第六章 考察―個人と社会をつなぐ場所として―

これまでグランドプラザが出来るまでの経緯や設備、マッチング事業という取り組みや

実際の使用者へのインタビュー調査を通して、グランドプラザの空間としての特性と使用

者の精神的な満足というものが見えてきた。

 まず、グランドプラザの空間としての特性とは、グランドプラザが道路を解除し、セッ

トバックすることによって作られた、歩行者が自由に通り抜け可能な広場であるというこ

とである。また、百貨店であるFERIOと駐車場であるCUBYの間に位置しているこ

とと、富山市総曲輪という富山市の中心街活性化基本事業の中心拠点に位置していること

により、人通りが多く、市内電車やセントラムをはじめとする周辺の交通インフラも整備

されているためアクセスが良い。日々様々なイベントやワゴンショップの出店がなされて

いるため、通りすがりの人にでも押し付けがましくなくイベント主催者側の理念を提供す

ることが可能となっている。また、事前の告知がなかった人にでも、イベントに参加する

機会を与えることになる。また、グランドプラザの設備がただ単にまちなかの広場という

役割だけでなく多彩なイベントに対応しうる設備を併せ持つということも大きなポイント

となっている。平常時はフラットで椅子や机が並び、グリーンのある広場的要素が強いス

ペースとして機能するのに対して、イベント時などの専用使用の際には使用者の思いのま

まにスペースを活用できる。具体的には、大型ビジョンを使用することで総曲輪通りの人

通りやFERIOへの集客をグランドプラザのイベントに引き寄せることが可能となって

いる。これは丸谷さんと大澤さんの語りからも、大型ビジョンをイベント時に使用するこ

とによる集客の効果がわかっている。その他にも、イベントの用途に合わせてモバイルグ

リーンを移動させたり昇降式舞台を下げたり、椅子と机を収納することによって空間を持

たせることができる。逆に、ステージを必要とする場合は、昇降式舞台をあげてステージ

として使用できる。その他にも、第五章の丸谷さんの語りにもあったようにモバイルグリ

ーンをイベントの一部にさせ、無機質になりがちな空間に緑をプラスするという演出もで

きる。このように、グランドプラザは使用者のアイディア次第で様変わりする空間となっ

ており、幅広いイベントに対応させることができるといえるだろう。また、全面ガラス屋

根になっているため、天候に左右されずイベントの実施が可能で、季節を問わず半屋外で

のイベントが可能である。室内では実行不可能であろうイベントがこれまでにもグランド

プラザで行われてきた。具体的には、第四章のマッチング事業の事例の三つ目で紹介した

「グラプラバレンタインwith ラブゲート」などが該当するだろう。数日間にわたって生花

と生木で作成されたトンネルを展示することは、室内では厳しいものであったと予想でき、

グランドプラザであるからこそ雨風の心配もなく綺麗な状態を保ちながらの展示が可能で

あったと考えられる。

 次に、使用者の精神的な満足については、第五章のグランドプラザの使用者へのインタ

ビュー調査によって考察に至った。マッチング事業によってイベントを行った丸谷さんと、

以前からワゴンショップを出店するため行為使用しており、イベントを行うにあたりグラ

ンドプラザをその場所として選択し、専用使用でイベントを行った大澤さん。この二名の

例はほんの一例にしか過ぎないが、インタビュー調査を行ったことで共通してみられたの

が、グランドプラザでイベントを行ったことによる満足感である。これは、具体的な収益

金や商品の売り上げを第一の目的とはしておらず、使用者のイベントに込められたメッセ

ージが強いことがわかった。丸谷さんの事例では、丸谷さんの大学での富山県の森林を題

材とした講義の中で学生が制作した作品を展示するという丸谷さんの個人的な要素だけで

なく、社団法人富山県産業廃棄物協会と富山県農林水産部森林政策課と一緒になって循環

型社会をテーマに、その他の燃料チップや富山県産の材木、丸太の展示、子供向けの積み

木の遊び場の展示もなされていた。つまり、ただ単に行われたイベントが講義の成果を発

表するためだけの場に成り下がっていなかったというところに注目したい。また、丸谷さ

んは初めてグランドプラザを使用した2007年の2年後の2009年にも専用使用によ

るイベントを行ったという事実などからも、グランドプラザでのイベントに満足していた

ことがわかる。また、大澤さんの事例では、大澤さんは雑貨屋「CHILLING ST

YLE」のオーナーであるから、イベントを行うことは店の商品の売り上げや宣伝が最大

の目的かと私は予想していたが、そうではなかった。大澤さんが「CHILLING S

TYLE」に込めた、北欧風の生活様式を日本人のライフスタイルに提案したいというコ

ンセプトがイベントに反映されていた。商品を売りつけるということはせず、たくさんの

人に「CHILLING STYLE」の思想や雰囲気を味わってもらいたいという大澤

さんの思いがあった。結果的に経済面では赤字であったが、イベントの結果に満足してい

たという語りからわかるのは、大澤さんという一個人の趣味の域を超えている、確固たる

理念があるからこその精神的な満足感なのかと思う。

 グランドプラザという活発なイベントが行われている広場が富山市総曲輪の中心商店街

の中にあることによって、商店街の店舗やFERIOへの買い物目的だけの人を集める機

能だけでなく、むしろ買い物しなくても集まる、訪れることのできる場所としての機能を

果たしているように考えられる。人が集まることによる賑わいや、イベントによる多様な

価値観や理念にふれ、楽しみ、情報を得ることができたりすることによって、ますますま

ちづくりが活気を増すと思う。そんな中で、グランドプラザは富山市の中心で存在感を放

っている良い例であるといえるだろう。広場としての機能と万能なイベントスペースとし

ての機能を併せ持ち、富山県を代表するイベントスペースとして定着している。また、マ

ッチング事業をはじめとする市民参加のイベントの機会の提供やオリジナリティ溢れるイ

ベントが年々衰退することなく行われていることからも、今後の更なるイベントに期待が

もてる。そしてグランドプラザの持続可能なイベントによる賑わいによって、商店街の賑

わいにも繋がっているように思える。これは、直接的な即効性のある販促に結び付くとい

うことではないが、人と人がふれあい楽しめる商店街作りに、イベントによる賑わいが効

果を発揮していくことが期待できるのではないか。

また、使用者へのインタビューによって浮かび上がってきた最も大きなポイントとして二つ挙げられる。まず、グランドプラザのイベントは、経済的利益に回収されない個人の趣味やライフワークであるということだ。そして、単に個人の自己実現というだけに留まらないメッセージ性をもっているということである。丸谷さんの場合は、「循環型社会」に向けた啓発活動として捉えられる内容のイベントであり、公共的な理念があるものとして考えられる。また、大澤さんの場合は、日本文化のライフスタイルにフィンランドを中心とした北欧の生活様式を組み合わせるという思想を広めるという「CHILLING STYLE」のコンセプトから、人間の心の豊かさと幅、新しい消費を発掘する可能性を秘めた社会性のある生活様式の提案であると考えられる。丸谷さんや大澤さんのように、確固たる経験や考えに裏打ちされた使用者がいるというのはもちろんのこと、グランドプラザというまちなかの場所で、通りすがりのイベント参加者が多くなりやすいという公共的な場所であるからこそ、こうした市民の個人性と社会という相反する要素を形にしていくことが出来ているのかもしれない。そういった意味でも、グランドプラザは個人と社会をつなぐ場として機能しているのではないだろうか。まちづくりにおいて商店街の賑わいを創出していくためには、単に商店街に人を集めるだけでなく、何らかの社会性を帯びたメッセージを発信する場としてまちを機能させることが必要なのではないだろうか。そこから新たな賑わいや、最終的には販促に結びつけることができると思われる。このことがイベントをまちづくりにつなげるために欠かせない視点だと考える。