1章 問題関心

 伝統的工芸品とは昭和49年に制定された伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)に基づき、振興すべき品目として国(当時・通商産業大臣、現在・経済産業大臣)の指定を受けている工芸品である。伝統的工芸品は、主要工程が手づくりであり、高度の伝統的技術を求められる。そのため技術の習得には長い年月が必要となる。生活様式の変化に伴い伝統的工芸品の需要が低迷していること、後継者の確保育成が難しいことが伝産業界全体の大きな問題となっている。

 本論文では石川県の伝統的工芸品である金沢箔を事例に取り上げる。金沢箔は伝統的工芸品のなかでも2品目しかない伝統的材料である。金沢箔には2つの工法がある。ひとつは、400年以上前から存在する縁付金箔工法。もうひとつは、昭和40年頃の技術開発によって生まれた断切金箔工法である。本論文ではこの断切金箔工法の誕生を金沢箔業界のターニングポイントと捉え、主に断切金箔職人に焦点を当てる。断切金箔工法の誕生がどのような職人の人生を生み出し、それがどのような顛末を迎えているのか。断切金箔職人のライフヒストリーや、金沢金箔伝統技術保存会および金沢箔作業所に関する新しい動きも踏まえながら、金沢箔業界のこれからについて探っていきたいと思う。