第4章 考察

これまで、グリーン・ツーリズムの全体的な背景と、富山県内でグリーン・ツーリズム活動を行う3つの施設の活動内容を個別にみてきた。各資料から、日本のグリーン・ツーリズムが環境整備を終えて、普及から発展の段階へ移行していることがわかる。そこで、県内の3つのグリーン・ツーリズム関連施設を比較することで、富山のグリーン・ツーリズムの特徴を、4つの項目に分けて検討していく。第1節では地域の資源と施設の自然体験内容について、第2節では施設側が想定している対象者と実際の利用者の傾向について、第3節では利用者の滞在時間と訪れる回数について、それらを踏まえて、第4節では富山のグリーン・ツーリズムの課題について考察していく。

 

第1節 地域の資源の活用

グリーン・ツーリズムは、自然環境に恵まれた農山漁村で行われ、その内容は地域の自然、文化、産物という地域の資源を利用したものとなる。

夢創塾では、地域の自然的要素、文化的要素、産業的要素が十分に活用されている。小川に沿って作られた水車や養殖池、山の斜面を活かしたアスレチックは、自然的要素を活かしたものである。炭作りは地域のかつての生業であり、その頃の技術で作られた炭窯や、地域から無償で提供される間伐材が使われていることから、文化的要素、産業的要素が活用されているといえる。そのほか、窯の熱を利用した塩作りや料理、山に自生しているコウゾ・ミツマタを育て、自分たちでパルプ化して材料にする紙すきなど、夢創塾では地元の素材をふんだんに活用した体験を行っている。これは夢創塾ならではの自然体験であり、他所では行えないものなので、人々が魅力を感じ、遠方からも利用者が訪れる要因となっている。全体を通して資源の活用や循環、自分で考えて実体験すること、プロセスを理解することに重点を置いていて、地元の学校に年間8回のプロジェクトで、「風の道」森づくりと称して里山の技(炭作りなどの地域の伝統的な文化)を教えている。夢創塾は「子供たちに積極的に学ばせよう」という意気込みがあり、多種多様な体験プログラムはリピーターの獲得にも繋がっている。また、修学旅行生とボランティアの住民など、一部では訪れた利用者と地域の人との交流も見られる。

一方、しらくら山の学校では野鳥観察やキャンプといった自然的要素の活用、アッパレハウスでは地元の産物を使ったトコロテン作りや干物作りといった産業的要素の活用が行われているものの、どちらの施設の体験も4〜5種類であり、夢創塾の体験が20あまりあるのと比べて多くない。夢創塾の体験内容が充実しているのは、地域の文化的要素が十分に活用されているためである。主催者であるNs氏はもともと地元の住民であり、施設と地域の間にもともと強固な繋がりがあった。そのため、生活の知恵や伝承文化に造詣があり、地域の協力も得やすかったのである。しらくら山の学校は、住み込みの専属スタッフであるM氏が外部の人でまだ地域に不慣れであり、地元の文化に造詣がない。アッパレハウスは行政主導で民間との協力が行われているため、ある程度連携はあるものの、積極的に地域と協力していこうという意欲が感じられなかった。もっとも、しらくら山の学校では、稲作体験で脱穀を行うときに地域の人から脱穀機を借りてきていることから、住民の協力があれば、文化的要素を取り入れることは十分に可能である。積極的に住民と交流をもち、関係を築いていくことが必要だろう。アッパレハウスも、高岡市のグリーン・ツーリズム推進事業の中心になる予定なので、今後は地域の住民と直接交渉しやすくなっていくだろう。

グリーン・ツーリズムの内容は、現状としては自然体験や自然教育的な内容のものが多い。自然的要素や産業的要素はグリーン・ツーリズムを推進する初期の段階から活用されているが、文化的要素は体験内容を充実させていくうえで欠かせない要素となる。このことから、地域の資源の中でも、特に文化的要素の活用していくことが必要だろう。

 

第2節 対象者と利用者

どんなツーリズムも、訪れる人がいてこそ成立するものである。より多くの人に訪れてもらうためには、あらかじめ主な対象を設定してアピールするなど、戦略を練ることが考えられる。

アッパレハウスでは受け入れる側の労力の関係から、利用者はある程度まとまった人数であることが望まれている。夢創塾でも「予定が重なれば一まとめに体験させてしまう」といった趣旨の発言があった。しらくら山の学校は現在のところ施設側が企画したイベントへの参加者が大部分を占めるため、やはりまとまった人数での利用が多い。夢創塾は学校単位や数家族の親子連れでの利用者が多い。夢創塾は自然教育への熱意があり、主な対象者として子供を想定している。地元の学校に対して特に、年間を通して地域の文化や伝統の技について教えている。これは、夢創塾がかつての地域の生業や自然を活かした自然体験を行っているためである。アッパレハウスは学校、児童クラブ、婦人会、町内会といった団体の利用者が多く、高岡市の広報でPRを行うなど、市内からの利用者が特に多い。

グリーン・ツーリズムの主な活動の一つである自然体験は、地域の自然や産物、文化を活用していることから、自然教育の教材として非常に有効である。どの施設でも子供は利用者の多数を占めており、富山のグリーン・ツーリズムが自然教育の場として大きな役割を果たしているといえる。アッパレハウスで親に体験を任せて遊びだしてしまった例があるように、グリーン・ツーリズムの趣旨を理解できない可能性のある子供は、必ずしも理想的な利用者とはいえない。しかし、夢創塾のように子供を対象とするしっかりしたプランがあれば、子供は熱意を持って自主的に体験に取組み、自分から再訪を希望しさえする。学校以外で子供が訪れる場合は、必ず保護者が同伴する。子供にとって魅力があれば、親も来るのである。さらに、夢創塾のように、成長した子供がボランティアとして協力してくれる場合もある。

グリーン・ツーリズムの自然体験は、自然教育の教材として非常に有効であり、子供には親が来るきっかけと、成長という2つの可能性がある。子供を主な対象として、自然教育を前面に出した内容のグリーン・ツーリズムをPRすることは、グリーン・ツーリズムを展開していく上で十分に戦略となるだろう。

 

第3節 滞在期間と訪問回数

ヨーロッパでのグリーン・ツーリズムは、都市生活者の農村での滞在型の余暇活動を指すものである。しかし、富山県内の3つのグリーン・ツーリズム施設では、日帰りの利用者がほとんどで、宿泊による長期滞在者はほとんど見られない。これは都市・農村間の距離が西欧に比べて近い日本のグリーン・ツーリズム全体に見られる傾向である。

長期滞在者の少なさは、近辺からの利用者が頻繁に訪れることで解決できる。夢創塾では、その運営上の条件から宿泊設備を用意することが難しい。しかし、施設の運営を安定して行うには、継続した利用者の確保が重要である。そこで、リピーターへのアプローチを積極的に行い、近くからの利用者を呼び込むことでその訪問回数を増やし、滞在日数の短さを補っているのである。

日帰りや一泊という短期間の滞在の場合、移動距離が短い県内の利用者は、最もリピーターとなりやすい存在である。大部分の人にとって、現在の日本の社会的条件下での農山漁村での長期滞在は困難なことである。訪れる利用者の滞在日数を延ばすことよりも、ブログなどの手軽な媒体でPRし、頻繁に訪問してくれるリピーターの増加を図って訪問回数で補う方が、現時点ではより確実な方法といえるだろう。

 

第4節 富山のグリーン・ツーリズム

第1節から第3節を踏まえて、富山のグリーン・ツーリズムに必要なものを探っていきたい。

現在のグリーン・ツーリズムに自然体験や自然教育的なものが多いことや、親が訪れるきっかけとなったり、将来成長して訪れたりする可能性があることから、子供を主な対象としてPRすると、効果が子供だけにとどまらず、成功する可能性が高い。

日本のグリーン・ツーリズム全体の課題ともいえる利用者の滞在期間の短さは、近辺からの利用者に頻繁に訪問してもらうことで解決できる。何度も利用者に訪れてもらうためには、体験内容の充実や、また訪れたいと思わせる独自の魅力が必要となる。体験内容を充実させていく際には、農山漁村が持っている生活の知恵や伝承文化のような地域の文化的資源の活用が絶好の資源となるだろう。また利用者へのアプローチとして、農業体験のように先の楽しみのある体験や、ブログのような手軽な情報媒体や地域の広報誌を使った宣伝を行うことが考えられる。

リピーターのように継続して人が訪れれば、都市と農村の交流という、グリーン・ツーリズム本来の目的が達成されることになる。リピーターを確保するためには、自然体験プログラムなどのソフト面の充実をさせ、「また来たい」と利用者に思わせることが重要である。「そこでしかできない体験」といったセールスポイントがあれば、遠方からも利用者が訪れることは、夢創塾で証明されている。生活の知恵や伝承文化はその土地独自のものであり、ほかでは味わえないものである。地域独自の資源とその活用法を知っているのは、その地域の昔からの住民である。ボランティアスタッフや資源の提供など、グリーン・ツーリズムの活動を行っていくうえでも、地域の住民の存在は欠かせない。

富山県はグリーン・ツーリズムの取組みとしては後発組であり、全国的な知名度はまださほどない。しかし、恵まれた自然環境や経済的な豊かさ、県議会初の議員提案による条例から生まれたという背景から、「NPO法人 グリーンツーリズムとやま」は一族や親類を意味する「いっけ」の精神で訪問者をあたたかくもてなすと同時に、単なる体験にとどまらず、その地区の歴史・文化にふれることが、富山のグリーン・ツーリズムを発展させていくうえで重要であると考えている。2008101日、2日に行われた全国グリーンツーリズムネットワークの富山大会では、その可能性が十分に示された。それを実現していくためには、住民の協力が欠かせない。今後富山のグリーン・ツーリズムを発展させるうえで最も重要なのは、地域住民との協力なのかもしれない。