第4章 定塚校区地域パトロール隊の実際

第1節 「定塚校区地域パトロール隊」概要

定塚校区は県西部に位置し、商店街や、4つの高等学校を含む文教地区、住宅街を含むエリアである。

200512月4日から活動を開始。隊員が活動しやすいようにする、感謝の集いを企画するなど隊員の活動を裏で支えているのが定塚校区地域パトロール隊連絡会である。老人クラブ、連合自治会、PTAなどで構成され、隊員数は約800名である。

 

<趣旨>

 各校区でパトロール隊が結成されるなど、児童の安全を守るための取り組みが盛んに進められている。このような組織化も重要だが、もっと根本的な取り組みが必要だと考える。それは、地域全体のコミュニケーションである。

 地域住民が、それぞれの生活の延長で、「自然な形」、「無理のない形」、「無理のない姿勢」で子どもたちを見守る。また、隊結成を機会に住民相互の連帯意識をより一層高め、地域内の環境浄化に努める。

 

<隊員>

 校区在住の人。見守り隊活動がしたいという意識があれば誰でも隊員になることができる。「1年に1回でも出る、出たい」という意識がある人に保険とジャンパーをセットで連絡会が用意している。

 

<活動内容>

・登校時と下校時のパトロール活動

活動しているのは、ほとんど同じ人である。学校から下校時刻表をつくってもらい下校

時間がわかるようになったが、活動している人が多いのは登校時である。また、自分の町内を越えて活動に参加している隊員もいる。中には、15時過ぎから1時間ほどの井戸端会議を毎日繰り返している人もいる。

 

・街の環境整備

街灯の電気がきれているなど不備があれば連絡会に報告してもらうよう隊員に頼んでいる。また、不審者がよく出没していた陸橋下のトンネル状の通路に壁画を制作した。JDさんは「きたないところがあると余計に不審者がたまりやすくなる。きれいにきれいにしてやっていけばスキがなくなる」と語っていた。  

 

<活動の留意点>

 隊員は年間1人100円のボランティア保険に加入する。また、犯罪の抑止力にもなるので、パトロール中はジャンパーを着用する。ジャンパーを着ていない人は保険の対象外である。

 不審者に遭遇した場合は、まず警察に通報する。

 

<活動状況>

 活動の中心は高齢者で、かつ老人クラブ会員である。60歳から65歳ぐらいまでの人は少なく、65歳以上の人が多い。中には80歳以上の人もいる。室田さんによると男女比は3:1。児童に付き添って一緒に歩く、通学路の角々に立って児童を待つなどの活動スタイルや時間、立ち位置は決まっていない。

次の1カ月間の下校時刻表が月末になると小学校の事務室に置かれており、隊員はそれを自由にもっていくことができる。中には、15時前に(下校時刻に合わせて)小学校の玄関横で1年生が出てくるのを待ち、学校から自宅が遠い1年生数名と一緒に歩いている隊員もいる。私も一度、一緒に歩かせてもらったが、隊員と小学生がワイワイガヤガヤ話をしながら歩いている様子が見られた。登校時は7時30分から8時ごろまで、あるポイントに立って、小学生に「おはよう」と声をかけている隊員が多い。下校時に比べて、登校時は活動している隊員が圧倒的に多い。室田さんによると設立から5年がたち、現在は結成当時ほどの熱はない状態である。

定塚校区では年に1度、隊員の会合がもたれている。隊員のほか、学校側から校長、教頭などが参加している。活動状況などについて話がなされている。

パトロールの講習会などへは連絡会の会長、副会長が参加しており、一般隊員が参加することはない。講習会の内容を隊員に伝える機会はないが、隊員の会合の時に話をすることがある。また、「当番表作成により、強制的に活動に参加させる仕組みを採用せずに、地域全体でパトロール活動を行う仕組みを整え、継続させている定塚校区は理想だ」と県は考えており、隊設立から活動内容、今後の展開方法を伝える講演会が、隊結成時は年に6回行われていた。現在は年に1回程度である。

行事としては、感謝の集いの「オレンジふれあいコンサート」が年に1回開かれている。

 

 

第2節 経緯

全国各地での不審者騒動を機に、2005年の4月にPTAで見守り活動をすることになった。当時は4050人で毎週木曜日の下校時にパトロール活動を行っていたが、1、2カ月で中止になった。そして、当時、富山県知事の委嘱で青少年育成県民運動推進指導員(2)をしていた室田さんのところに、当時のPTA会長が相談に来た。そのときに「定塚校区の住民全員で見守り活動を行う雰囲気をつくらなければ活動は長続きしない」という話になり、同じような考えをもっていた当時の小学校長と室田さん、PTA会長が中心となって見守り隊設立に向け、動き始めた。

活動の主体になるのは、時間に余裕のある人、退職して自由のある人という想定をして、老人クラブに焦点を当てた。「老人クラブの人たちが賛成してくれて活動の拠点ができれば、あとは広がりができるだろう。だから老人クラブにお願いして、活動を支えるという答えをもらってから他の団体の人々にお願いに行こう」と考え、当時の小学校長とPTA会長、室田さんの3人で老人クラブの会長に話をした。すると正副会長会議で話をするように言われたので、そこで説明をした。その次に、全町内の老人クラブの会長の前で説明をした。老人クラブの人々には「定年退職者が中心だろうから一つの大戦力と考えている」というふうにお願いすると、「当然そんなことはわかっとるから、若い保護者や朝から夕方まで働いている人に協力は求めない。自分たちは自分たちで支援する」という答えが返ってきた。

老人クラブに重点をおいていたので、老人クラブ会員に対して説明する回数は多かったが、老人クラブ以外の団体にも説明を行っている。地域ブロック(3)別の会合や町内会長が集まる場にも当時の小学校長とPTA会長、室田さんの3人で行き、パトロール隊を結成することを説明した。返ってくる言葉は「わかった、わかった。当番制でもないし、皆さんにお話しして、できる人に出てもらう」、「目的としては、井戸端会議をしとればいいんだろう。子どもが行くときにちょっと街出て、ウロウロしとればいいんだろう」というのが多かった。「二言、三言の会合で納得いうかわかったぞ、わかったぞ、いうのが多かった」と室田さんは語っている。

2005年の9月ごろから各団体との話し合いが行われ、3カ月余りでパトロール隊結成となった。

 

 

第3節 活動の成果と問題点

第1項 活動の成果

・活動に参加することにより、元気になった高齢者も多い

室田さんによると、隊員の多くは子どもたちと接することが生活のペースとなり、自分の働く場、行き場所ができたという態度で活動しているそうだ。年に1度の会合でも、「通学時に子どもとふれあえるだけで非常に元気になっている」、「自分ひとりでやっているわけでもないし、みなさんとやってるから心の支えにもなるし、かえって元気になった」、「こういうのに(パトロール活動に)参加するようになってからかえって元気になって、生活リズムできて、非常に調子いい」という声が隊員から上がっている。

室田さんは「日曜日になるとその次の日が待ちどうしくて待ちどうしくていう人がたくさんおられます」と語っている。 

 

・“良い緊張感”が出る

定年後、家にいることにより服装や髪型を気にすることが少なくなるが、外に出ることにより自分の身だしなみを意識するようになる。活動が“心のハリ”につながっていると感じている隊員も少なくない。

 

・地域の人々とパトロール隊員のとの間に“心のやりとり”がある

自分の庭に咲いている花を小学生に渡す、家庭科の時間につくったおかしを隊員に渡すという物のやりとりがある。また、若い主婦からあいさつされたり、警察官から敬礼をうけるようになった隊員もおり、人々とのやりとりが“心の支え”になっている隊員もいる。

 

・街が明るくなった

住民の中にはパトロール活動以外の時間帯にジャンパーを着て行動している人がいる。その様子を見て、隊員でない人の中に、街が明るくなったと感じている人がいる。

 

第2項 問題点

・人数を維持していくこと

室田さんは隊員数を維持していくことに対して「立ち向かっていかんなんねぇ」と語っており、人数維持は今後の課題の一つである。

 

・保護者の対応

隊結成時に、保護者は忙しいのでパトロール活動に参加しなくてもいいが、そのかわりに土日などに行われる町内の行事には積極的に参加してほしいと室田さんは考えていた。「行事に参加することで、住民同士がコミュニケーションをとり“お知り合いの顔”になれば殺伐とした街でなくなるので、それが防犯につながる」と室田さんは考えているが、現状は思うようにはいっていない。隊員の会合でも、保護者に対して「パトロール活動しろとは言わないが、感謝の気持ちをもってほしい」という声が出てきている。