第七章 地域猫活動――地域が譲渡主――

 譲渡に関して引き取り手への橋渡し役を請け負う事になる保護者は個人が担うには負担が大きい。しかし、もしその役割を地域で担う事が出来、動物の世話を自然と地域が行えるようになっていけたならば往来の個人による橋渡しよりも負担が少ない可能性がある。

 では、そもそも「地域で飼う」とはどういった活動を示しているのかを見ていく。

 

第一節 地域で飼うこと

飼い主がいない動物の放浪は安全面や衛生面から問題視される事が多い。特に餌をこっそりと与え餌場を作ってしまった場合、そこは住み着き場となり、餌を得た生命力の強い野良は自然繁殖を繰り返していく。餌をやっていた張本人は住民から疎まれ非難を受けることもある。そのため飼い主のいない元ペットあるいは野良と住民が共生する地域作りの理解は難しいのだ。特に繁殖力が強く野良の多い猫は、問題解決が重要とされている。そこで近年、猫の迷惑問題を解決に導く有効的な手段が広まりを見せつつある。それが「地域猫活動」である。地域猫活動とは住民が役割分担を担い、野良猫が住み着いている町や村の住民みんなで猫を飼っていこうとする取り組みである。

地域猫活動は大よそ1999年頃に全国的に取り組みが開始され、富山県でも2001年から船入町や大門町で実施、その後他の地域にも広がりを見せ、取り組みは成功を見せている。事の発端は、野良猫の排除派と保護派の地域分裂によるものからだった。北日本動物福祉協会に相談が持ち込まれ「地域の人間関係が崩れていく」との判断から取り組みが決定し、保護派の実践者と地域住民の代表者、富山県、役場、保健所との話し合いの場が設けられた。その結果、地域住民が懸念している野良猫公認による捨て猫の誘発や餌の残骸や糞尿による地域環境の被害等に対処するためにも、全匹の猫に避妊去勢手術を施し決まった時間に決まった場所で決まった人が餌をやるという役割が決定された。また、猫の餌箱兼寝床ボックスを目立たない場所に置くことも検討に、半年後には表で野良猫を見かけることの減少に繋がったという。

活動方法としては餌を与えている人から始める場合とトラブルが発生している地域から始める場合の二つが考えられる。前者は活動主旨や情報を周辺地域に提供し理解者を得た後、カンパやバザーで手術費用を捻出し実践する。そして世話ができる範囲、頭数を明確にし住民の理解を得る方法である。一方、後者は野良猫問題の解決に関して共通意識を持ち現状を把握する。話し合いの場を設け解決のためのルールや役を利を決めた後に適正な飼育管理活動を実施するというものだ。これら二つの方法は、入り方が違えど住民の理解を求めることには一致している。動物の野良に関する問題は今ではもはや社会全体で考え解決していかなければならない問題になっているのだ。一昔前までは野良犬や野良猫はそこらじゅうに当たり前にいたという。そのため行政からの野良対策にかける支援は活発ではなかった。地域猫活動においてポイントになってくることは住民の理解もそうなのだが、避妊去勢手術の費用をどう捻出するかである。手術には1匹約一万五千円の費用を要する。

手術費用は個人で飼っていたとしても数が増えるとなると大きく負担となってくるポイントと言える。野良の場合その数は2030に上る場合もあり、とても個人でどうにかなる話ではない。これまでは町内会や飲食店組合からの助成金と住民の募金やバザーによる売り上げでカバーされていた。しかし2004年から富山市では野良猫の不妊手術に対し助成金制度が発足され、市と富山市獣医師会からそれぞれ1頭当たり5000円ずつの補助金が出されることが決定し、これによって町内会の負担が5000円に軽減された。このことは地域猫活動のさらなる普及が期待されることに繋がるだろう。また、地域猫活動は行う事によって多くの成果も得ることができると考えられる。

 

 第二節 新しい譲渡の形

 地域猫活動の利点は猫側にとっても人間側にとっても良い影響を及ぼしている。まず、猫側だが、餌場に困らず地域で飼うということで排除が起こらず安全に安心して住むことができる。地域全体で野良猫を認めている事になるため捕獲され、保健所へ連れて行かれる心配もなく速やかな殺処分の減少に繋がっていくことも意味している。また、人間側にとってみれば避妊去勢を徹底することで、単純に子猫が増えないばかりか雄独特の発情期の鳴き声による騒音が解消され、餌やトイレの場所が特定されることで町の美化にも貢献することとなる。さらに、人間と動物間の良い共存関係が築けるだけでなく、野良猫問題に対する人間対人間の悪質関係の解消さらには猫が新しい交流の契機になりえる可能性が期待されている。また、子どもに対しても命の尊さや弱者への労わりの心を育む事への大きな機会となるだろう。このように新しい譲渡の形を取ることで、地域の問題をそのままにしておかずに、話し合いの場を設けることは必要不可欠なことであり、それぞれに良い結果をもたらしているのだ。そのため、地域猫活動にように、地域で問題解決に努める活動は、多くの地域で取り組まれることが望まれる。