第3章       分析

 

1節 レジ袋無料配布取りやめの目的

 

さまざまなエコ活動があり、レジ袋の削減に関しての効果が曖昧なのにもかかわらず、どうしてレジ袋なのだろうか。富山県環境政策課のYさんはつぎのように語った。

 

レジ袋を断り、マイバッグを使う行動というのは、例えば家の中で電気を消すとかそういったエコライフスタイルの取り組みなんですけど、こういったものは他の人には見えないということがありまして、それでレジ袋を断りマイバッグを使う行動というのは他の人に見える行動ということで、電気をこまめに消すとかそういった活動とはちょっと違うというふうに位置づけております。マイバッグを使う行動が、他の人の目に触れることによって、他の人の行動にも取り組みが広がっていくということを期待しております。(Yさん)

 

2章で述べた「レジ袋には様々なシーンにおいて頻繁に人目にさらされる機会がある事から、宣伝としての効果の狙いもある。」ということをマイバッグに応用したものと思われる。またレジ袋を第3章で述べたエコライフアクト10宣言のようなエコ活動のシンボル的な存在として、取り組みが行われている。そのことは次のYさんとHさんの言葉から伺える。

 

レジ袋の削減というのはエコライフスタイルのシンボル的な存在として、レジ袋の削減をきっかけにしてエコライフスタイルにつなげていくという効果もあるんです。(Yさん)

 

これは県の環境政策課でも聞かれたと思うけれども、そういう皆の意識付けですよね。(中略)地球というのは私達の乗る大きな船にね、たとえられるじゃないですか。その船の乗組員、乗員がですね、自分達のその船を大事にしないというのはおかしな話だからね。(Hさん)

 

私が「マイバッグっていうのはエコ活動のシンボル的な存在なんですか?」とHさんに質問したところ、「私はそのように思いますけれども。でもマイバッグ・・・作るにも・・・当然CO2を出しているわけだから、ね」と答えた。マイバッグを作るにもコストがかかり、レジ袋無料配布取りやめについて否定的な考え方もあることをHさんは理解していることは次の言葉からも伺える。

 

いろんな学者はおられますよ。今は地球は温暖化に向かっている時期なんだから、CO2が云々ということではないとか。地球そのものが暖かくなっているんだ、どうしようと止めることはできないんだという学者もおればいや、それはおかしい、と・・・ね。(Hさん)

 

Hさんはレジ袋をシンボル的なものとして考えている半面で、有料化に関する様々な意見があることも理解している。妄信的にレジ袋無料配布取り止めを促すのではなくシンボルとして、また意識改革としてレジ袋無料配布取りやめは語られている。事業者側もA社からの回答に「レジ袋無償配布中止の手法の賛否について現在も議論が行われておりますが、論より証拠、まず実践がありきと考えます。」とあり、行政・団体・事業者のそれぞれが地球温暖化とレジ袋の関係性について独自の意見を持っており、画一的な考えから始まったことではないことがわかった。

 

2節 三者間の役割

 

レジ袋無料配布取りやめは事業者、行政、消費者団体が三位一体となって役割分担をし、連携協力してレジ袋削減推進協議会は設立された。しかしこの三者の間では温度差のようなもの、また行政との間に距離があることが高岡市市民協働課のHさんの言葉から伺える。

 

実際にそれは削減推進協議会の活動としてやってやるんじゃなくしてね。市民の会としてやっているという形なんですよ。ここ(市民の会)そのものというのは、実際にアクションを起こすというものではなくして、いわゆる2月の12日からの県民シンポジウムというものをやりましたよね。これはまさにここ(市民の会)がやってるんですよ(Hさん)

 

    3者の中でも事業者は実際に無料配布取りやめを行う立場であるが、客商売であるため、消極的なように思われがちだ。しかし実際県内一斉のレジ袋無料配布取りやめとなると温度差があるにせよ事業者側もかなり肯定的に取り組んでいるように思える。

富山県が3R運動を推進し、循環型社会の実現に向けた取り組みとして「富山県リサイクル認定制度」を実施していて、富山県に認定されたリサイクル製品やごみの減量化・リサイクルに積極的に取り組む事業者、店舗をエコショップとして認定している。またA社、F社はボランタス協同組合という飲食小売業の組合に所属していて、レジ袋削減推進協議会設立以前からかなり熱心な取り組みを行っていたようだ。A社にレジ袋削減推進協議会に加盟した経緯を質問したところ、次の回答がいただけた。「弊社は、協議会設立以前よりレジ袋の削減運動を提唱実施致しておりました。その一環として、加盟するボランタス協同組合において、YesMottainai(環境保全)プロジェクトを同士とともに設立し独自に活動をしておりました。レジ袋削減推進協議会の設立にあたっては、当プロジェクトも積極的に支援をした経緯がありますので、A社としても正式に加盟いたしました。」

A社と同じくボランタス協同組合に所属するC社からは「当社は『ボランタス協同組合』という地元スーパーマーケットの組合に加盟しており、そちらの部分で加盟しました。」という回答をいただいた。

ボランタス協同組合以外のスーパーマーケットはどうかというとB社からは次の回答をいただいた。

「レジ袋削減推進協議会には、富山県のスーパーマーケットの大部分は地球温暖化を迎えて、地域環境保全のために自分たちでやれることはやらなければという使命感から参加しました。その背景には県知事に意欲があったこと、当社についてはエコポイントの付与条件がよいせいかレジ袋辞退者がすでに40%弱に達していたこと(もちろん全国で一番)があります。I社などの県外資本は、県内資本が積極的なので参加してきたようです」

 B社からの回答にでてくるI社というのは全国に展開する大手のスーパーマーケットだ。I社のように本社を他県に持つスーパーマーケットは富山県内のスーパーマーケットが積極的に参加したために、加入したようだ。D社からは「富山県環境生活課よりレジ袋中止の協議会を発足したいから参加の打診があり、弊社としても現在問題になっているCO2による地球温暖化防止及び限りある。地球資源の節約に対し少しでも貢献出来ればと思い参加。」という回答をいただいた。多くのスーパーマーケットが地球温暖化の問題から自発的にレジ袋削減推進協議会に加盟したと思われる。

 以上のことから行政がきっかけおよびまとめ役を果たし、事業者が直接的にそして積極的に無料配布取り止めを行い、団体が事業者の支援を行うという役割分担でレジ袋削減推進協議会が行われているようだ。

 

3節 なぜ県内に一斉で無料配布取りやめを行えたのか

 

 先にも述べたように県内一斉にレジ袋無料配布を取りやめたのは富山県が全国で始めてで、思い切った取り組みだ。協定書を作る時に京都市の例を参考にしたらしいが、京都市のように市町村単位の取り組みではなく県で一斉に行ったのには理由があるとYさんは次のように語った。

 

富山県の場合、コンパクトな県ということがあって(中略)ある市をやって別の市をやらないということになると、車ですぐに別の市に行けるもので、それでこの市でやってて、違う市でやってないと、お客さんが違う店へ流れてしまうとか。それと、県内の事業者さんにとってもある店舗でやってて、別の店舗でやらないとなると、システム的に、オペレーション的に非常に難しいというような意見もありました。富山県が車の保有率が非常に高いということもあって、車でどこにでも行けるだろうということも関わると思います。(Yさん)

 

富山県がコンパクトであり、また車の保有率が高いから、市町村単位の取り組みだと無料配布を行っている市町村に客が簡単に流れてしまう。またレジ袋の値段を店舗毎で自由に決めてしまうと、同じように客が価格の安い店に流れてしまうとの意見が出ていたようだ。

 「レジ袋無料配布とりやめの際にどんな不安があったか」とD社に質問したところ「売上の減少・各社の足並みが揃うか・お客様とのトラブルの発生など」と答えている。B

は「最初はお客様に納得していただけるか不安がありましたが、後で正しいことをするのに多少の反対があってもやむを得ないと考えました。」と回答している。A社からの回答は次のとおりだ。

 

(不安は)ありました。自分より先に相手や次世代の事や地球環境の事を考えられる人々がどれだけいるのか。しかし、社会のムードが2007年あたりより急速に変化し(ゴア元アメリカ副大統領の不都合な真実の放映頃)、特に世代の若い女性の賛同が多く感じられるデータが、ネットの調査やマーケティング誌の調査により解ってきましたので、過度の不安はありませんでした。(A社)

 

 ほとんどのスーパーでは客の理解を第一に心配し、売り上げの減少の可能性を心配していた。本来、事業者間では競争をするものであるが、D社の「各社の足並みが揃うか」という回答から各社間では競争するのではなく、協定して取り組んでいる様子が伺える。

ここで富山県以外でも車の保有率が高く、コンパクトな都道府県があるのではないかという疑問が生まれる。1世帯あたりの車の保有台数が1番多い県は福井県、2番目が富山県、3位は群馬県、4位は岐阜県、5位が山形県である。(2008年 自動車検査登録情報協会より)この中で県内に一斉に無料配布が取りやめられたのが富山県で、岐阜県は平成20年より輪之内町から始まり、2010年までに県下全域にレジ袋無料配布取り止めを行う。岐阜県はコンパクトな県ではないためか、一斉に行ったわけではない。他に平成2041日以降にレジ袋無料配布取り止めを行った都道府県は山梨県で、現在調整中なのは沖縄県だ。山梨県も比較的車の保有台数が高く(全国10位)で県がやはり比較的コンパクトで富山県とよく似ている。コンパクトで車の保有台数が多い都道府県は一斉に行うことになりやすいのかもしれない。

ここまでの分析をまとめると、なぜ富山県が一斉に無料配布取りやめを行えたかというと、一斉に行ったために、客の流れていくのを防いだことが大きい。また地元の企業が積極的に動き、他の全国規模の大手スーパーを含め協定したことや前節で示した役割分担がうまく機能したことも成功の要因であると推察される。

 

第4節           レジ袋無料配布取りやめの拡大と可能性

 

 この節ではレジ袋無料配布取りやめの今後の課題と拡大について述べていきたいと思う。

まずは可能性について述べていく。そもそもスーパーでの無料配布取りやめが比較的容易だったのはもともと客が商品の袋詰めを行っていたことにあるとS店長の「時間にしたら、今までレジ袋入れるので5秒として2000人のお客さんですよね。その分は短縮できると思いますよ。」という話から予想していた。しかしスーパーマーケット各社へのメール回答から様々な話が伺えた。

A社は「一言では答えにくいですが、レジ通過時間だけ捉えると以前より時間がかかっていると思います。但し、その理由はお客様一人一人がお使いになるバスケット・バッグまたその使い方がまちまちなので弊社では出来るだけお客さんに合わせて対応しているからです。もしかしたら、機械的なマニュアル優先のレジから昔風に戻っているかもしれません。」と回答し、B社は「レジはマイバックが多くサッカー(商品の袋詰め→当社指定のマイバックにのみサッカーサービスを限定しておりますが)に時間がかかり、スムーズさはなくなっています。これは企業にとっても経営効率視点から、お客様にとってもレジ待ち時間の増加で弊害です。そこで、マイバックではなくなるべくサッカーサービスの不要なマイバスケットを使っていいただけるように、マイバスケットの原価割れ販売をしたりしています。」と回答している。一方で、D社は「実施前に研修を行った成果により、問題なく流れています」と回答した。

    無料配布取りやめを行ってまだ1年たっていないせいか、レジは混乱している状況にあるようだ。また客もレジ袋を購入する人、マイバスケットを使う人、かごに設置できるタイプのマイバッグを使う人、普通のマイバッグを使う人など多様であり、いちいち対応するレジの難しさをA社、B社の回答は物語っている。

    そうではあるもののレジ袋無料配布取りやめはおそらくスーパー、クリーニング店に留まらずに進むだろう。

    現にドラッグストアも111日から無料配布の取り止めを行った。県環境政策課のインタビュー時点では薬局、ホームセンター、コンビニエンスストアなどでは店員さんが商品を袋に入れるため難しいと言われていた。そのことに関してYさんは次のように語った。

 

今、スーパーさんでマイバッグ持参率が9割近いというような状況なんですけども、ドラッグストアさんとか、あとホームセンターさんコンビニさんとかもそうなんですけど、皆さんそんなに持っていかないと思うんですね。それでその理由を聞いたことがあるんですけども、マイバッグを持っていっても、向こうの方が、お店の人が入れてくれるから、マイバッグは使わないと、言うような意見も非常にたくさんありまして。マイバッグをスーパーだけじゃなくってドラッグストアとかも当たり前に持っていって、当たり前に使うというようなものに定着させる必要があります。それでドラッグストア・コンビニ・ホームセンターなどのスーパー以外の業種さんにもこの取り組みの輪を拡大していきたいというふうには考えています。(Yさん)

 

 スーパーマーケットの持参率は9割近くであるが、富山県環境政策課のYさんへのインタビュー時点(5月中旬)ではホームセンター、ドラッグストアのレジ袋取りやめは難しいとされていた。それはスーパーマーケットはサッカー台(お客様がお買物をマイバック等に詰め替える台)でお客様が実際に袋詰めを行うが、ホームセンター及びドラッグストアはレジで直接店員が詰める形を取る。続けてYさんは語った。

 

ただコンビニさんというと、非常に難しいところがあって、お客さんの層も、学生さんとか、あと、ふらっと立ち寄る方も非常に多くて、なかなかマイバッグというのは持っていきにくいものでして。それとあと、スーパーだと、お買い物をして、サッカー台というところで、商品をマイバッグに詰めるかと思うんですけれども、ただコンビニさんだと、そういった詰める場所がなくて、コンビニさんの業務形態を考えると、マイバッグは非常に使いづらい。もし、マイバッグをもって買い物に行っても、店員さんがその商品をマイバッグに詰めなきゃいけないといった作業があって、レジ袋だと、商品を詰めるのにも慣れてらっしゃるんですけど、マイバッグになると非常にやりづらいと。業務の形態からいっても、なかなか難しいのかなとは考えているんですけど。ただ、そのようなレジ袋減量取り組みの輪は広げたいと、考えておりまして、もちろん、そういった呼びかけは無料配布取りやめの呼びかけは、やっていきたいとは考えております。(Yさん)

 

 ドラッグストア、ホームセンターではマイバッグに商品を詰める際スムーズにできれば輪の広がりは可能であると思う。現に11月からはドラッグストアの無料配布取りやめに成功した。ただしコンビニエンスストアはレジの問題のほかにも課題が多いので、無料配布取りやめはまだ先のことのように思える。

 スーパーでの無料配布取りやめにも1つ課題がある。それは万引きについてだ。

 

富山市に本店のある大手スーパーでは4月から7月にかけて万引きが前年同期比で3割以上増えた。マイバッグを二つ持ち込んだ上で、一方に入れた商品を精算、他方の商品については支払いをせずにレジをすり抜ける手口などが目立つ。あるスーパーは「せっかく始めた有料化自体は良いことで、万引きに影響されてはいけない。自社で私服警備員を増やすことを検討したり、行政の支援を求めたりすることが必要になるかもしれない」と語る。県環境政策課は「事業者からの要望があれば、実態調査を検討する必要がある」と話している。(読売新聞821日)

 

実際に万引きの話をS店長は次のように語った。

 

(万引きは)おそらくあると思います。(中略)今までもあったんですけれども、実際商品持っておられても、袋があったらお買い物された証拠ですよね。今はもうわからないから、そのままレジの後ろに行かれたら、買ったか買ってないのか、声かけたらやっぱり失礼だから、よっぽど証拠がないと声をかけないので、やっぱそうとう増えてると思いますよ。(S店長)

 

 スーパーマーケット各社からは万引きや苦情に関して次の回答をいただいた。D社は「万引きに関しては、万引きGメンの投入数を増やした結果なのか検挙数は増えている。(参考)無料配布中止の実施前にあらゆるトラブルを想定して対策を立てていたが、事前告知が行き届いたのか当日に於いても殆どトラブルは発生しなかった。店頭に置いてある買い物カゴの目減りが昨年に比べ2割増とサッカー台に設置してあるタイミーロール(切り取り用ナイロン袋)の消費は前年の約倍という現象が起きている。」と回答した。D社は新聞記事にあるように私服警備員を増やすという方法を行った。あくまで私の推察であるがタイミーロールの消費が増えたのは、何回も使うマイバッグを汚したくないためビニール袋に商品を入れる人が多いからではないかと思う。

A社は「(万引きは)弊社では目だってありませんが、業界全体ではおきているようです。現在富山県レジ袋削減推進協議会でも、課題の一つとしてこの事に関しても、消費者-行政-民間が協議協力して解決していこうと検討改善がなされております。」と回答した。B社は「苦情はほとんどゼロ、そういう意味では富山県の人はまじめなのだと感じています。万引摘発Gメンを抜き打ちに入れていますが、前年比20%以上増加しているのが実情です。大きな目的のために、小さな副産物があっても止むを得ないと会社としては考えております。もちろん、万引には毅然とした態度で臨みますが。」と回答した。B社も私服警備員を増やしている。自社で私服警備員を増やすという解決策は大手のスーパーならば可能であるが、そうでないスーパーには厳しいのではないかとスーパーマーケット各社の回答から思った。またS店長の話からマイバッグの導入によって買い物済みかどうかがあやふやになったことが伺える。マイバッグを持っている客に店員さんも声をかけにくい状況にあるようだ。スーパー各社からの回答から無料配布取りやめ後のトラブルはあまり起こっていないが、万引きは業界全体で起きておるようである。万引きに関しての行政の支援は必要だと思われる。