボードの数字と同じ数字のおはじきをマスに置いていく。早くできるこつはわからないものにこだわらないことと、偶数は水色、奇数はピンク色のおはじきなので、そこに気付くこと。各自時間を計って、4分ほどを目安に完成を目指す。終わった人から今度はマス目だけの数字が書かれていないボードで同じようにやる。

この後は全員で一階のカフェへ移動。場所代代わりにカフェを利用するのが恒例となっている。おしゃべりしながら飲食し、終わった人から帰っていく。

 

〈だんだん広場の歴史〉

サロンでだんだん広場が始まったのは200910月。それ以前は光源寺(氷見市南大町)2年間ほど脳トレをしていた。現在のだんだん広場は大体16人で固定メンバーであり、そのうち9人は光源寺でやっていたころからの参加者。最初のメンバーが近所の友達を誘って今の人数に落ち着いている。

以下では、だんだん広場でフィールドワークを行った際のスタッフ2名と、カフェでのフィールドワークで出会っただんだん広場スタッフ1名の計3名の話をまとめる。

 

・光源寺での脳トレ

時間を計って公文式の国語と算数のプリントをやっていた。今と同じ週一回月曜日の集まり。プリントが1年分しかなく、また繰り返し同じものをやるわけにもいかず、光源寺での脳トレは終了。

 

・光源寺での脳トレからだんだん広場へ

光源寺での活動が終わる際に、せっかく集まる習慣と仲間ができたのに、解散するのはもったいないから続けたいという思いが参加者にあった。何をやるかではなく、まだこのままのメンバーが集まる機会をつくってほしいという願いがあり、脳トレだけでなくメニューを増やし、だんだん今の形態になっていった。光源寺での集まりから期間を空けてしまうとだめになるから、ちょうど来る負担も少ないサロンを利用して、とにかく引き続きで集まることになった。しかし、やることを決めないまま、ただ集まろうというのでは続かなかったかもしれないという。自分がボケ防止の何かをしたいという思いがあっての脳トレの集まりで、このままじゃいけない、衰えにくくしとかないと認知症になってしまうというような危機感を持った人ばっかりであったからである。それがただここのスペースが空いてるからみんな集まれ、みんなこの指とまれという形では集まらなかっただろうと考えている。

 

・スタッフ(サポーター)

サロンに移ってから初めの1,2回はスタッフ無しで活動した。活動する中で、やっぱりスタッフの手が必要になり、光源寺の頃のスタッフに声をかけた。しかし、あくまでもサポーターという手伝いの立場でいてほしい。主体は参加者であり、企画も全部参加者がする。例えばどこかへ出かけるとき、高齢者はなにが起こるかわからないから、手がいる。その時にサポーターがいると安心できる。だからサポーターが主導的になるようでは困る。食事会をやったときに、その日はそれしか計画していないが、ちょっと脳トレの漢字ゲームなんかをサポーターの人が加えてくれると、今日は来てよかったと思える。サポーターという立場では参加者と温度差が生じるが、こういったときの対応は上手でありがたい。とはいえ、転倒防止の体操だけはベースとして恒例になっており、残りはその都度やりたいことをやる形になっている。

 

 

●さんさんキッズ

県の「とやまっ子さんさん広場推進事業」(※巻末参考資料2)を実施している。毎週木・金・土・日曜日の14時〜17時に子どもたちが集まる。

 

〈とやまっ子さんさん広場推進事業〉

サロンは、「さんさん広場推進事業」を利用して「とやまっ子さんさん広場」を実施し、その活動を「さんさんキッズ」としている。

Aさんによると、サロンの場合、「さんさん広場推進事業」から出る補助金は全て運営費として使われている。本来は、世話人への謝礼としても補助されているお金であるが、サロンのスタッフはボランティアであり、さんさんキッズのスタッフも当然ボランティアでやっている。他部門のスタッフと平等にするため、補助金は運営費に回すことを了承してもらっている。サロンはボランティアだけで成り立っているという、スタッフ間の共通の理解が必要であることをAさんは語っていた。

 

 さんさんキッズに関しては、フィールドワークを2回(1回目は主にスタッフ2名へのインタビューで2回目はフィールドワークを行った。)、チーフへのインタビューを1回、運営委員長Aさんへのインタビュー3回の中でも随時行った。(Aさんに関しては、主に運営に関わる点についてをインタビューした。)

 

〈対象児童〉

 「『さんさんキッズ』募集のお知らせ」(※巻末参考資料3)と「まちなかサロンひみ『さんさんキッズ』入会のご案内」(※巻末参考資料4)によると、朝日丘小学校低学年(1~3年生)及び幼児(4~5歳児)。ただし、さんさんキッズチーフCさんによると、高学年(4~6年生)や地区外の児童などでも受け入れている。

 

〈入会〉

 参加に当たっては、入会登録の手続きをしてもらう。「まちなかサロンひみ『さんさんキッズ』登録申込書」(※巻末参考資料5)に必要事項を記入し、傷害保険費(年間600円)を年度ごとに払う。Cさんによると、保険をかけてもらうよう呼びかけているが、強制ではなく、万が一何かあった場合はサロン全体にかけているボランティアの保険からやり繰りすることになっている。

 

〈送迎〉

 Cさんによると、原則保育園児は保護者の送迎が必要で、特に未満児は送迎だけでなく、親子で参加してもらう形にしている。小学生も含め、学校や保育園から直接サロンに来るのではなく、一度家に帰ってから参加することになっている。

 また、14~17時までの間であれば、来る時間、帰る時間は自由である。

 

〈参加者について〉

 スタッフへのインタビューより、参加者が多い時は10人ほどで、朝日丘小学校の13年生が中心。学校から家に帰り、宿題を済ませてから来る子どもも多いという。保育園児はサロンの近くの南大町保育園に通う子であるが、あまり参加者は無く、やはり小学生の利用が多くを占めている。Cさんによると、参加者数は、曜日や天候よりも、小学校・保育園の行事や休みが影響することがあり、塾に通う子どももいるので、その兼ね合いも関わってくるという。また、子どもたちは参加するごとに、「さんさんキッズ利用者名簿」(※巻末参考資料6)に必要事項記入する。

 

〈活動内容〉【調査:金曜日 15時半〜16時ごろ】

参加者2名(小学1年生の男女各1名)、スタッフ2名の計4

(私が調査に行った少し前の時間帯には、他にも小学生4名の参加者あり。)

・折り紙  子どもたちに、折り紙で作る傘の折り方をスタッフが教え、次第に折り方を覚えた子どもたちは、いくつも作って持ち帰った。            

・ボール遊び  調査前に来ていた子どもたちはボールを使って、ドッジボールのような遊びをしていた。

毎月第三土曜日には創作活動を行うことになっており、氷見市の児童クラブの方(朝日丘地区在住の60代)が子どもたちに割り箸を使っての竹トンボづくりを教えるなどの工作をしている。その他は、活動内容は特に決まっておらず、基本的に子どもたちの好きなように遊ばせる。部屋には絵本やおもちゃなどがそろっており、これらはスタッフなどが不用品を持ち寄って集めたものである。

 

310「不用品を集めた絵本やおもちゃ」

 

 

〈スタッフ〉

フィールドワークの際に、話を聞いたスタッフ2名は月23回ほどのペースでシフトに入っており、1名はだんだん広場とさんさんキッズの両方を担当している。民生委員をやっており、サロンのオープンの際、どの部門を担当するか決めたそう。活動日誌があり、その日の活動が終わる際に、スタッフは児童出席状況・活動内容・特記事項・連絡事項を記入していく。

Cさんによると、「子育て関係(に携わる人)は割りと民生委員が多い⁽⁹⁾」そうで、「さんさんキッズ」のスタッフも民生委員が多いという。

 

〈講習〉

スタッフは地域住民が対象であり、特に資格は必要としない。しかし、後継者を育てるためにも、Cさんは児童館構成員の研修に参加するようスタッフに呼びかけている。さんさんキッズのスタッフだけでなく、地域の子育てボランティアや氷見市の子育て応援団に入っている人など、子育ての関係で割りと子供に関わってくれるような人を中心に声をかけるが、研修会場が市外のため、強制的ではない。

 

〈学童保育との違い〉

 Cさんによる、さんさんキッズと学童保育についての語りを以下にまとめる。

学童保育は朝日丘地区の場合、朝日丘小学校の空き教室で行っており、帰宅しても面倒を見てくれる人がいない(親が共働きである場合など)留守家庭の児童が対象となる。一方、さんさんキッズは家に親や祖父母などの家族がいようが、参加は自由。学童を利用していない子どもの中で、帰宅して家族が家にいても、遊ぶ友達がいなかったり、テレビやゲームばかりしてしまったりする子もいる。「そういう子供たちの行く場所を作るってことは大事でないかなと思う」とCさんは語ってくれた。

 このようにさんさんキッズは、学童保育のように保育機能を重視しているというよりは、子どもたちの遊び場を提供する意味合いが大きい。

 

〈三世代交流〉

 子どもたちは、一階のカフェコーナーを通って、二階の部屋へ行くことになる。その過程で、周りの大人が声をかけてやる。Cさんによると、さんさんキッズ開始時期から、あいさつについては熱心に指導しており、スタッフも子どもたちがきちんと挨拶するようになったと感じている。Cさんにさんさんキッズに対しての改善点や要望を尋ねたところ、「欲を言えば、子どもたちがのびのびと遊べるようにもう少し広いスペースが欲しい」というような答えが返ってきた。しかし、今のサロンだからこそ子どもが走り回っていて危なかったりすると、周りの人が注意してくれるので、やはりこのサロンならではのこともあるという。子どもがサロンに入ってくると、カフェのスタッフや利用者が何かしら声をかける光景も必ずあるので、世代交流に関してはイベントを仕掛ける予定はなく、通常のさんさんキッズで十分と考えている。

 

 

●パッチワーク教室

第一、三水曜日に開催で、20名弱が参加。201011月に始まったばかりで、教室を開きたいという講師の作品をギャラリースペースで展示したのち、受講生を募集し、今後は教室で制作したものも展示されるのではないかとのこと。