第七章 考察

 

 第一節 問題点や負担

 

この節ではこれまで述べてきた問題点や負担について述べていきたい。

一つめの問題としては、入学・入園前の交渉の問題が挙げられた。その理由としては食物アレルギー対応は、学校や園ごとに違いがある。そのために情報が細分化されて情報の窓口が分からないことが、入学や入園を前にした保護者の不安となっていた。特に、入学前に相談の機会が少ない小学校のほうがその傾向が強いようだった。

二つ目の問題としては、コミュニケーションの難しさが挙げられた。食物アレルギーは個人差の激しい病気である。そのために現場の担当者と話し合いを行う際に、学校側がどのような対応をするかは担当者の食物アレルギーの知識や理解によって左右される。食物アレルギーは日常の生活によって症状が変化するので、保護者はアレルギー児の症状の現状などについて現場の担当者に正しく理解してもらわなければならない。またそれに伴って、現場の担当者に食物アレルギーについて、全くの知識がない場合保護者は日常の細々としたことや基本的な対応などについての説明を行わなければならない。そのような話し合いを行うために、学校や園に何度も足を運んだり、資料を作成しなければならないことは保護者の負担となっている。

三つめの問題としては、入学・入園後の代替食弁当を作ることが挙げられた。これは子どもの精神面での負担を考慮してのことである。集団生活において「周りと一人だけ違う」ということは子どもにとって大きな負担となる。子どもに食物アレルギーについて説明しても、理解されるのは難しい。また、周りから批判的な言葉を言われたり、違うことについて言及されるなど、食物アレルギー児自身が周囲の目を気にするからである。よって、弁当そのものも、なるべく給食で提供されている献立に量や見た目を似せることになる。直接見たことのない献立を作るのであるから、量や色、形など詳細献立表だけではわからないことは、直接給食の担当者に問い合わせて作らなければならない。また、給食で提供されている献立にそって弁当を作る場合、給食費よりもはるかに高額な金額を負担することになる。

これらのことから代替の弁当を持参させるとなると保護者は時間的にも経済的にも健児より多くの負担を負うこととなっている。

 

第二節 対策とその有効性

 

第二節では、第一節で述べた問題点や負担に対して、どのような対策や対応が行われているのかについて述べていきたい。

文部科学省では、情報の窓口がわからない不安を解消し、アレルギー症状の現状について現場の担当者が正しい認識をもつ目的で、「管理指導表」を作成した。これにより、現場の担当者はアレルギー児のアレルギーの現状を把握し、また保護者は児童の学校生活においてある程度目途がつくため、話し合いのきっかけになっているようだ。

しかし、この管理指導表はまだ完全に認知されておらず、認知度が低いのが現状のようである。これは、実際に対応を定める「取り組みプラン」は各学校に任されているからである。そのために、管理指導表の認知度は、各学校のアレルギーの対応や取り組みの熱意に依存する。そのために保護者はやはり学校側に働きかけ、交渉を行わなければならない。

これに対して、ももたろう倶楽部では、ピーチサークルや機関紙などを通じて交渉について多くの保護者に知ってもらう活動をしている。これにより、初めて子どもが入学・入園を迎える際にも「どのように現場の担当者と話し合いを行ったら良いのか」ということが分かるようになっている。経験者の実際に体験した話しを聞くことで、交渉のノウハウやポイントなどの伝授により、入学・入園前の不安の解消につながっている。しかし、交渉が長期間にわたって行われたり、学校や園への説明のための資料作成を行わなければならないことなどは、保護者の負担に繋がっている。

ももたろう倶楽部は金沢市を拠点とした地域密着の情報を共有するサークルである。そのために、給食の対応についても、保護者同士の口コミで情報が手に入りやすい。また、ももたろう倶楽部では、2010年に金沢市に働きかけ、小学校でのアレルギー対応の情報の窓口となるように学校に提出する書類をマニュアル化した。これにより、以前までは、情報がブラックボックスとなっていたのが、どのような対応をしているのか、分かりやすくなった。

また、ももたろう倶楽部では代替弁当の作りのコツについても紹介している。どうすれば給食に似せられるか、給食担当者とのやりとりなどについて記事を載せている。これにより、代替の弁当も給食の見た目に近づけることができる。

 

第三節 提言

 

食物アレルギー児の代替弁当持参の問題の一つとして言えるのは、学校や園がある時期は給食は毎日提供されるものであるので、保護者は弁当作りを休めないことである。保護者が代替の弁当をつくらなければ当然のようにアレルギー児は昼食を食べることができない。そのために、保護者は病や急用などでも、弁当を作り続けなければなければならない。

食物アレルギーでは程度や種類によっては、惣菜などを店で購入することなども困難であることから保護者はまさに「気が抜けない」状態にある。特に出産など、長期の入院生活が必要となる場面において、給食の代替弁当は大きな負担となりえる。

 このことから学校や園側がより積極的に働きかけ、保護者の負担を軽減することが望ましい。設備や人材配置に対応が依存する面があることも事実だが誤食による責任を恐れて、アレルゲンの入っていない食べられる給食までもまったく提供しないなどという学校や園が減ることに期待したい。

 また、今後は代替給食とまではいかなくても、多くの学校や園などで除去食の提供などの対応が必要であると感じた。アレルゲンとなる食べられない食材を抜けば、アレルギー対応食となる。ももたろう倶楽部のインタビュー調査でも、「混ぜご飯じゃなく、白いご飯のままならば食べられるのに、取り分けをしてくれないから全部弁当としてもっていかなければならない」という意見が聞かれた。アレルゲンとなる食材を入れる前の取分けが普及すれば、多くのアレルギー児がみんなと同じ給食を食べることができるようになる。

この「取り分け」ができない理由としては、給食特有の複雑な管理システムなども影響している。

交渉における保護者の負担を軽減するためにも、現場の担当者のアレルギーについての知識と理解も必要である。現場の担当者が正しい知識をもっていないために、保護者は交渉において説明する負担があることは先述したとおりである。食物アレルギーやアトピーなど幼少期にかかりやすい病状について、教員養成課程や研修などで、より詳しく学ぶことが望ましい。特に食物アレルギーは個人によって症状の重篤の差がはげしく、それにより対応も異なってくる。そのことにつき、担当者が先入観で食物アレルギーは恐ろしい病気だと感じ、全ての対応を拒否することがないように、また食物アレルギーを軽視して発症させることがないように、担当者が正しいアレルギーについての知識を得ることで保護者の負担が軽減されるのではないか。

ガイドラインにも正しいアレルギー知識について載せているものの、指導表の普及の現状を考えると、必ずしもすべての教員が目を通しているわけではないだろう。よって、教員養成課程や研修などにおいて、より一律に正しい知識を得るのが良いと考える。

 実際にももたろう倶楽部会員へのインタビューでは、食物アレルギーについての知識をもっている担当者との交渉では、可能な限り正しいアレルギー対応の他に、保護者が気がつかない学校生活での注意点などを先回りして提案してくれるなどという利点を述べていた。このように、学校側から先周りして積極的に提案されることで、保護者の不安は軽減されるようだ。

 また、教員が正しい知識を得ることにより、「みんなとなぜ食物アレルギー児が違うのか」について、周囲の子どもたちに上手く説明することができる。なぜ違うのかについて、子どもたちにそれにより、食物アレルギー児の心理的負担も軽減されるのではないかと思われる。授業や課外実習でも、食物アレルギー児がみんなと同じように行動するにはどうしたらよいのかなど、保護者が気が付きにくい授業内容でも教員が自発的に気が付くことで、食物アレルギー児の疎外感や精神的負担を緩和することにつながる。

 実際に現場での担当者の食物アレルギーに対する正しい知識と理解が保護者の負担を軽減する第一歩である。これらを教員養成課程で得ることにより、保護者の負担を減らし、子どもが心身ともに健全な成長をするための環境を整えることができる。

 しかし、現状では先述したとおり、まだまだ食物アレルギーについての正しい知識と理解を全ての園や学校で関わりをもつことになる関係者が持っているとは言い難い。今後、より一層の食物アレルギーについての知識と理解が広まり、より食物アレルギー児も保護者も安心できる園や学校となることを期待したい。