2章先行研究

1節メディアによって作られるヒーロー

橋本(2002)によればヒーロー像は時代や社会あるいは文化によって異なるものであり、人々はそれぞれの社会において選ばれるに値するヒーローを選んでいるのであるとしている。現在私たちの文化においてヒーローとして存続している人物は古典的な意味合いでのヒーローとはまったく違い、(かつては格別の勇気、不屈の精神、冒険心、さまざまな理想を実現するのに必要な優れた素質を持つ人を意味していた)メディアへの露出度が高いほどヒーローに近づく道ができてしまったとしている。現代では私たちはヒーローに関することはメディアにつくられた視覚、聴覚イメージを通じて知ることになることが大体である。私たちにはヒーローではなく、ヒーローに関するメディア情報のみが存在するということであり、メディアによるコミュニケーションがとれなければヒーローは存在しないとさえいえる。メディアはあらゆるヒーローを作り出す最も重要なものである。そして現代のヒーローはメディアへの露出度が高いという点において限りなくセレブリティに近いヒーローであるといえる。

2節モダンスポーツヒーロー

今回の調査では橋本(2002)によるモダンスポーツヒーロー、ポストモダンスポーツヒーローの考え方を石川遼、ダルビッシュ有のスポーツヒーロー像を探っていくための参考にしていきたい。

モダンスポーツヒーローとは近代の価値やイデオロギーを体現し、大衆に大きな影響を与えたと考えられるスター選手である。
1950
60年代の戦後の日本において欠けていた社会的な平等、経済的自立を克服するためにこの頃の国民は一生懸命に努力していた。この「一生懸命」、「努力」などの日本を近代化に推し進めた要素を体現した円谷幸吉選手やこの当時の日本人が感じていた戦勝国アメリカに対するコンプレックスをプロレスによって克服した力道山はモダンスポーツヒーローと考えられる。またその後、川上の管理野球のもとで天真爛漫さとひたむきな努力をもって活躍した長嶋茂雄は、先進国の仲間入りを目指して過酷な労働を強いられてきた日本人にとってのモデルを提供しつかの間ではあるが日常から逃避し、夢を代理的に実現した選手である。

3節ポストモダンスポーツヒーロー

ポストモダンヒーローの特徴は「組織」、「集団」、「和」などの近代化を支えてきたヒーロー要素に「個」という価値を貫く姿勢を強調する選手。日本のポストモダンスポーツヒーローとして考えられるのは中田英寿である。中田は日本がフランスワールドカップへの出場を決めた1997年には日本代表とベルマーレにおいて揺るぎない存在であったがそれまでの日本人選手であれば中田のような状況において成功の確約もなく海外に移籍するより、今まで育ててくれた集団に対しての恩義や遠慮も少なからず考え日本でそのままプレーすることを選択したはずであるが中田は「個」の価値観を貫き海外サッカーチームへ移籍している。

 これらの先行研究を受けて、現代のスポーツヒーローがモダンスポーツヒーロー、ポストモダンスポーツヒーローという概念に当てはまるのか、また問題関心で述べた石川遼、ダルビッシュ有のスポーツ情報以外で構築されるヒーロー像について分析、考察していきたいと考えている。
 本調査ではモダンスポーツヒーローの定義を「努力」「一生懸命」「礼儀正しい」などの日本人的資質を体現している選手として、ポストモダンスポーツヒーローを集団としての自分ではなく個人としての自分を貫き、自分自身の価値観を変わらずに持ち続ける天才肌的な行動をメディアに取り上げられる選手として位置づけ調査を進めていくこととする。