第5章 B町内会防犯パトロール隊の実際

第1節 「B町内会防犯パトロール隊」概要

 県東部に位置するB校区。比較的大きな校区で、住宅地と多くの店舗を含むエリアである。B町内会はB校区で一番大きな町内会である。

 パトロール隊は2004年頃から活動開始。その後、それまでの活動を見直し、新たな隊員を加え、200611月に3ブロック3隊編成の自主防犯パトロール隊を結成、活動を開始した。老人クラブ、PTAなどで構成され、隊員数は約120名。YTさんによると、高齢者:保護者=7:3。2008年度には警察庁より、地域安全安心ステーション事業(4)のモデル地域の指定を受けた。

 

<目的>

 パトロール活動を通じて地域における防犯意識の高揚と犯罪や事故の未然防止を図り、安全で住みやすいまちづくりに寄与することを目的とする。

 

<隊員>

 町内在住の人。隊員は活動回数に限らず、全員保険に加入している。結成当初は年に数回しか参加できない隊員も保険に加入していたが、近年は保険に入っていない。隊員の割合は、保護者が2〜3割、孫が小学生である高齢者が4割、孫が小学生でない高齢者が3〜4割である。また、高齢者の隊員の80%が老人クラブに入っている。老人クラブの隊員同士で話をすることがあるので、何人かの会員が出ていれば自分も出るというふうにして隊員になる人もいる。

 

<活動内容>

・下校時のパトロール活動

隊員が立つ場所が決まっており、基本的には2人体制で当番表が作成されている。第1ブロックから、第2と第3ブロックに引き継ぐことになる。結成当初は年に数回参加する隊員の名前も当番表に入れていたが、現在は毎月1、2回以上参加する隊員の名前しか入っていない。どの隊員も出ることができず、担当者がいない日は隊長が出ているときもある。パトロール範囲はB町内のみ。下校時間は学校が知らせてくれる。小学1、2、3年生が15時ごろ下校、小学4、5、6年生が16時ごろ下校というパターンが多いので、15時ごろ活動をしたあと、一度家に戻り、16時ごろ再び活動している隊員が多い。下校時間に町内を徒歩や自転車、自動車などでパトロールしている隊員もいる。

YTさんによると、小学校近くのポイントは多くの小学生が通るので張り合いがあるが、最後のポイントになると小学生が2、3人になる。また、最近では学校帰りに習い事に行ったりと、学校を出てまっすぐ家に帰らない児童もいるので、遅くまで少ない人数の、しかも来るかどうかも分からない小学生を待たなければならないということに対して、隊員から苦情が出てきているそうだ。

 

・年末のパトロール、校下のゴミ拾いなど

 年末のパトロールは警察官と一緒に行う。大店舗(スーパーなど)や銀行をパトロールする。年末には夜警も行っている。MHさんによると、夜警に一般隊員が参加することはほとんどないそうだ。

 

・校区の「100人パトロール」への参加

月に1回、毎週第4土曜日の15時半〜1時間程度、校区の希望者でパトロール活動を

行っている。明るい時間帯での活動ではあるが、防犯に関心があることをアピールするこ

とにより犯罪を未然に防ぐことができればと考えている。

 

・一人暮らしの高齢者の家庭訪問

民生委員とともに家庭訪問をしてほしいという依頼が警察からきている。2009年に初めて行われ、2010年にも一度実施した。

 

<活動の留意点>

活動中はユニフォーム、帽子、腕章を着用する。隊員は年間1人100円のボランティア保険に加入する。

 不審者に遭遇した場合は、警察等に連絡する。

 

<活動状況>

活動の中心は高齢者であり、かつ老人クラブ会員である。MHさんによるとB町内会の高齢者のうち3分の1ほどの人が老人クラブ会員になっているそうだ。保護者の隊員は女性が多いが、高齢者の男女比は半々である。一人暮らしの高齢者で隊員になっている人が比較的多い。一方で、75歳以上の高齢者も多く、高齢者にとって冬のパトロール活動は負担が大きいので、冬を越すと「辞めたい」と思う人が多い。また、近年、年に1、2回しか活動に参加できない隊員が加入していないこともあり、ボランティア保険加入者は年々減り続けている。

講習会などへは、隊長が参加している。一般隊員が参加することはない。B校区では、校区のパトロール隊長が輪番制で講習会などに参加しているが、講習会は平日にあり、パトロール隊長のうち3分の1ほどの人がまだ現役世代なので、「声をかけても『わかりました』と言って(講習会に出て)くれる人は少ない」とYTさんは語っている。YTさんは校区のパトロール隊長でもあるので、最終的に出る人がいない場合はYTさんが出ることが多い。講習会の内容を隊員に直接伝える機会はないが、資料をもらってきたときは、隊員に渡すこともある。

定期的に一般隊員が参加する話し合いは行われていない。役員会は月1回行われている。

 年に2度、校区のパトロール隊と学校との打ち合わせが行われているが、そのうち1度は児童と交流することになっている。パトロール隊長が各クラスに行って、児童と一緒に給食を食べながら話をする。この行事にも一般隊員は参加していない。

 

 

第2節 経緯

2003年に、MHさんが孫のために自主的に登下校中に小学生に付き添って歩く活動を始めた。活動を始めてから1週間ほど経ったときに、校区にある公園で子どもが男にケガをさせられる事件が発生した(5)MHさんは子どもの安全を確保するための行動を日常行っていく中で、地域全体として子どもを守るためには組織化が必要だと考えた。そして、共働きの人々が多い中で、活動できるのは家庭にいる年金受給者、すなわち定年退職者だと考え、そのような人々を集めて組織化しようというふうに考えた。しかし、MHさんの考えは、始めはなかなか理解されなかった。MHさんの中学、高校時代の友人も「それは大変なことだ。えらいところへ首つっこんじゃったなぁ」という反応で、MHさんの話は右から左へ流れていく状態だった。MHさんは町内会長、老人クラブ会長、副会長、児童クラブ役員の集まる場で、街として地域の安全、子どもを守るための組織をつくる必要性を説明した。また、活動の中心となる高齢者は、人によって身体の調子が様々であるので、登下校の時に決まった点に立って子どもを見守る人と、地域全体を自転車や徒歩で動きまわる人にグループを分けて、身体の許す範囲で活動できるようにすることを提案した。MHさんは2つのグループがうまくからみあえば、盲点がなくなると考えていた。熱意のあまり、「何でもいいからわしの言うこと聞いてくれよっていう調子になった」こともあったそうだ。

MHさんは隊結成に向けて、通学路の危険区域を調べ、児童の名簿を作成した。すると、児童クラブの人々も危険区域をチェックしたりと、協力関係が構築され始めた。MHさんは「そういう行動起こしていくと協力してくれる人たちはね、いろんな情報を提供してくれますよ。児童クラブのお母さんたちはまた児童クラブとして危険区域をチェックしてくれた。そういうね、連携作業が出来るようになってくるんです。それを作り上げるところまでが大変」と語っている。

隊結成までには1年ほどかかった。隊員募集のために町内会では回覧板をまわした。町内会員同士の口コミでも隊員を確保した。MHさんは老人クラブの会長に、各老人クラブ会員に隊員になってくれるよう話をするのを依頼した。また、MHさんは一軒、一軒訪問し「お願いします」と声かけ活動を行った。初めはすぐに「協力します」という返事はもらえなかったが、話し合いを重ねるうちに協力してくれる人々が増えていった。現在、隊結成時に集まった人々は減ってきている。

 

第3節 活動の効果と問題点

第1項 活動の成果

・隊員と児童との交流がある

隊員が「おかえり」と言うと、「ありがとうございます」「さようなら」と返してくれる児童がいる。また、小学6年生が卒業するときに「6年間見守りありがとうございました」と言って本のしおりをくれたのをYTさんは記憶に残っていると話しており、「平凡な仕事をしていても自分が報われたというか、あたたかい気持ちになるのが(自分にとって)プラスだ」と語っていた。また、MHさんも「子どもたちとね、会話してるとね、どんどんどんどん仲良くなってね、子どもたちのほうから『ただいまー』とかね、『じいちゃん今日はねー』とか『じいちゃんこないだからしばらく見なかったね』とか声かけてくれる。非常にうれしい、これは」と語っている。

 

第2項 問題点

・人数を維持していくこと

 YTさんは隊員数について「少しずつ少なくなってきている」と語っている。実際にボ

ランティア保険加入者も年々減り続けている。

 

・保護者の対応 

高齢者ばかりに頼らず、保護者にも活動に参加してほしいという願望がYTさんにはある。毎年、1年生の保護者に隊員になるよう声かけをしているが、共働きの家庭も多く保護者の隊員の確保には苦戦している。また、子どもの小学校卒業と同時に隊員を辞めていく保護者がいる。YTさんは「子どもの保護者でない人=高齢者の隊員もいるのだから同じ町内の子どもを守るというふうに広い意味で考えてほしい」ということを話しているが、保護者の活動の継続は難しいのが現状である。

また、MHさんは「子どもたちの親は『ありがとう』とも言わない。これも悲しい現実」と語っている。

 

・校区での見守り隊の組織化

校区が広いため、校下全体で見守り隊は組織化されていない。そのため、町内によって活動内容がバラバラである。