第六章 入学・入園後の負担

 

 これまでの章では、入園や就学の際に対応が統一されていないこと、またそれにともない保護者の負担について述べてきた。

この章では、具体的に入学後にどのような負担があるのかについて述べていきたい。

 学校や園の給食で食物アレルギー児向けのメニューが提供されない場合、食物アレルギー児は食べられない食品を残すか家庭からの弁当で持参せざるを得ない。では、保護者はその代替食の弁当をつくる場合どのような負担を強いられているのか、この章では明らかにしたい。

 

第一節   保護者の代替食作りに伴う負担

 

 まず、保護者に給食で代替食の弁当を持たせる場合、どのような献立にしているのか尋ねたところ、給食と同じ献立にしていると答えた保護者が多かった。

 

 T:うちの子は見た目がおんなじならいいって、言ってたので。見た目の彩りは似せるようにしました。で、別の子は全然メニュー違ってもいい。あの、お肉なら僕ハンバーグ好きだからハンバーグ入れておいてって。それで(他の子と違っても)オッケーの子もいる。うちの子は全く食べないから。私が作ってももう食べないから。でも、お母さんには持ってきてほしい。見た目が同じのがお皿にあってほしいって言うから、もって行ってた。

 

 その理由としては次の節で述べる子どもの精神的負担がある。

 見た目が同じ代替食を作る場合、保護者はどのような負担を抱えるのだろうか。インタビューでは、以下のような回答がなされた。

 

T:うちもスイーツとか?卵とか小麦食べれないと、行事で出てくるお祝いケーキみたいなのが食べられないから一応聞いて?丸型ですとか三角ですとか聞いて作るんだけれども、持っていってみると学校のやつが思いのほか小さかったりすると、あの・・・

D:分量も、ねぇ・・・

T5グラムとか4グラムとか普通のスーパーでは見かけないような奴がでてくるから、

D:グラムもなんかね。生米のグラムだったりするもんね。

T:うん。そうそうそう。

D:でも、炊いたお米のグラムだと思って持たせると、以外と少なかったりして、その辺も本当に自分で判断して(T:やりながら)本当にやっていかないと、学校側からそういう情報は、こっちが聞いたら答えてくれるけど、実際、本当に自分で思わなければそのままの状態で進んでいくので、本当にそれはやりながらえ?って思うことがたくさんある。うん。

T:ひじきとかグラム換算と実際のメニューとかだと増えるから見た目がものすごく違うんですよ。ひじき2グラムとか書いてあって、あ、ちょっとでいいんだって思って水につけて戻しておくとものすごい量に増えているから、「え、これでいいん?」っていうぐらい増えていて、持たせるとうわぁ見た目全然違うやんとか、うん。よくそういうのあるよね?デミグラスソースとケチャップと両方入っていて、ケチャップっぽい赤い色づけのスープにすればいいのか、デミグラスソースっぽい茶色っぽいスープにすればいいのか分からなくって、何色ですかってきいたり・・・(笑い)あ、これは茶色ですとかって言われて、じゃあわかりました、茶色っぽい感じでとかって・・・(笑い)

 

 この語りからは、全く見た目が分からないものをできるだけ似せて作る苦労が窺える。また、できるだけ似ている代替食の献立を作るためには、自発的に細かいことまで給食の担当者と連絡をとりながら確認しながら作らなければならない。

 ただし、これはTさんの場合であり、見た目が同じなら大丈夫という子もいれば、全然違うメニューでも構わない子どももいるので、それは子どもによって多様だと言える。しかし、学校生活という集団生活で「できる限りみんなと一緒」にしてあげたいというのが保護者の想いのようだ。

 また、この他に次のような語りも得られた。

 

T:うん、そうそう。で、別の人は、検品に、校長先生の検品分や、もうひとり?担任の先生だったっけ?お魚の検品でも、三切れ持ってって、二食検品とか。子どもに一品食べさせるのに、三倍くらい・・・

D:親の負担になってくるし、やっぱり給食費として別に補助が出るわけでもないし、他のひとが給食費払っている以上の負担がやっぱり、家庭にもかかってて、それで全部持っていくことも家庭的にもすごくしんどい状態・・・

T:イチゴ一個もっていくにしろ、一パック買ってこなきゃならないし、八宝菜とかこの時期、え、たけのこないよとか(笑い)

D:今は結構ま、いっかって風になったけど、その時は栄養面を考えて、やっぱり食材おんなじ風にしてあげたいっていう気持ちもあったし。やっぱり買いに走ったりとか。

T:結局ね。やりきれなくて二三年で辞めたりしたけど(笑い)もうお母さん無理とかって(笑い)給食便りのメニューとか見ても、給食じゃそれつかうかもしれんけど、うちそんなのつかわんし、みたいなのばっかり。

 

 ここでは代替食をつくる場合の費用の負担が語られている。やはり、代替食を作る場合の家庭の負担は決して軽くはないようだ。給食と同じ献立というのは家庭で作る時には、給食費以上の経費がかかる。また、手に入りにくい食材を使用している場合などもあり、見た目が同じ献立を作る場合、保護者は多くの負担を強いられている。

 

第二節   子どもたちの精神面での負担とそのケア

 

 前節では、保護者が同じ献立を作る際の負担について述べた。この節では、なぜ同じ献立を作るのかということについて述べていきたい。

 

I:なんで××ちゃん・・・・・・給食にパンの日があって、米粉パンもって行かせているんですけれども、なんでケイちゃんのパンみてみんな笑うのかなぁ?って言われて、「おいしそうに見えるんじゃない?」って。「あ、そっか」みたいな(笑い)で、それを先生に言ったら、「ああすいません、気がつきませんでした」っていわれてまぁ、ちょっとその説明にこの絵本を使ってください、って絵本を置いてきたんだけれども、いたずらでねぇ、そういうのもあるからぁ

B:うん、本当に・・・・・・

I:ちょっと気にするのかもしれない

B:ああでも、そんなに違うけ?

I:なんもちがわん。でも子どもだから「なんでちがうん、ひとりだけー」って。だからさ、言っている本人も、悪気はないからさ。ただ不思議だから、なんで違うんかな、ひとりだけって思ってる。それをちょっと先生が上手に説明してくれたら、いいんだけれど。牛乳嫌いな子って結構多いからさぁ。だからなおさら「なんでー?」ってなるんだろうね。でも、ケンちゃんは好き嫌いで飲まないんじゃないんだよって。飲むとぶつぶつができたりせきが出るからって言ってくれているんだけれども、年少さんだからね。何回言ってもあんまりわかってなかったり・・・・・・ね。

 

 

同じ「パン」を食べていても、ひとりだけ見た目が違うことを指摘されると気にする子もいる。幼児期では指摘した子も悪気があって指摘したのではなく、不思議なので尋ねる。

 園などの先生が上手に食物アレルギーだからと説明できればいいが、幼児期の子どもに「食物アレルギー」という病気を理解してもらうことは難しい。

 また、子どもがある程度成長するに従い、周囲の目も気にするようになってくる。

 

D:やっぱり、魚とかがダメなんで、代わりにお肉系を持たせると、周りのお友達からは「いいなぁ」って言われたりだとか、やっぱり言われた本人的にはしゅんってなったことも、あって。でもまぁ、担任の先生とは、ちょっとやっぱり連絡行き来してたので、先生のほうからちょっと一言。皆に言ってもらって、嫌いだから食べないんじゃないんだよって言うのは言ってもらって。その都度その都度・・・

DN:先生と連携とりながら・・・

D:そうですね。うん。やっぱり、ね。他の子どもからすると、ずるいって思ったりして。やっぱり魚嫌いな子とかも多いし、どうしてもお肉系を持っていったりすると、なんか、ね。うらやましいっていうか、「いいなぁ」みたいな、うん。やっぱりそれが「ずるい」とかってみたいな言葉になると、やっぱり本人的にはショック受けるみたいで・・・うん。その辺がちょっと・・・

 

 食物アレルギー児が食べられないことについて、周りから批判的な言葉で言われると傷つくことがある。

 特に、女児の場合は男児よりも周囲の目を気にし始める時期が早いので、その傾向が強いように見受けられた。

 

 メンタル面でどうフォローすれば良いか…

娘は小2です。クラスで一人だけアレルギーです。自分だけお弁当の日があったり周囲の目も気にしています。(石川 金沢 8歳)

 

 

(機関誌「ももたろう」2010年夏号 『学校給食を一年間ふりかえって』)

筆者:入学して一年になる娘(卵・乳アレルギー)の保護者 食べられないものが出た日はお弁当を持参している

(前略)そしてクラスでは娘の病気を先生が説明してくださり、みんなわかったようなようなわからないような・・・

 悪く言われることはないようですが、みんな見に来るようでそれがとても嫌だったようです。2年生になってすぐ「学校に行きたくない」と泣いていました。が、学校の先生もみんなにまたお話してくれたり、小児科に勤務する看護師さんのカウンセリングを受け強く立ち直り、今ではもう嫌な思いもしないようで元気に登校しています。

 

F:男の子はねぇ、いいような感じがする。だって、△△さんとこも○〇さんところも男の子ね。で女の子はやっぱりだめなんじゃないかなって気がする。もうちょっと友達とかを意識する年齢とかになったりしたら、絶対周りの目を気にするから持って行かないね。

I:あの、持って行かないっていうのは?

F:あの、お弁当

I:あぁ〜

F:代替のお弁当。だからずるいとか、何々ちゃんだけ違うとか、そういう他人の目を気にする・・・女の子って意識するから、

 

 これらのことからわかるのは、学校や園での集団生活において、食物アレルギー児が「みんなと同じものが食べられない」という状況は、集団生活にある子どもにとって大きなストレスである。そのために、保護者は見た目だけでも給食と同じ献立を代替の弁当として作るのである。

 

 以前に述べたTの語り(P18)にも周囲の給食と持参した弁当の見た目が同じならば、それで子どもは満足するとある。このことは、子どもの性格によっても異なると考えられるが、子どもにとっても「周りと同じ」であることが安心でき、ストレスの緩和に繋がる。

 また、学校や園において、担当者による子どもへの説明があれば、周囲の理解も得やすく、その結果としてストレスも緩和されやすい。周囲への説明で大切なことは、現場の教職員との連携である。

 しかし、ここで留意したいのはすべての親が、わが子の食物アレルギーについて知ってもらいたいと思っているわけではないことである。そのような場合もあるので、一概に教員による周囲への説明が良いとされているわけではないことも述べておく。

このような子どもの成長に伴うメンタル面でのケアやフォローも保護者が集団生活を営む上で気にかけていることの一つであった。

 これらのことから、保護者は入園・入学してからは子どもの成長に伴い、集団生活を営むにあたって食物アレルギーを理由とするいじめやからかいがないように配慮していることが明らかとなった。また、いじめやからかいなどとは言えない「周囲の目」を気にし始めることにより生じるストレスについて、子どもと共に悩んでいることが窺えた。

 周囲の目を気にするのは、「周囲と同じ」ということが集団生活を送る子どもにとって非常に大切なことだからである。一人だけ違うことは子どもにとって非常に大きなストレスとなる。そのために、保護者は経済的負担などが増えることになろうとも、保護者は給食と同じ献立に沿った弁当を作るのである。