第八章 まとめと展望

人間対動物の関係には常々問題が残るものがある。いくら飼い主に「飼い主としての責任」を促しても保健所や富山県動物管理センターに持ち込まれる動物は後を絶たない。そこで行われている殺処分は非人間的なものとして非難を浴び、いかに動物の死への恐怖や苦痛を無くすかが多く問われているが、処分する人間側の精神的苦痛に充分配慮されていないことを我々は見逃してしまう傾向にあった。

殺処分の課題として残った問題点を解決するには「殺処分される動物」を減らすことが根本的に必要になってくる。そこで避妊去勢手術の浸透や譲渡の推進が大きな要となってくる。だが、避妊去勢手術においては家族同然の「『うちの子』にそんな可哀そうなこと出来ない」と言うようにそれ自体に嫌悪を感じたり、手術を行っていない外猫による自然繁殖のスピードに追い付かなかったり、譲渡においても譲渡に出すまでの保護者個人に限界が生じたりと、過去に比べて動物における現状は良くなる傾向にありつつも問題は依然と残りつつあった。

だが、これらに対する取り組みは着実に成果も見せている。行政と民間の愛護団体が各々で出来る取り組みを行うことで、一見個々の取り組みのように見えて、実はそれぞれがそれぞれの不足部分をうまくカバーしているように思える。例えば一般的に譲渡が成立しにくい成犬を行政は厳しい選定としつけによって多くの成犬を譲渡に出している。また、北日本動物福祉協会は個人で行うと高い避妊去勢の手術代をキャンペーンによって格安で請け負っている。このように意識的な意図はなくともお互いがカバーをし合っている節は感じられ、その結果は殺処分数の減少という目に見える結果を伴っているのだ。未だ殺処分数が多いとしても昔に比べて野良犬や野良猫の数は減っており、それは殺処分数の問題解決の向上に向けた取り組みを次々と行っている成果といえる。また、それぞれの団体が出す条件もまた譲渡を成功に導いた一つになっていると考えられる。厳しい条件は飼い主としての責任を改めて自覚させ、個人同士の動物の受け渡しと異なりしっかりと避妊去勢を促すことで余計な自然繁殖を食い止めに繋がっているのだろう。さらに地域猫活動もまた動物問題に対する限界を打破し更なる向上に向けた策である。地域猫活動はこれまであまり交わることのなかった行政と民間、さらには地域住民との連携を経た取り組みであり、現在課題として残っている部分の補いを果たしていると言える。このように現状に対して残る課題をいかに無くしさらなる向上に向けて活動を進めていくかについて、富山県の譲渡の取り組みは発展を見せており、民間団体が積極的に行政と協力を通じていくことで今後さらなる期待が望まれる。

香山(2008)は動物愛護団体の取り組みに対して行き過ぎた行動を示しているが、実際に動物愛護団体は自分たちの行うべき役割を冷静に判断し介入すべきでない部分をしっかりと判断し、自身たちの役割で踏みとどまるようにしている。例;うぃずあにまるず。野良猫問題のような地域の問題は本来地域間の話合いで住民によって解決する事が重要であり、今後円滑な関係を築くためにも深入りはしない様にしていると思われる。その中で橋渡し役、アドバイス役として役割をしっかりと果たしているのだ。譲渡会や地域猫活動などの取り組みによって問題解決に至るためには継続が重要であり、そのためには話し合いの場を設けることは必要不可欠である。しかし一個人が一人で取り組みを行おうとするには限界があり、反対派の住民といざこざも起きてしまう。そんな諍いを最小限に留めて両方の意見を聞けるような場を提供する仲介役も団体側は果たしているのではないだろうか。

また、譲渡の「お作法」やルールにおいても譲渡ボランティアの場合だけに限らず、貰い手側は困惑を見せずに理解を示している。譲渡会で条件とされる事や必要書類記入、アンケートにおいてもそれらは動物を飼う事に対して当然のことだと考え、内容に関しても尤もなことと感じているようである。さらに動物譲渡に従事する人は貰い手側にとって見ればある種のペットの相談相手としても確立している。動物に関する正確な知識に精通していたり、動物の習性を良く理解しているなど「お見合い」中やアフターフォローにおける相談は貰い手側にも動物の性格や習性を知ってもらうため、今後家族としてペットと上手く付き合っていくため、さらに再び殺されゆく可能性のある命を生みださないためにもこれらの「お作法」は欠いてはならない部分なのだろう。

また、地域猫活動からも話し合いなど愛護派と反対派の話し合いを促し、住民理解を得る場をしっかりと設けている。実践側は地域猫活動を取り組むことで猫のフンの始末をすると共に町の掃除にも関わるなど地域環境整備にも貢献しており、取り組みの効果によって住民同士の諍いを解消した上で両者の関係を円満にし、結果団体側は身を引いて見守る事が出来るのだ。これらの事からも団体側と市民との間には取り上げるほどの大きなズレが生じることなく、それぞれが理解を示しながら譲渡という取り組みに臨んでいるのだ。

譲渡とは単純な受け渡しではなく、これまで述べてきたようにそれぞれに厳しい条件もあり、マッチングがうまく行き殺処分を免れるのはほんの一握りである。しかし、先の見えない努力ではない。個人間での譲渡が普及し始めて、尚、近年では全国的に地域での譲渡が行われ始め、多くの地域で成功を収めている。そして現在は市からの助成金の援助も開始され地域独自の閉じられた取り組みだけでなく、大きな範囲での課題解決に向けた協力が取られ、動物譲渡は市、県、国単位で必要となっていく取り組みとして認められ始めているのだ。

 

最後に、この調査に協力していただいた北日本動物福祉協会ならびに富山県動物管理センターの皆さん、お忙しい中インタビューに快く応じてくださったインタビューイーの皆さんに、心より感謝いたします。