第7章 考察

 

第1節 老人クラブの高齢化が見守り隊に与える影響

 老人クラブは高齢者の生きがいと健康づくりを推進する組織である。富山県内では各地域ごとにスポーツ、趣味、ボランティアといった様々な活動を展開しており、60歳以上の人であれば誰でも入会できる。

今回、調査した2つの見守り隊では老人クラブ会員が中心となって活動を行っている。会員は結成当初から中心として活動することを期待されていた。そして、「ほとんどの方が老人クラブの方です。主体は老人クラブやね」という室田さんの語りや「高齢者の隊員で町内会の老人クラブに入っておる人がやはり80パーセントぐらい」というYTさんの語り、「年金受給者だからその人達(老人クラブ会員)中心になる」というMHさんの語りがあるように、当初の期待に応えるようにして隊員になった老人クラブ会員も多く、見守り隊と老人クラブは密接な関係があると言える。

 一方で、老人クラブそのものが曲がり角にきている様子が見られた。室田さん、YTさんともに言及していたのが“老人クラブの高齢化”である。

室田さんは「昔なら60で老人クラブだった。昔、老人いうたらどっかほんとに80ぐらいまでの人たち。今80でもまだそれから老人クラブに入ろうかいうような年齢だから。若い人たちは、まだ60ぐらいの人たちはまだ元気もあるから、街頭立って街の世話とかいうとこまではいかんということや。難しいとこや。(老人クラブ入会までには)もうちょっと時間かかる」と語っている。YTさんも「昔は60なったら(老人クラブに)入ったんですよね。だけど、今、年金もらえるの65だから、65まで働かなきゃならない。今では65になってから(老人クラブに)入るっていう人が多い。やはり老人クラブそのものが高齢化していっちゃったんですねぇ」と語っている。社会の状況から、より高齢になるまで老人クラブに入会しないようになり、老人クラブが高齢化した。高齢になればなるほど身体に少なからず不自由な部分が出てくると考えられる。「活動に参加したい」という気持ちがあっても、身体の調子により、あまり活動に参加できない隊員もいるのではないだろうか。

老人クラブの会員数に関して、高野は「1970年代以降、緩やかに増大した後、1980年代後半からは高齢化率の上昇にもかかわらず、加入率は低下傾向にある」と述べている(高野 2002 : 33)。また、老人クラブの全国組織である全国老人クラブ連合会によると、1998年に最高数値である134285クラブ、8869086人を数え、以降3年間はクラブ数、会員数ともに減少傾向をたどっている(水沢 2002 : 8)。しかしながら、今回、定塚校区の老人クラブの会長もMHさんも「(老人クラブの会員数は)変化なし」と答えた。具体的な人数の変化は確認できなかったが、今回調査した2つの地域の老人クラブは会員数減少という問題には現時点では直面していないのかもしれない。しかし、老人クラブの高齢化という問題を加味すると、今後の影響を考えざるをえない。

見守り隊は活動時間帯が保護者の勤務時間と重なっているために、保護者に活動参加を求めるのではなく、時間に余裕のある高齢者に活動参加を求めた。その要請に応えている高齢者がいる現状は、見守り隊活動維持のために必要な状況だったのかもしれない。しかし、見守り隊が老人クラブに頼っている以上、老人クラブの問題が見守り隊にまで影響することは必至であり、現時点で問題となっている老人クラブの高齢化に伴う隊員の高齢化に関しては解決策が見えていない。「5年に1回ぐらいサイクルかえて新しい人になってもらわんなん」という室田さんの語りが示すように、高齢の隊員が抜けるのと同時に比較的若い高齢者が隊員となるサイクルが成立すれば良いが、現時点でそのサイクルが成立するかどうかは不明である。老人クラブに頼っている現状は活動が維持できているという効果と、今後の隊活動の漠然とした不透明さという課題を見守り隊に与えている。

 

 

第2節 見守り隊活動の目的の転換

 多くの見守り隊の目的は「子どもの安全を守る」ことであるが、定塚校区地域パトロール隊は「地域社会全体のコミュニケーションを活発にする」ことを目的とした。そのため、当番制を採用せず、「生活の延長で」「登下校時にちょっと外に出て井戸端会議するとかいうような感じで」という活動方針は、多くの住民が活動に参加しやすい状態をつくっていると考えられる。

また、室田さんは次のように語っている。

 

この街に住んどる以上は(全員が)パトロール隊員やという意識をもっとるから、特に

『加入してよ』とか、『(隊員に)なってよ』とか言うつもりもないし、なんとなーく自然に、ならそろそろ自分でも出ようかとなってけばいいがでないかと。で、それは『会社も辞めて定年なって時間あるからお前やれよー』とか、そのなんか町内のコミュニケーションでないかと思うがやねぇ。『やれよー』っていうそういう強制的な話じゃなくって、『お前もそういうことを手伝いしたらどうや』とかそういうなんちゅうがかな、どう言やぁいいがかな、継承言えばいいがかな。

 

実際に、同じ町内の隊員同士で自主的に話をして活動担当日を決めたり、身体の調子が悪くなって活動に出られなくなった老人クラブ会員に代わって活動に参加するようになった隊員がいたりと、地域内でのコミュニケーションが成立している様子が見られた。ふれあいコンサートの開催も室田さんは強調しており、見守り隊活動の目的を「地域コミュニティの形成」としているのは、今回調査した2つの見守り隊で定塚校区地域パトロール隊のみに見られる特徴的な点であるが、隊の結成・維持に効果的にはたらいたように見える。

清水は“防犯”という視点のみでは、人の目の垣根隊活動を一時のブームに終わらせる危険性をもつと考えており、今後の発展のためには、「子育て支援」の視点から、活動の内容やあり方を見直す必要があると述べている(清水 2007 : 103)。これに対して本調査がもたらす知見は以下の2つである。

1つ目は活動の持続のために目的を広げるにしても、選択肢は子育て支援のみではないということである。定塚校区では「地域全体のコミュニケーションを活発にする」という目的のもと、活動が行われている。

2つ目は活動を立ち上げる当初から目的を広げると、活動そのものに効果的ということである。清水は垣根隊が発足1年半を迎え、今後より発展を遂げるために子育て支援団体としての垣根隊を提案した(清水 2007 : 103)。一方、定塚校区は「地域コミュニティの形成」を目的としたパトロール隊結成を目指した結果、結成に成功し、現在まで活動が続けられている。隊員もパトロール隊の趣旨、目的を理解しており、「無理なく、生活の延長で」活動を行っている。

第1節で述べた、高齢者が中心となって見守り隊活動を行っている現状や、目的を“安全確保”に特化しないことは活動維持のための工夫である。中には、工夫であると同時に課題につながっている部分もあるが、見守り隊活動の継続には目的の転換だけでなく、それ以外の工夫も重要であることを2つの事例は示している。