第一章 問題関心

 近年、日本は空前のペットブームである。経済の低迷にも関わらずペット業界の市場の規模は伸び続け、1兆円市場とまで呼ばれるようになった。そして今やペットは我々の生活の中で家族として同等の価値を置かれ、人生のパートナーと言える存在にまでなっていように、家族的ペットの存在が大変重宝されている。しかし、その一方で飼い主としての責任の欠落や飼育放棄、野良犬や野良猫の自然繁殖が問題視されている。そういった動物たちの多くは保健所や富山県動物管理センターに連れて行かれ殺処分という結末を迎えることとなる。行き場のなくなった野良犬や野良猫の増加はウイルス感染や人間を襲うといった可能性を持ち備えているのだ。動物の命を絶つことによって、その「死」により社会の秩序を保つこととなる。だが、他方で「譲渡」という動物が生きるための新しい道もある。譲渡とは新しく生まれてきた命を生かし、新しい飼い主が育てることで飼育のルールを守り、尊い命の殺生を減らすことができる賢明な方法であるのだ。

 そこで、本論文ではその「譲渡」に着目した。譲渡に取り組むことは処分される犬猫の数量を減らすだけではなく、町を宿にする動物の数を減らす良い機会となるはずだ。それにも関らず、個人ではなく団体を介した譲渡は意外にも周知されていない。譲渡に関わる団体や制度には一体どういったものが存在し、譲渡会の参加者はなぜ自分で好きなペットが飼えるペットショップを利用するのではく譲渡会を利用するのか。そして調査の結果から、譲渡という取り組みを明確なものにし、問題点や課題を見出していくことで譲渡がどうあるべきなのかを検討し、より発展したものになるための解決手段を考えていきたい。

 また、本調査は20094月から2009年の11月の間に調査先である北日本動物福祉協会と富山県富山県動物管理センターへの計9回のフィールドワークによるものである。その中で、北日本動物福祉協会の会員の方4名、富山県動物管理センターの職員の方2名に各団体の活動内容や取り組み、譲渡に関わる条件や飼われているペットについてのインタビュー調査を行った。また、譲渡会に参加していた15組の家族・個人に譲渡会を利用するに到った経緯や理由を聞くことで譲渡の捉え方や意識を分析をした。