第3章 Kapoの活動

 5月の清掃活動でキックオフし、それから毎週コアスタッフによる全体ミーティングが行われた。キックオフ後、約4ヶ月の準備期間を経て、ようやくアートプラットホーム開催と合わせて、10月4日、Z project及びKapoの営業がスタートした。

 会期中の活動は大きく7つ。@アンデパンダン展AレンタルアートシステムB賢坂辻商店街共同企画(Z space Art project)CショップDカフェE山越ビル2階企画展示FM1プロジェクトである。この章では、これらの活動の具体的な内容について説明していく。

 

第1節 アンデパンダン展とレンタルアートシステム

Z projectの、その絶望的な状況からの脱却という意思を強く押し出す企画として、アンデパンダン展とレンタルアートシステムというプロジェクトが決定された。この2つのプロジェクトは連動した企画として考えられており、会期中の活動の中では比重の大きい、まず人々にZ projectを知ってもらうための目玉企画であったといえるだろう。

 アンデパンダン展とは、無審査方式の展覧会のことを意味する。アートプラットホーム会期中の10月4日〜1012日にかけて、金沢21世紀美術館の市民ギャラリーで行われた。出品料1点3000円を払えば、プロ・アマ、年齢、肩書きを問わず、誰でも金沢21世紀美術館で作品を展示できるということが、このアンデパンダン展の一番の魅力である。縦300×横300×高300p、重量1トン以下の作品であれば、平面、立体、インスタレーション、映像などジャンルは問わない。作品は金沢に限らず、全国から募集された。

 アンデパンダン展開催の目的は、第一に、展示機会の少ない、主に地域で制作活動している若手作家に対して、金沢21世紀美術館というステージでの展示チャンスをつくることで、新たな作品評価の契機を生むこと。第二に、金沢のアートシーンに今まで参加しえなかった層の作家が参加することで、他地域の作家との交流や、ローカルな場での作家同士のネットワークの構築を促すこと。そして第三に、Z projectをはじめとする金沢でのオルタナティブなアート活動を一緒に行える仲間を探すことである。

 このアンデパンダン展と連動して、レンタルアートシステムという企画も行われた。これは、登録してもらった作品を鑑賞希望者に貸し出しをするシステムで、安価な価格設定で、気軽に作品を自宅や事務所、病院などに飾ってもらうことを目指す。期間は1015日〜12月7日までで、その間、山越ビル2階で作品を展示する。12日まで美術館で展示されるアンデパンダン展の作品を、今度は山越ビルに移して、15日からレンタルアートシステムの登録作品として利用してもらおうというものだ。登録は無料だが、貸出料の受け取りは、作家:システム運営費=3:7となる。貸出料は1ヶ月1,00010,000円を基準とし、作家が決定する。

 レンタルアートシステムの目的は、まさにZ projectが目指す、作家の自立と、地域の文化活動を誘引する仕組みの開発である。貸出料によって、作家の金銭的サポートと、地域活動及び作家の活動・実験拠点としてのZ project事務局の運営サポートを可能にする。また、日常生活の中で気軽にアートを楽しんでもらうことで、アートをより身近に感じてもらえる機会にもなるといえる。

この連動企画、アンデパンダン展とレンタルアートシステムは、募集要項を載せたチラシを作成し、8月から募集を始めた。それに合わせて、Z projectのホームページも立ち上げ、そこでも募集を呼びかけた。アンデパンダン展の応募数の目標は250点。最低でも120点集めなければ、予算上赤字になるとされた。Z projectの活動費は、美術館から出るところもあるが、自分たちでまかなわなければならない部分もある(予算についての詳細は第2章第3節第6項参照)。アンデパンダン展とレンタルアートシステムは、そこでかかった経費を、そこで得られる出品料と貸出料でまかなわなければならないことが決まっていた。募集開始当初はなかなか集まらなかったが、スタッフのネットワークを使った口コミ活動が功を奏して、258点の応募数を獲得し、見事目標値を達成した。

アンデパンダン展は、アートプラットホーム開催と同時に21世紀美術館で始まった。展示室の市民ギャラリーは作品で埋め尽くされた。壁には大小さまざまな平面作品、床にはこれまたさまざまな立体作品。映像や音声の作品もいくつかあった。何を表現しているのかすぐにわかるもの、わからないもの、落ち着いた気分になれるもの、なんだか恐い気持ちにさせられるもの・・・作品の種類はまさに多種多様で見ていて飽きない。一つのコンセプトに基づいた展覧会とは正反対の作品群であるが、全国から集められた若手作家中心の作品からは芸術に対する情熱が溢れていたと思う。

アンデパンダン展の出品作品のなかから、約120点がレンタルアートシステムに引き続き登録された。1012日まで美術館で展示されたあと、次の日に搬出作業が行われ、レンタルアートシステム登録作品は、そのまま山越ビル2階へと移された。山越での展示は、1015日から始まり、アートプラットホーム終了日の12月7日まで行われた。期間中、地元の美術ファンなどへのレンタルが実現した。レンタルアートシステムは、作家を支援する画期的な試みとして始められたが、実行して問題点も判明した。作品の搬入出に手間がかかることである。レンタル希望者と搬入出の日時を交渉し、作品を梱包・発送する作業は、少ないスタッフ、しかもそれぞれに本業を抱えるスタッフたちだけでこなしていくことは難しかった。スタッフ側とレンタル希望者側とのスケジュールが合わず、レンタルを断られるということもあった。レンタルアートシステムは結果として、今のKapoを支える事業とは成りえなかった。今後スタッフが充実し、展示場所も確保できれば、アートで収入を得る一つの方法として復活できるかもしれない。

 

第2節 Z space Art project

金沢美術工芸大学の学生と、兼六大通り商店街との交流企画が決定され、のちにそれは「Z space Art project」として実行されることとなった。

Z spaceとは、dead spaceZ projectZを合わせた造語で、うまく利用することが難しい空間を指す。このプロジェクトでは、兼六大通りにある商店、空き店舗、民家等の敷地からZ spaceを探し出し、その場所を使った作品展示を行った。Z spaceの利用価値を見出す活動を通して、Z project及びKapoの活動を地域に開き、まちの人にアートを身近に感じてもらうことが目的である。また、学生が大学から出て、地域の人と触れ合いながら作品を制作・展示することにより、学生の作品制作の可能性を広げることも期待された。展示期間は10月4日〜1018日の2週間であった。

 

図2 こどもセミナーハウスでのインスタレーション

藤谷英奈 ≪いきものたちの呼吸≫

 

 

 

プロジェクトの準備は、金沢美術工芸大学や金沢大学の学生のコアスタッフが担当となって進められた。担当スタッフは展示のお願いをするため、兼六大通りの商店をひとつひとつ回った。土地柄が保守的であるという話もあり、あまり協力してくれるところはないのではないかと当初は思われた。しかし、予想とは異なって、多くの商店がプロジェクトに興味を示し、賛同してくれた。2週間お店のショーウィンドウや店先のちょっとしたスペースを貸すだけという条件のリスクの低さからか、普段あまり新しいことに積極的ではない商店も協力してくれることになった。

 協力してくれたのは14店舗。それに道路上や、空き店舗を合わせて計19ヶ所での展示が決まった。参加作家は学生を中心とする24名で、8月末に兼六大通りの見学会を行った。そこで、誰がどこで展示をするかを決定し、作品のプランを作成、制作というかたちで準備が進められた。

 2週間にわたって開かれたZ space Art projectでは、通行人の目をひくユニークな立体作品から、店内をよく覗いてみないとわからないが、見つけると嬉しくなるようなそんな作品まで、学生の工夫が詰まった、楽しい展示が兼六大通りに繰り広げられた。

 

図3 居酒屋の扉を飾るインスタレーション

奥田清崇 ≪PortraitNOW”(at bar YOSHINO)≫

 

 

 

展示が終わったあとのまちの反応は、肯定的なものが多かったようだ。展示終了後のミーティングのなかで、スタッフの村住はZ space Art projectに協力したお寿司屋さんのエピソードを紹介した。

お寿司屋さんの奥さん、最初話がきたとき面倒だと思ったそうです。でも少し面白そうやしやってみようかなと思ってやってみたら、お客さんの反応もいいし、やってよかったって言っていました。

またそのミーティングのなかで、展示場所を提供した洋菓子店の堀田も、まちの反応はよいものだったと語った。

好感を持っている人は多いと思います。僕は最初このプロジェクトの提案を受けたとき、反対したんです。そういうのやりたがる人が少ないところだと思ってたから。でも結果受け入れた人が多くてびっくりしました。これをやって、実際にお店に入ってくる人が増えたわけではないけど、若い人が入りやすい店ばかりではないですから、でも人通り増えたねって言われたし、僕も増えたと思いますね。

堀田は、後日行ったインタヴューのなかで、Z space Art projectがうまく進んだ要因についてこう語った。

今までそういう機会があっても、関係ないわって感じやったんですよ。でも今回は、けっこう大掛かりに、通り全体を使ってっていうのと、企画されたかたの熱心なお話で、口説き落とせた。それが連鎖的に、あそこもか、あそこもかって。そこら辺がうまく噛み合ったのかな。

堀田は、今回のZ space Art projectで、まちの人の意識は変わったとし、もしこういった、まちが作家をサポートするような企画が定期的に行われれば、何年後かにはまちの認識はもっと変わってくるのではないかと語った。

Z space Art projectが終わっても、撤去せずにそのまま展示を続けさせてくれる商店も現れた。Z space Art projectによってまちの魅力が再認識され、諦めムードが漂っていた商店街に、前向きな感覚をもたらすことができたのではないだろうか。

 

第3節 ショップとカフェ

山越ビルの1階では、Kapoによるショップとカフェの営業が、アートプラットホーム開催と合わせて10月4日からスタートした。

ショップは、手作りのアクセサリーやかばん、CDなどの委託販売で、株式会社山越によるオリジナルのポストカードやストラップの販売も取り扱う。ショップスペースの白い壁には色とりどりのTシャツがいくつも飾られている。これはKapoが若手作家にデザインをお願いして、シルクスクリーンで手刷りしたもので、1着3500円で販売している。その売り上げの半分は作家に還元され、もう半分はKapoの運営資金となっている。ショップの商品数は徐々に増えていき、アートプラットホームが終わる頃には、たくさんの商品で賑やかなショップスペースとなった。商品の増加は、Kapoの活動が進むにつれて、Kapoと関わりをもつようになった人が確実に増えていることを表しているように思う。

 

図4 山越ビル1階ショップ

 

カフェの営業に関しては、準備段階からかなり力を入れていた。なぜなら、アートスペースにおけるカフェの併設は、そこに関わる人同士の交流の場となるのに加え、普段アートと接する機会の少ない人がアートと触れ合うきっかけにもなると考えられるからだ。魅力的なカフェをつくることは、人を呼ぶ要になるともいえる。

しかしながらカフェの営業には、衛生面の管理から、家具の設置、食材の調達まで、かなりの準備を必要とする。しかもそれを、老朽化した旧印刷工場でやろうというのだから大変である。内装班のスタッフたちは保健所の方にアドバイスをもらいながら、配管工事をし、床や壁の整備をしていった。またカフェ班のスタッフが、シンクや冷蔵庫を揃えた。椅子とテーブルは家庭でいらなくなったものを集め、なんとかカフェとしての体裁を整えていった。メニューは、フェアトレードのコーヒー、アイスコーヒー、オレンジジュース、ウーロン茶、近くのお茶屋さんから調達した加賀棒茶などを出すことが決まった。コーヒーは1杯300円に設定。原価は50円ほどなのだが、Kapoの運営資金として若手作家の支援に役立てられるという意図を理解してもらい提供する。

ドリンクメニューだけでスタートしたカフェ営業であるが、11月上旬からオリジナルスイーツの開発も進められた。金沢産品を生かした名物スイーツの開発で、兼六大通りの洋菓子店が監修し、学生や栄養士ら10人で企画会議を重ねた。完成したのは、味噌蔵町小学校下であることにちなんだみそ味のキャラメルや、加賀れんこんの食感を楽しめるチョコレート、金沢の四季を表現したロールケーキなど。地元の新聞でも取り上げられ、Kapoの話題づくりにつながった。

 

第4節 「第3の途」と「kapo+

アートプラットホームが始まった10月4日。山越ビルもその日からオープンし、1階ではショップとカフェの営業がスタートした。そして2階展示スペースでは、若手作家14名によるグループ展「第3の途」が開催された。この企画は、若手作家の支援とともに、各地のZ project間の交流も図るもので、参加作家は金沢で活動する作家を中心に、大館や沖縄、氷見など全国のZ projectで活動する作家たちで構成された。展示期間は10月4日〜1013日で、鑑賞は無料。

2階のつくりは、まず階段を上がって最初に入るのが10×10mほどのほぼ正方形の部屋になっていて、右と左に一つずつ入口がある。右の入口を入ると5×5mほどの小さめの部屋になっていて、左の入口を入ると10×20mほどの広い長方形の部屋となっている。改修前の2階展示スペースは、すすで灰色になった壁と天井で薄暗い印象であった。しかし白い展示壁を設置し、柱をポップなグリーンに塗り替えるなどして、ぐっと明るい印象へと変わった。「第3の途」では、2つの大部屋で平面と立体の作品がゆったりとした感覚で並べられ、小部屋では暗幕を引いて映像作品の展示が行われた。

「第3の途」終了後、11月1日〜12月7日まで「kapo+(カポプラス)」という交流企画が行われた。これは各地のZ projectの活動を紹介する展示やイベントを行い、オルタナティブな活動やスペースの運営について考えてもらおうという企画であった。展示は1階カフェスペースと2階小部屋の映像ルームを使った小規模なもの。ちなみに、2階の大部屋2つは、「第3の途」終了後の1015日からレンタルアートの登録作品展示に使用されている。

kapo+」のイベントとしては、11月1日にオープニング企画としてトークイベント「世界のオルタナティヴ・スペースとヒミングのアクション」を開催した。参加費は1ドリンクつきで500円で、会場は山越ビル1階カフェスペース。イベント前半では、中村政人を招いて、世界各国のオルタナティヴ・スペースについて、実際に現地で取材してきた映像と所感を交えてのトーク。後半では、富山県氷見市で行われているZ project「ヒミング」の活動について、ヒミング実行委員会の平田氏による紹介が行われた。

 

第5節 M1プロジェクト

「アーティスト・イン・レジデンス」というアート活動がある。アーティスト・イン・レジデンスの説明として、林容子は「アーティストをある場所に招いて、一定期間滞在してもらい、その体験を創作活動に生かしてもらうことにより創作のプロセスを支援する制度である」(林 2004: 225)と述べている。また作家を受け入れる地域にとってのメリットとして「滞在するアーティストとの交流を通して、住民が生きたアートに触れることができ、また地域にアートを持ち込み、さらに異文化交流ができることだ」(林 2004: 226)と述べている。

 地域活性化と若手作家支援を目指すアートプロジェクトにおいて、アーティスト・イン・レジデンスは、作家と地域住民の交流を深める手段の一つとして、よく取り入れられるプログラムである。中村政人の手がける各地のZ projectでも、作家のレジデンスプログラムは実践されており、Kapoの活動の中でもレジデンスプログラムが計画された。Kapoでのレジデンスプログラムは、中村政人が所有する「M1」という中古プレハブ住宅を兼六大通り周辺の空き地に設置し、仮設的な作家のレジデンス・アトリエとして活用する実験を行うものとして計画された。M1とは、1970年に積水化学と建築家の大野勝彦との共同開発により発売された、ユニット工法住宅である。

 6月頃から計画が進められ、7月には敷地調査を実施。いくつかの候補地の中から最終的に、兼六大通り沿いにある、幼稚園が管理するセミナーハウス横の空き地に設置することになった。アートプラットホーム開催と合わせて、M1の設置も完了。とここまでは計画通り進んだのだが、実際に作家を呼んで滞在・制作してもらうまでには至らなかった。地域活性、作家支援を目的として計画されたM1プロジェクトであったが、結局頓挫してしまい、1130日に山越でM1についてのレクチャーとワークショップを開催して、M1プロジェクトは終了することになった。