はじめに

金沢のまちを舞台にしたプロジェクト型展覧会「金沢アートプラットホーム2008」が、約2ヶ月の期間をもって開催された。現代美術を扱う金沢21世紀美術館主催のこの展覧会では、市内19ヶ所でアートと地域を結びつける試みがなされた。3年ごとの開催を予定する展覧会の第1回目となる今回のスローガンは「自分たちの生きる場所を自分たちでつくるために」であった。

 参加アーティストのひとりである中村政人は、このスローガンを具現化するために、空きビルをアートセンターに変えるプロジェクト「Z project」を行った。そこでは多くの市民や学生が参加し、作家や地域社会を支援する活動が行われた。それはのちに「Kapo」となり、展覧会後も継続可能なシステムとして、その試みは続いている。

 力を失いつつある商店街の空きビルで始まったアートプロジェクトは、まちにどのような影響を与えたのだろうか。また、今後も活動を続けるなかで、Kapoの活動はどのような意味をもつことが想定されるだろうか。増加する地域再生を目指すアートプロジェクトを、ソーシャル・キャピタルの形成という視点から考察を試みたい。

 本論の調査は、フィールドワークとインタヴューによるものである。筆者は5月に行われたキックオフアクションから、実際にKapoの活動に携わり、以降コアスタッフとして、週1回開かれる全体ミーティングに計8回参加した。展覧会開催中には、会場に赴きフィールドワークも行った。インタヴュー調査は、200811月に金沢21世紀美術館キュレーター(学芸員)の鷲田めるろ氏、2009年1月に会場となった兼六大通りで洋菓子店を営む堀田茂吉氏をインタヴューイーとして行った。