第二章 先行研究

 

第一節 食物アレルギーとは

 

 食物アレルギーとは、『アレルギー疾患に対する調査研究報告書』(アレルギー疾患に対する調査研究会2005)によれば「食物を摂取した後に免疫(外的から体を守る仕組みのひとつ)を介してじんましんや呼吸困難など体にとって不利益な症状が起こること」が食物アレルギーである。食物に含まれている化学物質(例えば、野菜に含まれるヒスタミン等)による作用や乳糖を体質的に分解できずに下痢を起こす乳糖不耐症は食物アレルギーには含めないとされている。また、乳児期(特に授乳期)のアトピー性皮膚炎に食物が原因として関与することは多いが、幼児、学童と成長するに従い、食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因として関与する例は少なくなっていく。食物アレルギーの中でも、乳児期にアトピー性皮膚炎を伴って発症し、年齢とともに治っていくタイプ(食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎)の原因として、卵、牛乳、小麦、大豆が多く認められ、小学校入学までに約8割が症状を見なくなる。

 幼児期以降、成人にかけて新たに発症するタイプでは、主に即時型症状を呈し、原因としてはソバ、ピーナッツ、魚類、甲殻類、果物等が多く、治っていくことは乳児期発症例に比べて少ないと考えられている。

 食物アレルギーの症状は、皮膚・粘膜症状(じんましん、かゆみ、むくみ等)、呼吸器症状(くしゃみ、鼻水、喘鳴、呼吸困難等)、消化器症状(腹痛、下痢、嘔吐等)に分けられ、複数の臓器に症状が出現したものをアナフィラキシーという。

また、食物アレルギーでは、原因食物の除去が対応の基本であり、そのため家庭や集団生活での誤飲や誤食を防ぐ食事面の配慮が必要となる。よって集団生活において、アレルギー児の給食では、誤食を防ぐため誤配・アレルゲンの混入防止対策が第一である。

 

第二節 食物アレルギー児への給食対応の現状

 

日本では幼稚園・保育園や小学校で、多くの場合給食を提供している。食物アレルギー児にはどのような対応がなされているかこの節で述べていく。

 

第一項 給食提供の類型

 

今井(2005)によれば、現在の給食を提供している全国の学校調理場は、大きく自校(自園)調理場と共同調理場に二部される。自校(自園)調理場とは一つの学校や園などの中に調理場がある形態である。一方の共同調理場とは、複数の園や小学校などに対して、給食を提供する学校施設外にある調理施設のことを示す。

また、給食の具体的な対応策として、(1)アレルギー食の提供(2)献立による対応(3)弁当持参による対応がある。

1)アレルギー食の提供では大きく二分される。一つは、除去食対応である。これは、アレルゲンとなるものを抜いた食事であり、事故の予防に繋がるが、それに代わる食物を組み込まないアレルギー食である。もうひとつは代替食対応である。代替食とは、アレルゲンとなる食物を除き、それに代わる食べ物を組み込むアレルギー食のことである。

2)の献立による対応とは、給食の詳細な献立を事前に家庭に配布し、保護者の支持または本人が注意して給食を食べる対策方法である。

3)の弁当持参による対応とは、アレルゲンとなる食材が出る場合に家から代わりの食事を持参することである。これは食べられないものが出た時だけ持ってくる場合や、給食を全て持参する場合がある。

 

第二項 小学校の場合

 

『アレルギー疾患に対する調査研究報告書』(アレルギー疾患に対する調査研究報告会2005)によれば、学校給食における食物アレルギー対応について、完全給食を実施している学校だけに限定してみてみると、「学校給食について、医師の診断等に基づき配慮している」と回答した学校は、小学校では841%であった。

 さらに、学校給食におけるアレルギーへの対応としてどのような取り組みを実施しているかについて、「献立表に使用食品を表示」、「除去食対応」、「代替食・特別食対応」、「弁当持参」の選択肢から該当するもの全てに回答する方法での調査を行った。

その結果として、「献立表に使用食品等を表示」と回答した小学校は、671%(現在必要ないために行っていない09%)「除去食対応」と回答した学校は、581%(現在必要ないために行っていない27%)、「代替食・特別食対応」と回答した学校は、208%(現在必要ないために行っていない55%)、「弁当持参」と回答した学校は、245%(現在必要ないために行っていない65%)であった。なお、これらの数値は、完全給食を行っており、食物アレルギーの児童生徒が在籍している学校を分母としている。

また、「平成20年度学校給食実施状況等調査」(文部科学省2011)によると、公立の小中学校においては、単独調理場方式434%、共同調理場方式548%であった。

 

第三項 幼稚園・保育園での対応

 

高木(2007)の研究によると、幼稚園・保育園ではアレルゲン食品を調理段階から使用しない厳格な除去対応給食を実施している園が550%、代替品として同程度の栄養価の食品を提供する給食が実施されていた園は164%、給食で提供すべき栄養価のアレルギー児専用の給食実施園は76%であった。

食物アレルギー児の給食は、子どのの成長のための栄養素などを考え、アレルゲンとなる食材を抜き、その分の栄養素を補える代替食の提供が望ましいとされている。しかし、現場では予算や人員、設備の面で対応が難しい。共同調理場方式のために、その子に応じた対応が難しい、融通が効かない、調理数が多いことや、小規模園であること、学校栄養職員が兼任となり相談するのが難しいことなどから、食物アレルギー児向けのメニューの実施が困難な現場も少なからずあるようだ。

また、アレルギー児の「受け入れ」と「受け入れたくない理由」についてアレルギー対応給食を前提として給食担当者にアンケート調査を行ったところ、「受け入れたくない理由」としては、「混入、誤配などの事故が心配」と回答したのが最も多く、「アレルギー対応献立不慣れのため」が「仕事量が増え、現在の人員では無理」、「調理技術に自信がない(時間内に調理ができないなど)」なども上位になっており、除去食品を補うための献立作成に不安が見られたとしている。

 

第三節 保護者について

 

 この節では、保護者の日常について述べていく。

立松ら(2008)によれば、アレルギー外来に通院している食物アレルギー児の保護者にむけて育児に関する問題を明らかにするために、生後1か月〜6歳までの就学前の子どもをもつ保護者を対象としてアンケート調査行った。それによると、アレルギー疾患をもつ子どもの療養実態についてでは、アレルギーをもつ子供の日常ケアのほとんどを母親が行い、治療方針やケア方針など医師や看護師との相談も母親が主導で決めているのが実情であった。

アレルギー患児をもつ子供やその家族の多くは、日常生活調整を行いながら生活を送っている。その理由は、アレルギー疾患は基本的な日常生活に付随する事柄が原因で、悪化や改善をするからである。したがって、生活調整はアレルギー疾患をもつ児童にとって重要といえる。そのために保護者は、日常の生活にも多くの問題意識を持って育児に取り組んでいるといえる。

 立松ら(2008)の調査は生後1か月〜6歳までの就学前の子どもをもつ保護者を対象として調査を行っており、また、高木(2007)も幼稚園、保育園を対象として調査を行っている。その理由としては、食物アレルギーは乳幼児期に発症のピークがあることが挙げられる。今井らの「食物アレルギーの発症・重病化予防に関する研究」によると、食物アレルギー発症は0歳が最も多く、以降加齢に伴い漸減しているとある。そのために、乳幼児を対象とした研究が多いものと推察する。

 よって本研究では、小学生の保護者にも対象を広げて論述していきたい。