第三章 グランドプラザ

 

第一節 グランドプラザができるまで

富山県富山市はこれまでに、以下に記すような中心市街地活性化への活発な事業展開を行ってきた。

1998年10月 「中心市街地活性化法」施行

1999年4月 中心市街地活性化推進室が富山市役所に設置

1999年9月 「富山市中心市街地活性化基本計画」策定

2000年7月 「株式会社まちづくりとやま」※1設立

2007年2月 「富山市中心市街地活性化基本計画第一号案」認定 

特に「富山市中心市街地活性化基本計画」においては、「@公共交通の利便性の向上A賑わい拠点の創出B街なか居住の推進」という3本柱で活性化に取り組んでいる。特に「A賑わい拠点の創出」のための取り組みとして、グランドプラザ整備事業完了や総曲輪通り南地区第一種市街地再開発事業(愛称:総曲輪FERIO)完了、グランドパーキング(愛称:CUBY)完成が挙げられる。

 

グランドプラザ

 

グランドプラザができるまでのプロセス

当初は、中心商店街の隣接した2地区で「百貨店を中心とした再開発」と「駐車場を中心とした再開発」が同時期に計画されていた。現在の大和富山店を中心とした総曲輪FERIO、そしてグランドパーキング(630台の駐車場)と商業施設を併せ持つ西町の総曲輪CUBYである。その間にはかつて「グランド通り」があり2つの再開発ビルはそれぞれ事業主体が異なるため、この通りを挟んで別々に計画・着工が進められていった。幅5m程の富山市道である「グランド通り」と両地区の再開発で廃止される道路を集めて幅の広い道路とし、さらにセットバック※2部分を含めて「グランドプラザ」が完成した。

「グランド通り」をはじめ、いくつかあった細い市道を1か所に集めてくることで、幅21メートルの広いスペースが創り出された。このスペースは当初は総曲輪FERIOへの物品の搬入用のバックヤードや、駐車場の出口として利用する案があがっていた。しかし、再開発の検討が重ねられるなかで、それまでの発想を大きく転換し2つのビルを一体化し、グランドプラザが生み出されることとなった。

                    

第二節 グランドプラザについて

2007年9月17日開所、大きさは南北65m、東西21m、高さ19mである。施設面積は約1400uである。全天候型ガラス屋根の広場で、大型ビジョンや床下収納庫(可動式舞台)が設備されている。平日はだいたい移動販売車やワゴンショップが出店中で、休日は何かしらのイベントが行われている。広場の目的は「憩いの場」である。グランドプラザが街の拠点となって、「そこに行けば誰かに会える」「そこに行けばなにか楽しいことが行われている」という状況を作り出すことを目的にした。富山市が整備し、2009年までは直営で管理していた。2010年度より、株式会社まちづくりとやまが管理している。実際の活用は、市民や商業者がなるべく自由に使えるようにと考え、道路認定を解除し新たに条例を制定して、管理、運営している。条例では、禁止事項を細かく決めないことにしている。なぜなら、利用する人たちの良識やマナーに任せるようにしたいという願いが込められているからである。グランドプラザ運営事務所※3がイベントの管理をしている。『商工とやま』2008年2月3日発行によれば、グランドプラザの開所によって周辺商店街や通りの歩行者は数倍にアップしたとある。また、まちなかのイメージも、「明るい」、「都会的」、「活気がある」、「イベント」、「行ってみようかと思う」というように良くなっているという。

 

移動販売車やワゴンショップ

 

アクセス
グランドプラザ 住所:〒930−0083 富山市総曲輪三丁目8番39号
グランドプラザ運営事務所 住所:〒930−0083 富山市総曲輪三丁目6番15−23号
交通手段
富山地方鉄道市内電車環状線   『グランドプラザ前』電停下車 徒歩0分
富山地方鉄道市内電車      『西町』電停下車 徒歩3分
まいどはやバス中央ルート    『総曲輪通り商店街口』 徒歩1分
富山地方鉄道バス         『総曲輪』バス停下車 徒歩2分
JR富山駅から          徒歩約20分

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FERIOとは、富山大和と27の専門店からなる百貨店である。FERIOのことを「大和」と認識する地元住民も多い。CUBYとは、グランドパーキングという大型立体駐車場の愛称である。FERIOの3階とCUBYの4階、及び6階と8階は連絡橋で繋がっている。FERIOとCUBYの間にグランドプラザがあるため、連絡橋からはグランドプラザの様子を見下ろすことができる。

第一項 グランドプラザの設備

1、全面ガラスのダイナミックな空間

 総曲輪通りと平和通りを結ぶガラス屋根のかかった広場で、大きさは南北65m、東西21m、面積約1400mu、天井高19mである。屋根も壁もガラスで、大きなガラス箱のようになっており、開放的なフリースペースになっている。よって、天候に左右されないイベントが可能な全天候型スペースであり、さらに空間の内外を二つの通路が横切っているため、表情豊かな空の下、様々なアングルからグランドプラザを楽しむことができる。株式会社日本設計顧問でプリンシパル・デザイナーの淺石優(あさいし まさる)さんが、グランドプラザの設計者であり、「グランドプラザの主役はそこに集う人であり、起こるコトである」と徹底して「人」や「コト」の背景である建築にこだわった。ガラスの建築というのは、ガラスを支えるための構造体が必要で、ついつい骨太になりがちだが、吸盤でガラスを支えるような構造になっている。また、空調設備もその他の目立った設備もなく、とてもすっきりとしたクールな空間になっている。フラットな空間のため、車いすでの利用も多い。また、グランドプラザは建築物としての評価も高く、多くの賞を受賞している。

 ガラス屋根

2、充実した設備

・大型ビジョン 

277インチ(縦3.5m×幅6m)の大型ビジョンは、ライブの臨場感を広げるためにステージの模様を流したり、キャンペーンと同時にプロモーションビデオを流したりと、スペースとつながった利用も可能である。撮影機器も常備しており、大型ビジョンですぐに映像を流せる。山下さんによれば、特に子どもたちは、大型ビジョンに自分の姿が映るのをとても喜ぶそうだ。しかし、グランドプラザのオープン当初は、撮影するカメラの準備に10分ほどかかった。子どもにとってこの時間は長く、待っていられないということで、ワンタッチで瞬時に映せるカメラを取り付けたという。安全管理上、グランドプラザ内には複数のカメラが設置されており、子どもが来たのを見つけると、瞬時にカメラを切り替えることも可能になっている。

大型ビジョン

昇降式舞台

大きさは6.42m×6.08mで、約1mまで自由な高さを設定可能。イベント開催時等にはステージとして使え、個人や少人数のグループでも気軽にイベントが開催できるようになっている。ステージを全部上まであげると収納庫になっていて、テーブル・椅子・音響機材・簡易テント・パーテーションなどの機材を常時保管している。これらは広場の利用者に無料で貸し出しており、使い方はグランドプラザ運営事務所のスタッフが丁寧に説明するが、設営・撤収などは原則として利用者が行う。

昇降式舞台

・電気・給排水完備

・モバイルグリーン(可動式樹木)

直径約2.5mの緑化ユニットに、高さ5mほどの自然木を植えたもので、ホバークラフトのように底面から圧縮空気を噴出し、浮かせながら人力で押して広場の中を移動させることができる。幹の周囲には腰掛けるようなフレームが設けられている。多様なイベントにグランドプラザが使われるため、固定物は置きたくないが、オープンカフェとして使用する際に、広場に彩りを添えるとともに安らぎのスペースとなっている。

モバイルグリーン

 

第二項 グランドプラザの使用―専用使用と行為使用―※5使用料金表参照

グランドプラザの使用時間は、原則として10〜22時となっている。使用方法は2種類あり、専用使用と行為使用となっている。

専用使用というのは、主に週末に行われる大がかりなイベントのことであって、主催者のスタンスで物事を行い、責任を持って行ってもらうイベントを指す。使用予定日の1年前から1か月前まで予約が可能である。行為使用は移動販売車など、グランドプラザの一部を利用するもので、1か月前からのみ予約が可能である。専用使用で使われない日を有効に活用しようということで生まれた考え方である。

使用料金については、専用使用と行為使用で異なるのはもちろん、平日と休日、また時間帯によっても異なってくる。休日の全日12時間利用で最大20万円である。20万円というのは決して安い値段ではない。グランドプラザ運営事務所の山下さんによれば、20万円もはたいて何かをするというのは大変なことであって、値段以上のメリットを得ようとすると力が入る。人に知っていただくためにイベントをやることが多いので、感じてもらったり知ってもらったりするために人を集められる人が、これだけの金額を払って、イベントができる人だろうということで、この使用料を設定した。今では、使用料が高いと思う前に、グランドプラザでイベントを行うと楽しくなりそうだ、面白くなりそうだ、人がたくさん集まりそうだ、というイメージがついてきたという。

第三項 グランドプラザの特徴
1、サインが無い
 グランドプラザには「グランドプラザ」という看板がどこにもない。それは、あえて富山市の持ち物であるとか富山市の賑わい創出のための広場であるとはあまりうたっていないためである。そこが楽しそうだとか、あそこに行きたいだとか思ってもらうことが大事で、名前とか誰の持ち物というのはあまり関係ない。しかし、グランドプラザでイベントを行うことが、グランドプラザという場所のPRにもつながっており、最近は多くの人に名前が認知されている。
 また、駐輪禁止・喫煙禁止・ゴミ捨て禁止といったマナーに関する看板もない。グランドプラザ運営事務所スタッフがまめな声かけをするなど、人とのコミュニケーションを通じてこれらを伝えようとしている。大型ビジョンで 1時間に1回ぐらい禁止事項を出すという方法ももちろん可能だが、文字だけの伝達を避けている。例として積み木広場が挙げられる。靴を脱いであがってもらいたいが、土足禁止といった看板は作りたくない。そこで、積み木広場に長靴を置いておいた。それを見た子どもたちは自然とそこに靴を並べるものだと理解し、最近はかなり定着してきた。

2、オープンなスペース

グランドプラザは朝から深夜まで人がいる。人がたくさん来ているスペースであるため、たとえ通りすがりだとしても、通り抜けて歩いて行く時間に伝えられることはたくさんある。例えば子どもが積み木広場で遊んでいるとする。サラリーマンの男性や女子高生など様々な人が通っていくが、子どもが遊んでいるだけで微笑ましくてみんな笑顔になる。若者も同じで、みんなが何かしていると微笑ましくなる。そういった意味で、若い人たちのエネルギーをまちなかに向けたい、まちなかから発信したいとも考えている。グランドプラザにやってきた全ての人にとって、心地良い空間であり続けたいという思いが込められている。

 

3、道路ではない

グランドプラザの大きな特徴として、道路を解除していることが挙げられる。道路を解除すると、車が通らないため人が入りやすくなり、人が集まる場所となる。そして、何かイベントを行うときに、警察の許可を取る必要がなく、割と自由に利用ができる。道路は警察が管理しているが、道路でないことによってイベントを行う度に許可を得るという手間が省けるというメリットがある。平日に行っている積み木広場などもイベントとしてカウントすると、グランドプラザでは毎日のように何かしらのイベントを行っているといえる。そんなグランドプラザにとって、道路ではない人だけの空間が作れるということは大きな意味がある。

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第三節 グランドプラザのイベント

 グランドプラザでは2007年9月17日の開所以来、専用使用、行為使用を合わせ多数のイベントが行われている。イベントの種類は多様であり、企業がPRのためにグランドプラザを使用してイベントを行う場合も含まれているが、本論文では企業によるイベント以外のものを扱うことにする。以下の折れ線グラフは、グランドプラザにおける月ごとの専用使用と行為使用の回数の推移である。(グランドプラザ公式ホームページ「グランドプラザウェブサイト」から集計)

図1 2007年9月17日からの月別使用回数

図2 2008年月別使用回数

図3 2009年月別使用回数

図4 2010年月別使用回数

 

月ごとや年によってばらつきは見られるものの、グランドプラザではほぼ毎日何かしらの使用がなされているという現状が理解できると思う。図4より2010年は、年間を通して専用使用が行為使用を上回っている。2007年当初から専用使用は全体的に増加傾向である。冬季は2008年から毎年開催されている「エコリンク」というスケート場のイベント(詳細は次の章に明記)が連日開催されているため、図2、図3、図4では冬季のワゴン販売車などの行為使用が減っていると考えられる。