第六章 新たな道−譲渡−

 殺処分と避妊去勢は実際に動物の数を減らすための手段として確立している。しかし、いずれの方法もこれまで述べたように問題や課題として残る部分が多く存在する。動物の死によって社会の秩序を保つ必要があるのならば、今生きている元ペットや野良犬・野良猫に生存の希望は見えなくなってしまう。避妊去勢の浸透によって処分数が減っていたとしても、今現在放浪している動物に対しては暗に殺すのではなく「新たな生存の機会」を見出さなくてはならない。そこで第三の道として譲渡が存在する。本章ではその譲渡について詳細を検討していく。

 

第一節      動物が譲渡会にやって来る

 動物が譲渡に出されるまでには様々な過程が存在する。人間の都合によるのもや繁殖によって知らぬ間に増えてしまいどうしようもなくなってしまったのもいる。実際に、飼い主がいない又はいなくなった動物たちがどのような環境にさいまなれ、どのようにして生きる機会を再び得ることになるのかその過程を本節では述べていく。

 

 第一項 身勝手な言い分

 

県富山県動物管理センターの前に檻に入ったコギーとダックスフンドの成犬が置き去りにされている。ある日の朝動物愛護団体に突然かかってきた電話の内容である。日曜日の早朝新聞配達の職員が通りかかったところ発見したのだ。その後、この2匹は電話をかけてくれた新聞配達職員が一時保護し譲渡会に出され、無事新しい飼い主とめぐり合うこととなった。

 

ペットブームが盛り上がり多くの動物が売買される中で同時に、ブームが過ぎた後にはその時その時はやりの犬たちが収容される。第二章第二節で述べたように、ペットブームに乗ってペットを飼ったが飽きてしまった、想像以上に世話が大変で飼えきれないとの無責任な理由から、保健所の前にこっそりとペットを放置する、といったことが度々起こっているのだ。中には家に住み着いた野良猫に避妊去勢をしないまま餌をやり続け、510匹とその数が増え続け、終いには、周囲から「猫屋敷」と言われるほど自分一人では手に負えなくなってしまったと、いうケースも聞かれる。北日本福祉協会の会員Cさんの話として上がったケースが以下である。

 

猫飼っておられた人が、亡くなられて、今までの飼い方もひどくて近所の人も変わっていた人やからと近所との接触もなくて。兄弟の人がその家を見て猫こんなに飼っているからドタバタになるんやって、次の引っ越し先は動物飼えない所だから、男の兄弟の人がいきなり来て、猫はそのままほったらかして行った。

 

動物を飼うにはそれなりのルールとマナーが必要になり、周囲との良い人間関係を築いていくことも重要となってくる。今回の場合では猫たちは避妊去勢の手術を行っていないため、放っておくと再び自然繁殖が起き、更にその数が拡大することが懸念された。自然繁殖が起きた猫に対して実際に餌をやっている張本人、飼い主に向ける周囲の目は厳しい。野良猫をこれ以上増やしたくないと思う住民側と動物が好きでほっておけないと思う本人側の問題は、非常に複雑で衝突を招く場合もある。また、第二章第三節で述べたように一度は家族として重宝していたにも関わらず人間の都合でペットを放置する場合も多い。飼い主のいない動物が出てくるのは「誰か優しい人が拾ってくれるだろう」という浅はかな考えの存在や不十分な飼い方に問題がある。こういった経緯を経てほんの一部の犬や猫が心優しい人々の手によって再び生存の機会を与えられているのだ。飼う事を放棄した個人の身勝手な行為は、ペットを野良に導き、結果、自然繁殖による動物の実数の増加を招くこととなる。

こういった状況下で自分ではどうすることもできなくなり行政や民間の団体に助けを求めてくる場合、住民の通報や噂により団体側自らが保護しに行く場合など、譲渡会に出てくる動物一匹一匹に個別のストーリーが存在している。しかし現在でも多くの動物は殺処分され、再び新しい生存のチャンスを得るのはほんの一握りの動物に過ぎず、一部の幸運な動物たちだけが再び生きる機会を得るのである。

 

 第二項 差し伸べられた救いの手

200967日、快晴で気温も上がり汗ばむ時期に北日本動物福祉協会では子猫のお見合い(譲渡会)が行われていた。富山市の大通りを曲がり、さらに奥に進んだところに北日本動物福祉協会の本部は位置する。入り口に向かって斜め前には小さな公園、周囲は民家と静かで非常に落ち着いた雰囲気を醸し出している。1235分に北日本動物福祉協会に到着、会員の方に挨拶を済まし譲渡会の様子を観察した。1243分、サッカーのユニホーム姿の小学校1年生くらいの男の子と黒髪を肩に揃えた6年生くらいの女の子が両親と共にグレーの子猫を1匹タオルに抱いてやって来た。子猫の推定年齢は2カ月。4月に野良猫が車庫で4匹の子猫を出産してしまい、そのうちの1匹だと言う。始めのうちは放っておいたのだが、そのうちカラスに突かれ始め、家族は貰い手探しに乗り出した。2匹は自分たちで貰い手を見つけることが出来たのだが2匹残ってしまい、1匹を自分たちが育てること決めた。しかし、もう1匹飼うことは難しかったため、この日の譲渡会に参加を申し込んだのだ。家族は子猫を会員に預けケージに入れると、部屋の隅で座イスに座りながら譲渡会の様子を見守った。13時、小学中学年くらいの女の子2人と30代の若い母親が部屋に入ってきた。女の子たちはロングヘアを結い薄手の青いパーカー、ショートヘアで赤い七分丈のシャツと涼しげな格好で「男の子がいい」と元気よく話している。そして、そのグレーの子猫に興味を持ち、触ってみたいとおねだりする。会員の女性にケージから出した子猫を渡され、少女は愛おしそうに子猫を抱いている一方で、子猫を持ち込んだ母親は目を潤ませながら少女の母親に子猫を連れてきた経緯を話していた。しばらくして少女、母親共にその子猫を引き取ることを決めた。子猫を連れてきた母親は、嬉しさからか安堵からか、目元をハンカチで押え、涙を流しているようにも見えた。

今回の家族のように野良猫が車庫に住み着いて子供を産んだという話はよく聞かれる。猫は一度の出産で6匹前後の子供を産むため、それを一家族で全て面倒みることは困難であり、新しい貰い手を見つける必要が出てくる。幸いにも6月に譲渡会に出された子猫は車庫の持ち主が必死に貰い手を探し、無事引き取り先が決まった。今回は一度目の譲渡会で引き取り手が見つかったが、もし譲渡会で引き取り手が見つからなかった場合、持ち込み側は子猫を持って帰り、次の譲渡会の機会に託さなければならない。富山県動物管理センターで毎週木曜日に行われている譲渡会にも、引き取り手が見つからずとも諦めずに毎週やって来る人もいるのだ。自分たちで面倒を見ることができないからといって、見て見ぬふりや放棄をするのではなくどうにか動物を救おうと努力する姿が見られる。動物が譲渡に出される経緯には、人間が見放すこともあれば、救いを伸ばす手もあるという事だ。譲渡会に動物を連れてくる人たちはまさに動物の「生」を諦めてはいない。同時に譲渡会に来る人も新しくペットを迎えるために新しい出会いに期待しやって来る。

 

 第三項 同情と教育的期待――参加者たちの背景にあるもの――

譲渡会に参加する人達の話を聞いていくと過去にペットを飼っていた人がほとんどであった。そして話を聞いた15組中過去にペットを飼っていたという14組全てがペットを亡くしているか、あるいは実家から離れるなど住環境の変化により新たにペットを飼おうとしている人達であった(1組は初めてペットを飼おうとしている家族である)。一度ペットを亡くしたら、再度ペットを飼うことを拒む人もいるが、死ぬ時見たらしばらくはって思うんだけど、3か月もしたら寂しくなる(70代女性、動物愛護フェスティバル)。と語るように時間が経つと悲しさよりも寂しい気持ちが上回り新しいペットを迎え入れる決意が生まれるようである。また、わんこは50年間家に欠かしたことない(60代女性、木曜会)。飼ってたの17年ほど。もう猫欠けたことないの(70代女性、動物愛護フェスティバル)。とあるように長年に渡ってペットを飼っており、いることが当たり前になっている場合、死(あるいはその他の理由)によってペットを喪失した時、悲しみを乗り越えながらも再びペットを迎え入れることが家族の中で尤もな行為になっているのではないだろうか。

また、13組は全て過去に飼っていたペットは野良や知人からの譲り受けなどによるものという話が聞けた。更にそれは一番初めに飼ったペットにも当てはまることであり、一番最初が野良やったんで、今までは絶対野良がウロウロしてたんでそれを連れてきた(20代女性、木曜会)、以前飼っていた犬5匹は全て譲渡犬か捨て犬だった(60代女性、木曜会)など過去の経験がきっかけで譲渡会に来ることは至って自然の流れであると考えられる。

そのような考えの背景に存在するのは殺処分に対する同情心や教育面に関しての期待といった意識である。助けてあげたい(60代女性、木曜会)、どうせ飼うんだったらこういうとこの子貰った方がいいかなって(30代男性、木曜会)。このような感情の裏には残ったら殺処分という事実を知っていることが大きいようだ。彼らは実際に自分たちもペット飼っているため、少なからず殺処分される動物に対して同情の気持ちを抱いている。譲渡会を訪れた理由として保健所とか殺処分とかって意識あったもんやから(50代女性、動物愛護フェスティバル)、可哀そうだなって思います(60代女性、動物愛護フェスティバル)と言うように殺処分されるくらいなら、一匹でも助けてあげられるなら助けたいと言う意識があると思われる。こられの感情はいずれも「動物を助けたい」という救済の意識であり、一つの動物愛護の考えになるのではないだろうか。

また、譲渡会に参加する人たちは、殺処分に対する同情の意識を感じると共に教育面を意識して譲渡会に来るという傾向があることも分かった。ペットを飼うことで得れる期待として、山田(2004)は精神的安定や家族との談話の機会を増やし、家族の絆を深めるのに一役買っているとした。しかし、教育面においてその効果が発揮されるのは飼ってからだけではない。子供の頃猫を拾って、子供達にもいいなって(30代男性、木曜会)、ペットショップでもいいんですけど、子供達にもこういう場所(富山県動物管理センター)があって、こういう子達(処分される動物)がいるってことをわかるのにも良いかなって(30代女性、動物愛護フェスティバル)と語るように親は子供に動物の悲しい現実があることを知ってもらいたいとも望んでいるのではないか。そうすることによって子供の動物に対する意識に何らかの変化が起きたりと、心の成長が達せられる。また、子供の頃の経験は大人になっても抵抗を抱かず受け入れられる場合が多い。幼い頃から捨て犬・捨て猫と触れ合わせておいて、譲渡会へ来させることで将来的に、自分の子供にも同様に行き場を失った動物を助けられる人間になることを期待しているのかもしれない。このような親の働きが後々には、上述したような殺処分に対する意識を持った大人を増やすきっかけになるのだろう。このような親が子に伝える働きは繰り返される可能性が大いにある。そのため譲渡会に「意識」を持って参加している人は今後譲渡会を続けていく上で大変重要な役割を得ていると考えられる

 

第二節      条件の存在

動物を譲渡に出すにはただ単純に引き取り希望者に動物を渡すだけでは済まない。引き取った後、その動物がペットとして幸せに生きていくことができるか、新たな飼い主に、育て手としての責任と自覚を求めることとなる。そのためにも引き取り側には厳しくも当然とも言える条件を課す。その条件をクリアし、約束を守ると契った人がはじめて新たな飼い主として認められる。言うならば、条件を設けないと無責任な飼い主を新たに生み出すきっかけを作る手助けを担ってしまうと言っても過言ではない。

また、引き取り手側だけでなく持ち込まれる動物や持ち込み側にも一定の条件は存在する。そのため三者の条件がクリアして初めて譲渡は成り立つ。広く自由に見える譲渡という取り組みは実際には狭き門なのである。その三者の条件を繋ぐ機関として団体側が姿を見せる。第一項、第二項では各団体の条件を述べていく。

 

第一項 北日本動物福祉協会

 北日本動物福祉協会は里親会を開く際には読売新聞、北日本新聞、富山情報などのペット欄に「子猫をもらってください」との書き込みを行う。その際、猫の色や北日本動物福祉協会の電話番号などを記載して電話をかけてもらうようになっているのだが、里親会開催の日時は記載しないことにしている。もし記載してしまうと事前の申し込みをせずに飛び入りで来てしまう人がいるからだ。当日人が集まりすぎると人手も不足し、重要な条件を問うことに支障をきたしてしまい、正確な判断が危ぶまれる可能性が出てくる、そのためある程度の人数の把握は、譲渡会をスムーズに行うためにも重要なものとなってくる。また、譲渡をする際に、引取り側が条件を満たしていないと絶対に譲渡をしないと厳しく徹底している。その条件とは、避妊手術を受けさせること、室内飼いをすること、迷子札(7)の購入の3点である。この3点を絶対条件とし、その他にも新婚・同棲カップル、高齢者、家に小さい子供がいる、男性の一人暮らし、といった場合は断ることになっている。こういった譲渡条件が徹底されている出来事が観察中にあった。友達に聞いて譲渡会が行われるのを知ったカップルがやって来たのだ。しかし、事前の連絡がなかったことと、まだ20代前半で同棲中であることから、「いつ何時別れるか分からない、そのため、ちゃんと猫守って生活できるか分からない」(北日本動物福祉協会、Aさん)という不安要素から断りを入れていた。また、男性が1人で里親会にやってきた場合は、家族構成を聞いたり家族の了解を得ているか尋ねてたりしていた。

家族構成を完璧に把握しても、赤ちゃんが生まれたことによって猫が保健所に持ってかれることが多いと北日本動物福祉協会会員のAさんは語る。彼女は「子供>ペット」の図式が崩れることはないと感じている。つまり人間の都合によりペットが悲惨な目に合うことが多いという現状は、未だ存在しているのだ。

 一方で、里親会に出す動物にも条件が存在する。子猫の場合だと、生後2か月たっていないと里親会に出すことはできない。最低2か月たっていないと乳離れしていないため、離乳食や温度調節など難しい問題が出てくる、といった理由からだ。また、ある程度人間に慣れさせておく必要があるため、野良猫の場合、保護した人が里親会に出すまでに人間に対しての免疫をつけておく必要があり、抱っこしても大丈夫なまで人間に慣れさせておかなくてはならない。

 北日本動物福祉協会は単に野良や飼えなくなった動物たちを引き取って他の飼い主のもとへ送り出す便利屋ではないと北日本動物福祉協会のAさんは語る。厳しい条件を出す背景には、行き場を失って殺されていく動物を少しでも減らしたいという気持ちを抱いているのである。北日本動物福祉協会の「厳しい」条件は動物側や前の飼い主(譲り主)側にもあるが、「新しい飼い主」側に一番焦点が向けられているように思う。人間の勝手により生まれた動物たちが引き取られた後で、幸せに暮らしていけるように、また、同じように可哀そうな境遇の動物を出さないためにも「新しい飼い主」がしっかりとルールを守り、ペットを飼うことが重要となってくるのだ。また、そうすることによって無造作な繁殖は抑えられ人間自身にとっても暮らしやすい生活に近づくとことになるのである。

 

第二項 富山県動物管理センター

富山県動物管理センターに動物を持ち込む側の条件としては、飼い猫から生まれた子猫であり、離乳している、人慣れしている、といったことがある。また、譲渡会に連れてくる前には、シャンプーなどエチケット面でも気をつけなくてはならない。人慣れしていなかったり離乳していない場合、しばらく自宅で飼ってもらうようだ。離乳する2,3か月までは親兄弟一緒にいた方が親から教わることもあるし、兄弟同士じゃれあうこともして色々社会化の勉強しとることもあるため親元を離すべきではない、と富山県動物管理センターの職員の方は語った。引き取りの際には、譲渡を申請する理由もしっかりと確認し、飼い主の方で引き取り手がどうしても見つからなかったことが確認できた場合にのみ富山県動物管理センターの利用を認可する。だが、譲渡会で譲渡不成立のときは、持って帰ってもらうことになっている。そして翌週再び持ち込みをお願いするのだ。

一方、引き取り側の条件として参加者は富山県動物管理センターにつくとまず、事前調査票(住所・氏名・職業・家族構成・引き取り後に飼育が可能かの確認)を書いてもらい、身元の確認をしっかりとさせておくこととなるく。その後、引取りが決まった方に対しては講習会で誓約書に必要事項(住所・氏名・電話番号・引き取ることになった犬猫の情報)を書きいれてもらい、1000円分の診察補助券を渡す。避妊去勢手術を完了させておくことや検査は持ち込みの条件ではないので、新たな飼い主にしっかりと検査などをさせるためにも診察補助券を渡しているのだ。また、譲渡成立者は講習を必ず受けなければならない。これも富山県動物管理センターでの条件の一つである。譲渡会にやってくる人たちは大体がペットを飼っていたことのある人たちであるが、改めてペットの飼育についてのやり方を説明することで、犬や猫の習性をきちんと理解したり飼い主としての意識を高めるとになっているように思える。譲渡成立後は追跡調査もしっかり行い、1か月ないし2ヶ月後に引取りされた家庭に、電話により登録注射完了の確認や困り事の話などを聞く。もし何かあるようだったら富山県動物管理センターの方に訪ねてもらい、話し合いやしつけを行うようだ。

動物側の条件としては木曜譲渡会に出てくる動物に対しては当日搬入のため細かいチェックはない。だが、野良の外猫はウイルス感染などの恐れがあるため断っている。木曜日の譲渡会で細かい審査がないのに対して、わんわんパートナーでの成犬には多くの細かい審査や条件がある。その選定基準には、年齢や大きさ、健康状態などのチェックである「一次選定基準」と、犬の細かな性質判断である「二次選定基準」の二つが設けられ、一次基準をクリアした後、センター職員により訓練をされ、それから二次基準のチェックを行うという流れになっている。選定項目は計20あり、この内一つでも不合格があった場合は譲渡犬とはなれず、殺処分となる。また、成犬譲渡を希望する人は木曜譲渡会の形式と異なり、事前に成犬譲受申請書と飼い主希望事前調査票を書いてもらう必要がある。これにより初めて権利が生ずるのである。

 

第三項 まとめ――厳しい条件の必然性――

北日本動物福祉協会・富山県動物管理センターは、いずれも動物に対しては離乳していることや人慣れをしているなど同様の条件を課していた。このように動物の譲渡には飼い主側・動物側ともにそれぞれ厳しい条件が存在し、安易な引き渡しは行われない。譲渡とはただ引渡しを援助する単純な取り組みではなく、それぞれの条件が一致して始めて成り立つものであり、その条件に合致しうまく新たなペットと飼い主のパートナーになれることは非常に幸ある事と考えられる。

だが、条件をクリアしているからといってすべてを動物譲渡を支援する団体に頼りきりではいけない。引き渡し側は安易な気持ちで動物愛護団体や富山県動物管理センターを利用するのではなく、まずは自分たちで新たな飼い主を見つける努力をすることを求められる。一方で引き取り側は、新たな家族の一員としてペットを迎えるにため、それなりの費用も手間も多いにかかることをしっかり理解していなくてはならない。  中村(2002)によると種別によってその費用は異なるがペット(犬の場合)の生涯費用は350万円から500万円かかると言われている。そういった点を第三者の冷静な目線で改めて自覚させているのではないか。そして動物に対して十分な知識を持った人がアドバイスをすることで、譲渡主たちは未熟だった飼育知識を高めることができる。北日本動物福祉協会の会員や富山県動物管理センターの職員の方は、自らの持つ知識を伝えることでペットを飼うということの大変さや責任、重大性を再認識させているように思える。厳しい条件を出して譲渡することは彼らが望む、不幸な動物が少しでも減らすことにつながっているのだろう。引き取り側に対しての高い希望は、新たに生命の担い手になる飼い主としての期待の一種などだろう。

 

第三節    第二の飼い主の橋渡し的役割

このように譲渡に関しては動物側・人間側に多くの条件が存在し、それが全てうまく合致し成立することで譲渡が成り立っている。現在、全国的にも譲渡率は増加し、更なる普及を目標に掲げられている。しかし、譲渡とは貰い手側、持ち込み側、受け渡しを援助する団体の間での単純なペットの移動ではなかった。持ち込む側は簡単に引き渡して終わりというわけにはいかない。野良や元ペットを新たな飼い主の元に送り出すためには第二の飼い主、つまり仮の飼い主である保護者が必要になる事が多い。捕獲した犬や猫をしつけも儘ならないままそのままで譲渡に出すわけにはいかない。言うことをきかない、手を噛んだなどと言った理由から保健所に送られ、せっかく生きながらえた命を再び断つ可能性が出てきてしまう。そのためにも譲渡会に出す前の数週間、あるいは数か月の間、持ち込み側の人が仮の飼い主として譲渡会に出すまでの間、譲渡会に出しても良い年齢まで世話をしたり、ある程度のしつけを施しておくなど、貰い手との橋渡し役として重要な役割を担うことになるのだ。動物側にも条件がある以上、この仮の飼い主がうまく働きを見せることで初めて譲渡が成功を収めているように思える。

だが、ここで譲渡に関する問題点と課題が見えてくる。第六章第二節でも述べたように、譲渡には人馴れさせておく等の条件が存在する。それは譲渡後に再び動物たちが行き場を無くさないためにも必要なものなのだが、橋渡し役としての保護者、つまり譲渡の橋渡し役に何かしらの負担がかかるということである。橋渡し役には一般の方や動物愛護団体の会員の方など多くの人がその役割を担っているのだが、個人での保護になる以上その数は限られるだろう。また、橋渡し役を担う人の多くは動物好きであり、自分自身でもペットを飼っている人が多い。人慣れをさせるために必ず家の中で飼う必要はなく、庭先や家の近くで餌をやるだけでも十分だ。だが、それには少なからず保護者には金銭的にも時間的にも負担がかかってくる。また、家の中でとなると一度に多くの動物の面倒を見ることは、一般家庭ではどうしてもしつけの行き届かなさを生む可能性が起こってくる。そうすると譲渡のために保護したとなっても、しつけるまでに時間がかかったり、中々貰い手が見つからない恐れが出てきてしまうのだ。さらに譲渡に出せるようになっても、貰い手が見つかるまで何か月という決まった保護期間はなく、決定するまで世話をし続けなければならない。その間には一種の仮の飼い主としての責任感も湧くであろうし、引き取り手が見つからないことに対する不安やプレッシャーも抱くだろう。北日本動物福祉協会の会員の方は、そのほとんどが自分のペットとは別に橋渡し役として犬や猫を保護し、仮の飼い主としての役割を果たしている。その中の一人のBさんは次のように語る。

 

飼って8か月。7歳の成犬です。厚生センターの方から譲り受けて。北日本動物福祉協会に電話があって、公園に捨てられてた子を(捨てた人が)自分のとこじゃ面倒見れないから厚生センター持ってったと。ところが厚生センター持ってったら処分されるんじゃないかって心配で、北日本(動物福祉協会)の方に電話かかってきた。それで私すぐに見に行って、可哀そうだからって私が面倒見て里親出しますって。連れて帰りました。3週間くらいかな。慣れておかす。人慣れっていうか、おしっことかそういうところまできちんと、できるようにしとくとか、ワンワン鳴いたらだめよとか、しつけしたり。

 

Bさんは処分されかけの犬を救った一人である。そして譲渡の橋渡し役としてその役割を果たしている。だが、ここで注目しておきたいことは、譲渡に出る際の橋渡し役の存在は一人ではないということである。Cさんのケースを見てみる。

 保護期間は3カ月、11月中旬の日曜日にCさんが保護していた猫の譲渡が決まった。しかしそれまでには長い道のりがあった。2009年の4月、猫を飼っていた70歳くらいのおばあさんが亡くなった。猫は4匹の放し飼い。ずいぶん酷い飼い方をしていたらしく、避妊去勢手術も儘ならないまま近所の人からも距離を置かれていた。そのおばあさんが亡くなり猫だけが取り残されたのだが、突然来た男兄弟の人は次の引っ越し先は動物が飼えない所だからと言い残し、猫はそのまま放ったらかして行ってしまった。その間近所に住んでいる猫好きのおばあちゃんが水だけはやらなければ死んでしまうと思い、猫に気を掛けていた。後に家の状態があまりにも酷かったため取り壊しが決定したのだが、住み着いた猫を心配したCさんは元の飼い主の引っ越し先を訪ねた。しかしそこで言われたのは無責任な発言ばかり。5月、Cさんは猫を保護することにした。だが、利口な猫はなかなか捕獲機に入らず捕獲は困難を生じた。そこで近くで猫を飼っている人に餌をやってくれるように頼み3カ月かかってやっと人慣れさせた。そして7月中旬に捕獲成功し、すぐさま手術を行いCさんは仮の飼い主として譲渡の橋渡し役者になった。

このようにCさんは譲渡側(団体側)と里親側の橋渡し役としての役割を果たしている。だが、譲渡されるまでにはCさんの他にも橋渡し役として働きを見せている人物がいる。今回の場合だと近所に住む水をやってくれていた猫好きのおばあちゃん、餌やりをお願いした猫を飼っている人、このような人の協力も相まって無事猫を譲渡に出すまでに至ったように思える。ただ単に一人の努力ではどうにもならないのが捨て犬捨て猫の問題である。会員の人はそのこともよく理解しており、近所の人に協力を求めるための真摯な態度での説明や、理解してくれるまで話し合う事などの大切さを感じているようだ。譲渡の仲介を果たす役割は富山県動物管理センターや動物愛護団体などの組織だと思いがちだが、実は保護者である個人も大切な役割を担っている。その分、頭数や時間、金銭面から飼育の限界という問題も見えてきてしまう。この点が譲渡に関しての課題にも思える。

 では、この課題に対しどうすることがより効果的なのか。譲渡についてはその橋渡し役が重要な要となってくるのだが、個人に託すには負担や限界が生じ、だから言って動物愛護団体に任せきりになるにも、やはりボランティアであるが故に、会員個人の限界が見えてくる。さらに、動物愛護団体を野良や元ペットを何とかしてくれるところだという安易な考え方は、会員の方も望んでいるものではない。そこで注目できるのが、「地域ぐるみで飼っていこう」とする考え方である。次章ではその譲渡にかかる限界を打破する可能性を秘めた取り組み「地域猫活動」について考えていくことにする。